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7話 Gの天敵

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 大樹の唱えた火遁は、6階層の隅々まで行き渡り、炎から逃げようとしたGの集団によって鉄瓶となった大樹は中央付近まで運ばれた。

 炎から逃げようと鉄瓶の下に潜って行こうとした為だ。
 レベルアップ酔いのお陰で、意識を失い眠り続けたお陰でパニックには成らずに済んだ大樹であったが、もし眠れていなかったら大惨事になっていた事だろう。

 しかし、大樹の不幸は続く。
 

 『う……ん?』

 レベルアップ酔で寝ていたようだ……が、何かおかしい。
 意識をクリアにして耳を澄ます。











 カサカサカサ カサカサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサ カサカサカサ
 カサカサカサ カサカサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサ カサカサカサ
 カサカサカサ カサカサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサカサ カサカサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサカサ カサカサ カサカサカサ カサカサ カサカサカサ…

 『ギャーッ⁉ なんでまだ居るのーッ⁉』


 最早合唱となったカサカサ音に半ばパニックに陥った大樹は、鉄瓶の姿のまま火遁を唱える。

 『か、火遁業火滅却大延焼ッ‼』

 Lvが上がったお陰で、意識を失う事は無かった大樹であったが、炎から逃げ惑うGが波の様に自分に向かって走ってきた姿を見てしまい、意識を再び失った。

 Gの波は鉄瓶となった大樹を浚い、5階層入り口の階段まで押し上げ、そのまま炎の海に飲まれて消滅し、その六時間後……

 「う……波が……黒い波が来るよぅ!」

 という寝言と共に汗をびっしょりかいて目が覚める大樹。

 シーンと静まり返り、何の音も聞こえない事に気が付いた大樹は、フラフラとした足取りで階段へと向かう。

 「……婆ちゃん?」

 階段に戻った大樹は祖母の姿を探したが、見当たらない。

 5階層にでも行ってるのかと思った大樹は、狸の姿のままネズミの蔓延る5階層に足を踏み入れた。 その瞬間、矢が地面に刺さる。

 「うわっ⁉ 狸⁉ え、何⁉ エリアボス⁉」

 という声がしたので、驚いて固まった大樹であったが、身の危険を察知して無理矢理体を動かして逃げる。

 その姿をエリアボスが出たと叫んだ者達が追いかけ、逃げ惑う狸を目撃した者も後に続く。
 百鬼夜行の様に連なって走る集団の先頭に成りながら、声にならない叫び声で必死に助けを求める大樹だったが、当然誰にも聞こえない。

 逃げ込んだ先が行き止まりだった事で、追い詰められた大樹だったが「ど、土遁!」と、唱えた事で難を逃れる事に成功した。

 エリアボスはどこに消えた!と、殺気立った面々は暫くその場を探していたが、諦めて帰る者達がチラホラと現れ、そのうち誰も居なくなった。

 それでも大樹はそこから動けず、『婆ちゃんどこいったんだよぉ』と、シクシクと泣くのだった。

 旧築地市場ダンジョンにエリアボスが現れたという一報は、たちまちの内に各ギルド支部に届き、ここ幕張ギルドにもその一報が届く。

 「旧築地市場ダンジョンに狸のエリアボスが現れたっ⁉ ちょっと、それって……」

 当然驚いた職員達はすぐ様動き出し、狸の救出に向かう班と連れて行った遠峰の婆さんに事情を聴くために向かった班とで別れ、業務を一時停止してこれにあたる。

 旧築地市場ダンジョンは一時的に閉鎖、幕張探索者免許センターも一時停止、狸に成った大樹を安全に運ぶ為に用意された護送車と、旧築地市場ダンジョンから幕張探索者免許センターまで続く道程も閉鎖された事から、そこら中で大渋滞を引き起こし、大パニックにまで発展していった。

 一方、大樹はというと足音も人の気配もしなくなったので土遁を解いて5階層の中を歩き回っていたが、4階層からの大勢の足音が聞こえてくると、慌てて6階層へと逃げ込んだ。

 4階層から降りてきたのは大樹捜索隊の面々だった。

 「大樹くーん!」
 「大樹ーっ!」

 と、職員達は大樹の名を叫びながら5階層を探し回ったが、見付からず6階層へと隠れていると予想し、階段の上まで来ては見たがこの先に居るのはGであるので、一瞬躊躇った。

 「こ、ここは男性が行くべきでは?」
 「え? いやいや、みんなで行くべきでしょ?」
 「いやいや、流石にここは男性が行くべきでしょう」

 「いやいや」「いやいやいや」

 と、お互いが押しつけあって1歩も先には進まなかった。

 その話し声は6階層に逃げていた大樹の気配察知に引っ掛り、大樹はここまで降りてくるかも⁉っと悟り、7階層へと足を踏み入れた。

 6階層こそ1匹もリポップしていなかったGだったが、7階層では子犬ほとのGがそこかしこでカサカサカサと足音を響かせており、その音を耳にした大樹は再び火遁を唱えて茶釜へと変身し、再びレベル酔いで気を失うことになる。











 6階層へと降りる階段の上で誰もが押しつけあっていたが、埒が明かないので仕方なく男性ギルド職員達がビクビクしながら大樹を探しに6階層へと足を踏み入れたのだが、Gが1匹も居ない事を確認し、一人だけ女子職員達を呼びに行かせて残りの職員たちで手分けして大樹の名を叫びながら方々を探したが見つからなかった。

 「ねぇ……もしかして7階層に行ったってことは無いわよね?」

 そう呟いた女子職員だったが、6階層のGが1匹も出て来ない事で大樹が何かをしているという事を察し、7階層の階段の上まで向かう。

 意を決して男性ギルド職員達が7階層へと足を踏み入れてみれば予想通りGの気配は無かった。

 女子職員達を呼び集め、大樹の名を叫びながら捜索しようとした時、茶釜が一つ落ちているのを発見する。

 「何でこんな所に鉄瓶が?」
 「ドロップかしら?」
 「鑑定に一応持っていくべきでは?」

 誰かの意見に賛同し、茶釜と成って意識を失った大樹を幕張探索者ギルドへと移送し、残った者達で7階層を捜索したが、大樹は見付からず8階層へと男性職員が向かう。
 そこには座布団くらいの大きさのGがそこかしこに蔓延り、ガッサガッサと音を奏でていた為、男性職員は足早に階層を後にした。

 結局大樹は見付からなかった事で一時退去し旧築地市場ダンジョンは引き続き閉鎖されたまま大樹捜索隊の面々は幕張へと戻った。

 「で、結局見付かったのはこの変な鉄瓶だけだったと……?」

 ギルドマスターの部屋の机の上に置かれた鉄瓶を見ながら職員達は俯く。
 大事にした事で、各地のマスコミが騒ぎ出し説明を求める声で幕張探索者ギルド前は騒然としていたからだ。

 「如何しますかギルマス……大樹君の事公にしますか?」

 不安そうに尋ねる職員達を頭を抱えて唸るギルマスだった。

 説明しても良いのだが、肝心の大樹が見付からないのでは、信憑性に欠けるのでマスコミに何て話せば良いのか分からないでいた。

 しかしその時、机の上に載せていた鉄瓶が動き出し、元の姿へと戻る。

 「「「大樹⁉」」」

 「あ、え? 皆さん⁉ あれ? ここは……」

 漸く意識が戻った大樹は茶釜を解いて元の姿に戻ったのだった。

 そして、何故旧築地市場ダンジョンへ潜っていたのかの説明をし全員から怒られた後、狸の姿に成った経緯をマスコミの前で発表する事になったと告げられた大樹はショックで固まり、小一時間動けなくなるのだった。



 現在の大樹のステータス
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 名前 遠峰大樹
 年齢 16歳
 職業 探索者Lv8→Lv27
 状態 狸固定
 スキル 
 【忍術】Lv3→Lv5
 ☆土遁 土潜りLv4→Lv6
 ☆火遁 火遁業火滅却大延焼Lv3→Lv5
 ☆水遁 素潜りLv1
 ☆如意棒
 ユニークスキル
 【獣化】
 狸Lv3
 ☆信楽焼
 ☆文福茶釜
 【称号】
 Gの天敵←new!
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