兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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○右から左から。

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 シェルティーの仔犬がクンクンと甘えた声で鳴いている。仰向けにひっくり返って、脚を全部ピンと伸ばして、されるがままだ。智也の犬は「プレゼント」を大切に抱え込み、丹念に舐め回した。
「一瞬食っちゃうのかと思った」
 智也がホッとため息を着く。
「平気、平気。αはΩを大切にするものだからさ。こと相手が運命の番ならね」
 えげつねぇ話だ。ああやって親のように面倒見てても、いずれは別の意味で「食っちゃう」んだからなぁ。
 それにしても、何なんだよ。右から左から、ただならぬ圧を感じる。誓二せいじさんと知玄とものりが、俺の頭上で火花を散らしている。やっぱりα同士っていうのは、何もなくてもマウントの取り合いをせずにはいられないのか。知玄、やめとけって。言っちゃ悪いが、お前とあいつとじゃ、座敷犬と野生の狼くらいの実力差があるぞ。
 二匹のαの冷戦のはざまで食う冷麦は不味かった。昔の男と肩を並べて吸う煙草は更に不味い。勘弁してくれ、こっちは避けてるのにわざわざ寄ってくんな。
「何となく、今日はアキに会えるんじゃないかと思ってたんだ」
「あっそ」
 さっきは目の奥に怒りの炎が燃えてるように見えたけど、気のせいだろうか。ごく自然に今まで通りの態度で絡んでくる。そのせいで俺は変な罪悪感に心臓を内側からグサグサ刺される気分。最後に会った時に冷たくあしらったうえ黙って帰ったとか、心の中で勝手に「セフレ」って呼んでたとか、俺なりに思う所あってそうしたんだが、俺が大人げないだけかな? って。
「傷、案外小さいな。もっと大きく残るものかと思ってた」
「勝手に触んな」
「こんなもの、齧り取ってしまえば、」
「触るなっつってんだろ」
「冗談だって。そんなに怒るなよ」
 あんたが言うと、冗談に聞こえない。
「俺の大切なΩに酷いことはしないよ。それに、どんな障壁だって、運命の番の為に必ず取り払われる。俺達は神の寵児なんだ。そうだろ?」
 あったまおかしー。これだからΩ教の狂信者は。そんな宗教、この世に存在しないけど。
 気付けば知玄が、玄関の引き戸の陰に半分隠れて、こっちをジーッと睨んでいた。物凄い圧だ。
 帰りの車の中、たった一分ほどの道中だけど、助手席の知玄はぶすくれて一言も話さなかった。だが家に着くと、
「せっかくの兄弟水入らずだったのに……」
 と言う。お前も面倒臭ぇ奴だな。
「じゃあ、ドライブでもするか」
「ドライブ!?」
「そんで、適当なホテルみっけて休憩」
「やったー!!」
 面倒臭いのに、最強に安上がりかもしれん。煙草をカートン買いしようと取っておいた金は、すってんてんになくなるけど。

「お兄さん、僕、お願いが一つあるんですけど」
 安宿のベッドで、知玄は俺に覆い被さり、神妙な表情で言った。
「なに?」
「僕、お兄さんの声が聴きたいです。気持ちいいときの。家だと、いつも我慢してるでしょ?」
 うーん。場所の問題もあるにはあるけど、それだけじゃないんだがな。少し考えて、俺は言った。
「声なんて、出る時には出るもんだろ。俺が思わずいちゃうくらい丁寧に、やってみれば?」
 どうせで出来っこないだろと思ったら、大変な目にあった。知玄、お前なかなかやるようになったな。
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