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いざ安住の地へ

<家> 商人の恐ろしさ

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『それにしても、まさか本当に買ってくれるとはな』
「迷惑だったかな?」
 
 私の呟きに返事をする男。
 しかし迷惑なんてことはない。
 むしろクーリングオフされたら迷惑だ。
 クーリングオフってなんだっけ?
 
『そんなことはない。むしろもう逃がさん』
「あははは。凄い勢いだったもんね、買うって言った時」
『それはそうだ。売れなかったらあの商人の奴が何をやってくるかと思うと』

 あの商人はおかしい。
 この私を超える魔力……。
 よく考えたら絶対おかしいよな。
 私は人間と比較して相当強いはずなのに。
 実は神様とか言われた方が納得できる。
 なんなんだろうか?
 召喚されたとき以来、あの神様とは会っていない。
 あれはもう……どれくらい前だっけ?
 ここに来たのが700年前らしいから、その倍くらい前かな?
 
 まぁいい。
 買ってもらえたからもう関係ない。
 あとはこのお坊ちゃんを離さないことが重要だ。
 ……。
 といっても何をすればいいんだろうか。
 まずはじめにやることは……?
 洗脳じゃないことは確かだよな?
 ……ダメかな?

「僕はフィン。よろしくね、家さん」
『あぁ、よろしく。私は家だ』
「あはははは、そのまんまだね」
 洗脳してもいい気がする。
 ちょっと……。

 いや、やめておこう。
 こいつ貴族っぽいしレジストされると面倒だ。
 
「僕はこの辺りに拠点が欲しかったからちょうどよかったんだ」
 私が黙っていると、こいつは話し始めた。
 喋る家がちょうどいいとはどういうことだろうか?
 なんか追われていたし、面倒なのは勘弁してほしいのだが。

『お前は貴族だろう?どうしてわざわざ平民街に拠点を作るのだ?』
 あきらかに身なりはいい。
 わざとお古を着ている感じだ。

「バレバレだったかな?少し……貴族街には居ずらくて」
 
 言い淀んでいたが何か問題があるのだろうか?

「ちょっとお家の事情、でね」
 
 なるほど。
 十中八九、家督争いとかだろうな。
 まったく人間は。
 矮小な分際でよく争うものだな。
 竜ほどとは言わんが、もう少し落ち着きを持ってほしい。

「兄が病気でね。僕は継ぐ気はないんだけど継承権を手放してしまうと母や支えてくれる人の立場が悪くなるからそれもできなくてね」
『それだと誰が継ぐんだ?』
「弟がいるんだ。彼は継ぎたいらしくてね。彼じゃなくてその母親や親戚が継がせたい、かもしれないけど」
 なるほど、ややこしいな。
 異母兄弟というやつなんだろうか。

『それで狙われているのか?』
「そうじゃないと信じたいんだけどね」
『無理があるだろう。他の理由もあるのならまだしも』
「あるかもしれないじゃないか」
 ないだろう。
 見た目がいいわけではないし、魔力が高いとかでもない。財力はわからんけど。

『それで、こんなところに家を買って何がしたいんだ?』
「とくにこれといって何かあるわけじゃないんだけど」
『ないんか~い』
「えっ?痛っ」
 思わず風魔法を使ってフィンを軽く叩いてしまった。
 そこは自分の部下を集めて計画を実行したいとか、兄貴を治すための研究がしたいとかだと思うだろう、普通。
 
 涙目になっているフィン。
 そんな目で見ても私の中には何も目覚めないぞ?

「どういう仕組み?なんか叩かれたんだけど」
『私が叩いた……というか突っ込んだのだ』
「なんで?」

 理解していない様子のフィン。

『わざわざ平民街に家を買ったのになにもないとは……』
「だって。とりあえず家を出たかったんだ」
『親は心配しないのか?』
「ちゃんと報告すれば別に問題ないと思う。外で拠点を作ることは許されているから」

 そうなのか。
 貴族というのはそんなものなのかな?

『ではちゃんと報告するのだぞ?』
 私のために。
 いきなりいなくなったりされては困る。

「もちろんだよ。というか、買ったけどずっと住むことにはならないと思う。当分の間は行き来すると思うからよろしくね」
『わかった。だが、決して売ったりするんじゃないぞ?』
「あはははは。わかってるよ。もし何かあったら言うからね」
 こいつのこの軽さはなんなんだろうか?
 お家騒動の渦中にいたらもう少し悲壮感にかられてそうなのに。
 命を狙われているのにこの感じはおかしい気がする。
 まだ精神的に子供だからか?
 まぁいい。
 私を手放さなければいいのだ。
 むしろいない日が多い方が楽でいいな。
 
『あぁ、ちゃんと念話を切って聞くよ』
「えっ?念話を切っちゃったら僕の声は聞こえないんじゃ?というかそもそもこれ念話なの?」
『もちろんだ。お前はどうやって私と会話していると思っていたのだ?』
 やはりこいつは抜けている……というか軽い。
 気楽でいいな。
 
「そりゃ、考えれば確かにそうだけど、家が念話を使うなんて思ってもみなかったよ」
『そこら辺のお家と一緒にするんじゃないぞ?』
「さっきの叩かれた仕組みといい、念話といい……そもそも襲撃者をあっさり撃退しているし、家さんは高性能だね。っていうか、襲撃者は?」
『商人が出ていくときに持ってったぞ?今頃は……ナムナム』
「ナムナムって何?怖いから!」
『世の中にはお前がどう思おうが仕方がないことがあるんだ』
「なんかものすごく釈然としないけど、わかった」
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