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5話 探索者ってなんだっけ
しおりを挟む幕張ダンジョンに初めて入ってから一週間。 午前中は宿題、正午から砂浜でスイミング、夕方からよる10時までアサリとハマグリを採取&調理して、晩飯もそこで過ごす内に、顔馴染みも出来ました。
忍者服は暑かったのと、顔馴染みが出来た事で姿を誤魔化す必要性も無くなり、今はカッターシャツを羽織って、麦わら帽子に潮干狩りのバケツを持ってレベル上げに勤しむ日々。
休憩中の職員さん達と浜辺で砂に埋められて遊んだり、バーベキュー等を楽しんでいると、レベルは上がらないものの、忍術の土遁、火遁を覚えました。
覚えたのは良いのですが、使う場所というか……、未だに二回層より下に潜る事は禁止されてまして、使えないといった感じです……。
一度他のモンスターとも戦いたいと職員さんに言ったところ、
「大樹くん、探索者っていうのはチームを組んで下層に行くの! 友達とか作ってからじゃないと、認めませんからね!」
と、言われてしまいました。
なので、野良パーティでも良いから二回層入り口で相手を探したんですが……
「え? パーティ? いや、俺今からアサリ採りに行かなきゃだから無理かな?」と、断られたり。
「狩り? んー。 今から雲丹採りに潜らなきゃいけないの……ごめんね?」
と、断られたり。
「千葉県のダンジョンに狩りなんて行くやつは来ねーよ? この辺りは海産物の宝庫だから、兼業探索者しか居ないよ」
と、ダメ出しされたりと……。
で、ちょっと色々調べた所、幕張ダンジョンは主に貝類、蛸、海老、雲丹等のモンスターしか出ない事が分かり……。
他にある元銚子港犬吠埼ダンジョンは魚系。 旧館山市鋸山ダンジョンは山菜やら茸やらの植物系で、どこも食用系しか出ない事で有名なんだとか……。
想像してた手強いモンスターと命の賭け合いをしながら、自己を鍛えていく様なファンタジー展開には成らず、探索者とは?っと、日々思い悩む日々……。
「何か想像してたのと違うなぁ」
と、愚痴をこぼしてたら
「働くっていうのはそんなもんだよ」
と、訳知り顔の漁師兼探索者の方に言われてしまいました。
地球規模の大震災が起こったお陰で、海辺にあった大都会等は軒並み水没。
海抜三m以下の土地は海の底となり、東京や千葉等の地形もまた、大きく姿を変えた。
海岸線が全て旧市街に変わった事で、砂浜は減少、漁船は複雑に成った海流により出港出来ず、海から見放されたと人類は思っていた。 しかし、海辺に出来たダンジョンに潜ったところ、砂浜が存在する事を発見した後、漁業を生業としている方々が中心となって、探索者となって食料自給率の向上に成功したって過去録もある。
「……つまり、海の近くにしかダンジョンの無い千葉県は、海産物の宝庫だと言う事が分かり、それ以降ダンジョンへ潜る奴等は殆どが漁業関係者か料理人……てことか」
──都内の海上都市にダンジョンあったっけ? と、調べたけど……狸を認知してない探索者が多過ぎて、討伐され兼ねないという事で、禁止されてるし。
肉系ダンジョンのある県は同じ理由で禁止……。
現状潜れるのは、千葉県内と……旧築地市場ダンジョン。
水没した場所の一つで、あまり人気がないから忘れていたけど、船が千葉からも出てたな。と、思い出したので千葉からも近いし、行けるかも!っと、思ってたら。
「絶対やめときな! 後悔するよ⁉」
と、口々に言われた。
何故と聞いても顔を青くするばかりで誰も教えてくれない……。
これはファンタジー系モンスターが居て、嫌悪してるってこと?
「やる気出て来た!」
そう思って色々準備して夜中にコッソリムンキーに乗り込んで出掛けようとしたら、駐輪場に置着っぱなしになってたバイクが無くなってて、涙目になりながら深夜から働く職員さんに詰め寄ったら、職員専用車庫に止めてありました。
錆びたら可哀想って事で気を使ってくれたみたいです。で……
コッソリ出掛けようとした事がバレまして、いま説教を受けてる所です……、
「大樹くん? 貴方がレベルをあげたい気持ちはわかってるけど、克服しなきゃいけない事あるよね?」
「……はい」
「それをちゃんとしない限りは、幕張ダンジョンに留まるって事も約束したよね?」
「……はぃ」
「克服出来たの?」
「……まだです」
「……死にたいの?」
「死にたくないです……」
「だったら! ちゃんとしなさい!」
っと、机をバーン!と叩いた瞬間、その音で俺は固まり、暫くその状態のまま放置されました。
狸に成ったお陰で忍術との相性も良く、遁術も覚えやすくなったのは良かったのですが、何故かデバフみたいな物まで現れてしまい……。
少し怒られてはビビって固まり、後ろで物音がする度に驚いて固まるという謎のデバフのせいで、ソロ狩りは絶対出来ないという……。
これは種族特性に分類されるもので、夜目が効くというのと同じだそうです。
狸は元々臆病な性格で、車のクラクションを鳴らされた狸がその場から逃げずに固まってたりするんで、克服する以前の問題だったんですよね……。
つまり、狸である以上避けられない事案と言う事で……。
「今日も今日とて明日も知れず~……」
と、口ずさみながらハマグリを浜辺で焼いてた所、同情されたのか遁術を使わせてくれるそうです。
この覚えたての火遁術ですが、ちょっと不穏な響きのある術名があったんで、禁止されてたんですよね。
土遁は瞬時に砂に潜る術だったので、安心して鬼ごっことかで使ってたんですけど、火遁に関しては『火遁業火滅却大延焼の術』って、書いてありまして……。
それを教えたら危険って事で使う場所が無かったんです。
で、色々手伝ってくれる人達が居まして、深夜に行う事と二階層三階層の各出入口を封鎖して、フロア内に俺だけ残し、他の人は階段内で待機って事になりました。
「大樹くん! 唱えたら直に階段に避難するんだよ!」と、耳に蛸が出来るくらい言われましたので、二階層から降りたすぐ側でやります。
各階段で待機してる人達の合図を確認した後、「行きますよー」と、言ってから深呼吸後に
『火遁! 業火滅却大延焼っ!』
と、唱えたら砂浜に炎がボッ!っと、上がりまして、その炎があっという間に砂浜全体を覆ったと思ったら延々と燃え続けてるんですよ……。
で、勿論俺は直に階段に駆け込んで避難したんだけど、砂浜に潜んでた貝類が全て焼き貝になる迄燃え続けたお陰でレベル酔いを起こし、昏睡状態に陥りまして四日間程眠ってたようです。
で、先程目を覚ましたところ
「絶対禁止!」
と、成りました……。
しかも、それが元で更にパーティに誘ってもそそくさと逃げていく人ばかりに成りました。 理由を聞いたら「フレンドリーファイヤーが怖い」って事でした。
何度も使わなきゃ大丈夫!と言ったんですが、危機的状況に陥った時は違うでしょ?っと、言われたら何も言い返せませんでした……。
必然的にソロ狩りが決定したんですけど、ビビリ耐性を何とかしないと無理だし……完全に詰みです。
しかし! 探索者を辞めるという判断は出来ないんですよね。
探索者辞めても他の就職先を考えたらふれあい動物園か誰かのペットくらいしか思い付かないし……で、結局浜辺でアサリの酒蒸しを作りながら、
「今日も今日とて明日夜も知れず~……」と、歌ってました。
そんなある日、小鳥遊姉が珍しく訪ねてきまして、助けてくれっていうんですよ。
「大樹くん! 君しか解決出来ないんだ!」
そんな事を言われたら、力になりたい!って、思いますよね?
俺も思いました、なので
「俺に出来る事ならやります!」
っと、理由も聞かずに了承してしまい……。
次の日に小鳥遊姉が鎖に繋がれて檻に入れられたままの妹を俺の部屋に置いていったんですけど。
これは如何しろって事なんですかねぇ……。
え、これを助けろ?
ははは、無理無理。
「返品で!」
言ったところで、無理でしたけど……。
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