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その後の兄と弟。

★お兄さんといいことがしたい!(上)

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※2016年の年末。

「お兄さん」
「なに?」
「僕、久しぶりに、お兄さんといいことがしたいです」
 狭い六畳間いっぱいに敷き詰めた布団に、僕と兄は潜り込んでいる。母は忘年会だかなんだかで出たきり帰って来ない。そろそろ夜九時を回るところ。兄の向こう、布団の端には、はしゃぎ疲れた小さな理仁りひとが、こちらに背を向けて眠っている。
「ね、」
 そっと囁やけば、
「いいことってなに」
 なんて兄はしばらっくれるが、常夜灯に照らされた薄闇の中、いたずらっぽくニヤリと笑った。本当は兄だって僕としたい癖に、いつも僕に言わせようとする。兄はちょっとズルいのだ。兄の身体を抱えて転がし、理仁の方に向かせた。熱くなった僕の身体の芯を、兄の太腿の後ろ側に押し当てる。
「なに、やりてぇの?」
「はい、お恥ずかしながら」
 兄の肩が小刻みに震える。くっくっと兄は声を押し殺して笑う。
「全然、恥ずかしそうじゃねぇ」
「ね、いいでしょ?」
 腕の中にすっぽり収まった兄の身体を、ぎゅっと抱き締める。兄はこちらに背を向けたまま、すこし「うーん」と唸っていたが、
「ちゃんと避妊してくれるなら」
 と、やっと許可を出してくれた。
「勿論、お任せください! ちゃんと用意しときましたから」
 僕は枕の下に隠しておいた避妊具を取り出し、兄に見せた。
「よく温まっているので、冷たくなくて快適かと思います」
「バッカ……」
 兄はまた、くっくっと肩を震わせた。
 避妊具を一旦枕の下に戻して、僕は上半身を起こし、兄の頬と敷布団の間に手を差し入れた。兄の顔は相変わらず小さくて、僕の掌にすっかり入ってしまうほどだ。
 頬をぐっと支えて上向かせる。僕が顔を近づけると、兄は躊躇いがちに目を逸し、そして瞼を閉じた。
 最近、兄は色んなことに自身がないのだ。たとえば、近頃はあまり歯医者に行けていないから、歯と歯の間に歯石が溜まって息が臭いと思うとか。たとえば、もうすっかりオジサンだから、きっとΩの匂いよりもオヤジ臭の方がキツく臭っているはずだとか。そんなどうでもいいことを気にして、僕とのスキンシップに消極的になっている。
 兄の唇を舌で割り、押し開いて、深く口づける。奥歯から丁寧になぞり上げる。角度を変えて、何度も何度も口づける。ほら、お兄さんの気にしていることなんか、気のせいにすぎないんだから。唇の端から溢れた唾液だっって全部舐め取ってしまう。首筋に鼻面を埋めて、耳の後ろの匂いを犬みたいにクンクン嗅ぎまくる。あー、お兄さんの匂い、やっぱりいい匂いだぁ―。
 服の上から兄のものを撫でる。口ではやる気のなさそうなことを言うけれど、もう芯がちゃんと通っていて、掌でなぞり上げれば、ひくりひくりと蠢いて、硬度を増す。
 布越しにごしごしとよく擦ってから、下着の中に手を入れる。蒸れて温かい空気が籠もっている。根本から先端まで繰り返し繰り返し、動物の背中の毛並みを撫でるように撫でると、やがて先端が潤んできた。
 兄を仰向かせ、ズボンと下着を膝下までおろす。僕は布団の中で下半身を裸にし、ごそごそと移動して兄の上に乗り上げる。そして、兄のものと自分のものをぴったりと押しつけて、二本一緒に握り込む。僕のはもう先走りをしとどに溢れさせている。それを僕のものと兄のものに塗りたくり、塗り拡げて、互いを擦り合わせる。ぐちょぐちょと卑猥な音がする。
 腰を動かしながら、左手は兄の右手に繋ぎ、唇や首筋のつがいの証に口づける。僕のものも兄のものも今にもはち切れそうなほどにパンパンになった。僕は兄の唇から唇を離した。唾液が細い糸となって僕の唇と兄の唇とを繋いでいたが、すぐにふっつりと途切れて消えていった。
「お兄さん」
 弾む息をそのままに僕は言った。
「僕もうお兄さんの中に入りたい。入ってもいいですか?」
 こくりと首肯く、兄の頬が色づいている。僕は感謝の口づけをして布団を這い出し、枕の下から取り出した避妊具を身につける。粘液に濡れた右手で避妊具の表面を触らないように気をつけつつ慎重に、根本までゴムを引き上げて覆う。
「どの体位がいいですか?」
 そう問えば、予想通り兄はごそりと寝返りを打ち、こちらに背中を向けた。
「後ろから抱え込んで突くやつ」
 僕は兄の背に身を沿わせて抱いた。臀部の割れ目に僕のものを挿し込ませる。先でトントンと数回ノックするように兄の入り口をつつき、そして一息に突き挿れた。
「んっ……」
 兄の背中が強張る。馴らしていないのに、兄の中は柔らかく熟れていて、僕がゆっくり二三度腰を振ると、兄の背中の緊張も解けていった。後ろから兄の顔を覗き込み、口づける。薄暗い黄色い光に淡く照らされた室内に、ちゅっちゅっと湿気った音が満ちる。花開くように、兄のΩの香りが溢れる。夕焼けの匂い、季節外れの桜の匂い。しばらくは兄を攻めることをせず、堪能する。
 兄がこの体位を好きなのは、これだと身体の角度的に、僕のものが奥深くに、兄の胎内のΩの内性器に続く道に入りづらいからだ。ちゃんと避妊具を着けていてさえ、兄は少し怖がる。奥深くまで挿れられて、もしも万が一のことが起きてはと。
 僕としてはそれはそれで全然構わないと言いたいところだけれど、お金はどうにかなるにしても、やっぱり子供を産むということはΩにとっては命懸けな訳で。兄が理仁を出産するのに立ち会った時のことを思い出せば、確かに軽率なことはできないにしても……。
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