兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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その後の兄と弟。

☆もしもはもしも。(下)

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「ほらチビ助、おっぱいだぞ」
 チビ助は足をじたばたさせながら乳首に吸い付こうとするが、焦れば焦るほど顔が乳首から遠ざかっていく。俺はチビ助の後ろ頭を掴んで、半ば無理やりチビ助の顔を乳に押し付けた。チビ助はやっと乳首を見つけると、ぶつくさ文句を言うような声をあげつつ、吸いはじめた。とぷっとぷっと規則的な音が鳴る。
「想像してたのと違うな。カツオ獲ったぞー、って感じだ」
 確かに。チビ助は、全身を床と水平にピンと伸ばした格好で俺の胸に顔を埋めている。この授乳スタイル、思ったよりも母子感がないと俺も思う。助産師は、この姿勢が理想的だという。乳首が捻れないから、乳腺炎になりにくいんだそうだ。
「ケーキ、あーんしてやろうか?」
「えっ、いいよ」
 思わず、嫌だという気持ちを声と顔で全力で表現してしまった。我ながら、恩知らず過ぎる。誓二せいじさんには、うちの会社の倒産手続きの際に、さんざん世話になったんに。
 誓二さんの手がのびてきた。ガキの頃のように、髪をわしゃわしゃと掻き回された。
「これで良かったんだなって、思うよ」
「出たよ、あんたのヘンなポジティブシンキング。変わんねぇな」
 過去のどんなに辛く悲しい出来事も、未来の幸せのためにあったと思えば、宿命さだめだったと諦められる。この人は昔から、そういう考え方をする。ほとんど狂気じみているほどだ。でも今となっては、俺もちょっと、分かる気がしないでもない。
「さて、そろそろ行こうかな。あまり遅くなるとカミさんが心配するし、お前の番も俺がいちゃあ落ち着かないだろうしな。じゃあな、アキ。無理せずに、身体をちゃんと休めるんだぞ」
「うん、ありがとう」
 誓二さんが立ち上がり、カーテンを開けると、そこには知玄とものりが情けない顔をして立っていた。

「お前、会社はどうしたん?」
「二週間ばかり、休みを取ることにしました。社員のみんなに叱られちゃいまして。『社長! 今、側にいてあげなかったら、パートナーさんに一生恨まれますよ!』だなんて。もともと、通常業務は僕が不在でも回るようにしてありますからね。どうしても外せない用件のある時だけ、東京に戻らなきゃいけないですけど」
 知玄はチビ助を左手に抱っこしてあやしつつ、右手で器用にミルクを作る。おかげで俺は食べかけだったチーズケーキをゆっくり味わうことができた。
 隣の奴は、少し前にシャワーを浴びに行った。だからこの部屋は、今は俺と知玄とチビ助の、家族水入らずだ。チビ助にちょっと愚図られても、慌てることはない。
「お兄さんがそんな風に僕を恨んだりしないというのは、知っています。でも、頼みの綱がお母さんでは、心配ですからねぇ」
 知玄は哺乳瓶を回しながら言った。
「あぁ、ぶっちゃけお前がいてくれると助かる。母さんに何か頼むと『えー、めんどくさーい』って断られるもん」
「だと思いました。あ、頼まれたもの、持ってきましたよ。洗濯ばさみと毛布、そこの紙袋に入ってます」
「悪いんな、ありがと」
 俺はテーブルの上を片付けて、知玄が持ってきてくれた紙袋の中身を出した。あり合わせのもので良かったんに、知玄はわざわざ新品を買ってきてくれた。だがその方が、看護師に見つかった時に不潔だなんだと文句いわなさそうで、いいかもな。
 しばらく知玄が手伝ってくれるなら、何とかなりそうだ。知玄には知玄の生活があるのに、俺の為に時間を使わせるのは、気が引けるけど。
「さぁ、ミルクが出来ましたよ。たっぷり飲んでくださいね」
 知玄がチビ助の口元に哺乳瓶を近づけると、チビ助は首を左右に小刻みに振りながら、ゴム乳首にふるいついた。チビ助は腹減らしだが、口に入れば母乳でもミルクでもどっちでもいいらしいので、助かる。
 知玄の持ってきてくれた毛布を、ベッドの柵に横長にかけて洗濯ばさみで留めた。これでチビ助をベッドに寝かせても、柵の隙間から落としてしまう心配がなくなった。
 一安心したら、急に眠たくなってきた。夜泣きに備えて、ちょっと休んでおくかと思い、ごろんと横になった。
「お父ちゃんはおねむの時間です。でも理仁りひとの相手はこの知玄がしてあげますから、いい子にしていましょうね」
「名前決めたん?」
「はい。道理に明るく情け深い、僕らの光の理仁くんです。いいでしょ?」
「うん、すごく良いと思う」
 知玄と話し合って、うちには父ちゃんとばあちゃんとチビ助改め理仁しかいない、ということにした。そして、東京には知玄、天国には姉ちゃんとじいちゃんがいる。それが理仁の家族だ。普通じゃない家族だけど、普通じゃないからこそ、理仁は生まれた。
 夕焼けの光がカーテンを透かし、室内は金色の光に満ちている。変な歌をうたいながら理仁をあやす知玄に、後光が差して見える。
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