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第16話 イライラ
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私たちは道中、特に何の事件もなく帝国に辿り着いた。
そして帝国外交官の歓迎を受け、用意されていた邸宅に入った。
それから、あっさりと1週間が経った……。
「さすがにこの対応は失礼なのではないでしょうか?外交官たちは何をしているのでしょうか?」
「まぁまぁ、落ち着いてほしい、ルイン伯爵。帝国は帝国で大国の矜持があるのだろう」
むぅ……。
だからと言って遠方から来た客をただただ待たせるのか?
目途も知らせず、初日以外に目立った歓待もせずに?
「今回の我々は無理を言って訪れたのだ。すぐに面会の機会が得られるとはそもそも考えていない」
「はい」
第二王子は落ち着いていた。
こう見るとアホ王太子とはえらい違いだ。
背筋はピンと伸び、美しい所作で腰を下ろしている。
まさか第二王子不在の間に王国内で事件を起こすとか、そっち方面の企みだったとか?
でも、特にセバスチャンからの報告にも目立ったものはない。
帝国も、王宮も、王太子も、なにを考えているのかよくわからない。
焦りというか苛立ちを感じてしまう私が未熟なのだろうけど、慣れないのよ……。
こうやってただ待つのは嫌い。
時間を無駄にしている気がする。
早く魔族の安住の地を見つけなければいけないのに……。
「気晴らしに街を見て来てはどうだ?」
鬱屈した気分に浸っていた私に第二王子がそんな声をかけてくれた。
それは少し興味がある。
ここは人間だけではない多民族の国家である帝国だから。
どのように人々が暮らしているのかには興味があった。
「ありがとうございます。行ってみたいですわ」
「エルンスト殿、頼めるだろうか」
私が少しだけ表情を明るくして答えると、第二王子も表情を崩して控えている帝国側の外交官に声をかけてくれた。
「もちろんです。皇帝陛下よりクリストファー王子以外の方が街に出ることは自由にして貰って構わないと言付かっております」
なかなか太っ腹な皇帝様のようね。
使節団の代表者であり王族であるクリストファー王子が自由に動くのは警備面からして難しいでしょうけど、それ以外は自由なんて言われるとは思わなかったわ。
「それはありがたい。では、ルイン伯爵。行ってきなさい」
「はい。そのクリストファー王子。ありがとうございます」
そうして私は街に繰り出した。
帝国は案内人を一人付けてくれた。
「ここが帝都の一般市場でございます、ルイン伯爵」
「なんて大勢の人がいるんでしょう。しかも、様々な種族の方がいらっしゃいますね」
まず最初に連れて来てくれたのは恐らく平民が集まる市場だった。
多くの商人が店を連ね、その何倍……いや、何十倍何百倍もの人たちが集い、忙しなく動き回っている。
帝都の賑わいが感じられるとともに、獣人だろうが、樹人だろうが受け入れる帝都の懐の深さが感じられた。
ここならもしかしたら魔族も受け入れてもらえるかもしれないと、そう感じられるほど新鮮な光景だった。
こういう賑やかな場所には人族しか入ることはできない王国とは真逆だった。
「帝国は武力で戦乱地帯を制圧して成り上がった国です。その過程で様々な種族と複雑な関係を築いて来ましたが、結果として今の帝都はこのように多種族が入り乱れる世界でも珍しい場所となっています」
外交官は淡々と説明してくれる。彼は私が魔族の長であることを知っているのでしょうね。
「街中で争いが起こるようなことはないのでしょうか?いえ、申し訳ありません。不躾な質問でした。皇帝陛下の手腕が優れているということでしょうね」
「争いはなくなりはしません。ですので、帝都中に警備兵が巡回しています。ただ、ここで争うのは割に合わないことが多いのですよ。重い罰則がつきますから。人を集め、賑わいを生み出し、活力ある都を作る。法令を敷き、罰則もしっかり設ける。それも含めて皇帝陛下は素晴らしい統治をしていると感じています」
皇帝というからにはもっと自分勝手というか、横暴で独裁的な人物を想像していたけど、その統治は理知的で、はっきり言って好ましいものだった。
アホ王太子がもし国王にでもなったら、こことは真逆の恣意的な政治をすることが目に見えている。
口数は多くないものの、いろいろ考え、たまに質問したりしながら帝都の名所を案内してもらった。
どこへ行っても様々な種族が活発に動いていた。
「今日はありがとうございました。良い気分転換になりました」
その後、市民が暮らす家々を眺め、食事処で腹を満たし、商業区で買い物をし、最後に城壁の上から帝都全体を眺めた後、滞在している邸宅に戻ってきてから私は姿勢を正して案内してくれた外交官に素直に礼を言った。
「気がまぎれたようで安心しました。待たせているこちらの責任ではあるので、申し訳ないですが、どうか帝都をお楽しみいただけますように」
そうして私は外交官と別れて邸宅に入った。
「お帰り、ルイン伯爵」
「ただいま戻りました。クリストファー王子」
戻ってきた私を出迎えた王子は心なしかソワソワした雰囲気を纏っていた。
カリカリする私が散歩に出たおかげでリラックスしていたとかじゃないわよね?
私、そこまで王子に負担を強いるようなことはしていないはず……。
「聞いてくれ、ルイン伯爵。明日の午前中に皇帝陛下との謁見が決まった」
そして帝国外交官の歓迎を受け、用意されていた邸宅に入った。
それから、あっさりと1週間が経った……。
「さすがにこの対応は失礼なのではないでしょうか?外交官たちは何をしているのでしょうか?」
「まぁまぁ、落ち着いてほしい、ルイン伯爵。帝国は帝国で大国の矜持があるのだろう」
むぅ……。
だからと言って遠方から来た客をただただ待たせるのか?
目途も知らせず、初日以外に目立った歓待もせずに?
「今回の我々は無理を言って訪れたのだ。すぐに面会の機会が得られるとはそもそも考えていない」
「はい」
第二王子は落ち着いていた。
こう見るとアホ王太子とはえらい違いだ。
背筋はピンと伸び、美しい所作で腰を下ろしている。
まさか第二王子不在の間に王国内で事件を起こすとか、そっち方面の企みだったとか?
でも、特にセバスチャンからの報告にも目立ったものはない。
帝国も、王宮も、王太子も、なにを考えているのかよくわからない。
焦りというか苛立ちを感じてしまう私が未熟なのだろうけど、慣れないのよ……。
こうやってただ待つのは嫌い。
時間を無駄にしている気がする。
早く魔族の安住の地を見つけなければいけないのに……。
「気晴らしに街を見て来てはどうだ?」
鬱屈した気分に浸っていた私に第二王子がそんな声をかけてくれた。
それは少し興味がある。
ここは人間だけではない多民族の国家である帝国だから。
どのように人々が暮らしているのかには興味があった。
「ありがとうございます。行ってみたいですわ」
「エルンスト殿、頼めるだろうか」
私が少しだけ表情を明るくして答えると、第二王子も表情を崩して控えている帝国側の外交官に声をかけてくれた。
「もちろんです。皇帝陛下よりクリストファー王子以外の方が街に出ることは自由にして貰って構わないと言付かっております」
なかなか太っ腹な皇帝様のようね。
使節団の代表者であり王族であるクリストファー王子が自由に動くのは警備面からして難しいでしょうけど、それ以外は自由なんて言われるとは思わなかったわ。
「それはありがたい。では、ルイン伯爵。行ってきなさい」
「はい。そのクリストファー王子。ありがとうございます」
そうして私は街に繰り出した。
帝国は案内人を一人付けてくれた。
「ここが帝都の一般市場でございます、ルイン伯爵」
「なんて大勢の人がいるんでしょう。しかも、様々な種族の方がいらっしゃいますね」
まず最初に連れて来てくれたのは恐らく平民が集まる市場だった。
多くの商人が店を連ね、その何倍……いや、何十倍何百倍もの人たちが集い、忙しなく動き回っている。
帝都の賑わいが感じられるとともに、獣人だろうが、樹人だろうが受け入れる帝都の懐の深さが感じられた。
ここならもしかしたら魔族も受け入れてもらえるかもしれないと、そう感じられるほど新鮮な光景だった。
こういう賑やかな場所には人族しか入ることはできない王国とは真逆だった。
「帝国は武力で戦乱地帯を制圧して成り上がった国です。その過程で様々な種族と複雑な関係を築いて来ましたが、結果として今の帝都はこのように多種族が入り乱れる世界でも珍しい場所となっています」
外交官は淡々と説明してくれる。彼は私が魔族の長であることを知っているのでしょうね。
「街中で争いが起こるようなことはないのでしょうか?いえ、申し訳ありません。不躾な質問でした。皇帝陛下の手腕が優れているということでしょうね」
「争いはなくなりはしません。ですので、帝都中に警備兵が巡回しています。ただ、ここで争うのは割に合わないことが多いのですよ。重い罰則がつきますから。人を集め、賑わいを生み出し、活力ある都を作る。法令を敷き、罰則もしっかり設ける。それも含めて皇帝陛下は素晴らしい統治をしていると感じています」
皇帝というからにはもっと自分勝手というか、横暴で独裁的な人物を想像していたけど、その統治は理知的で、はっきり言って好ましいものだった。
アホ王太子がもし国王にでもなったら、こことは真逆の恣意的な政治をすることが目に見えている。
口数は多くないものの、いろいろ考え、たまに質問したりしながら帝都の名所を案内してもらった。
どこへ行っても様々な種族が活発に動いていた。
「今日はありがとうございました。良い気分転換になりました」
その後、市民が暮らす家々を眺め、食事処で腹を満たし、商業区で買い物をし、最後に城壁の上から帝都全体を眺めた後、滞在している邸宅に戻ってきてから私は姿勢を正して案内してくれた外交官に素直に礼を言った。
「気がまぎれたようで安心しました。待たせているこちらの責任ではあるので、申し訳ないですが、どうか帝都をお楽しみいただけますように」
そうして私は外交官と別れて邸宅に入った。
「お帰り、ルイン伯爵」
「ただいま戻りました。クリストファー王子」
戻ってきた私を出迎えた王子は心なしかソワソワした雰囲気を纏っていた。
カリカリする私が散歩に出たおかげでリラックスしていたとかじゃないわよね?
私、そこまで王子に負担を強いるようなことはしていないはず……。
「聞いてくれ、ルイン伯爵。明日の午前中に皇帝陛下との謁見が決まった」
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