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第15話 新たな指令
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連れて行かれたアッシュが帰ってこない……。
もう2週間。
ちょっと前まで『ねぇ、アッシュ』って声に出せばすぐに来てくれる……って、それはそれでおかしいのだけど。
過保護で過干渉でちょっと邪険に扱ってしまったけど、反応が一切なくなるとそれはそれで寂しい。
勝手なものね。
どうしたのかしら?
王宮に連れていかれて、また幽閉されたりしているのかしら……。
まさか処刑されたとかじゃないわよね……。
それはないか。
アッシュを倒せる人がいるとは思えない。
でもメンタル豆腐だからなぁ……。
アッシュの反応からしたら、きっと失ってしまった王女様との仲は悪くなかったはず。
王宮に捕らわれて王女様の件で責められ続けたりしたら身動きが取れなくなるかもしれない。
でも私が何かすることはできない。
それは魔族全体を危険に晒してしまう。
もしくはそれも含めての罠なのかもしれない。
考えても考えても悪いことしか浮かばないわね。
いつの間にこんなに心に入ってきていたのよ。
アッシュ……。
「お嬢様、王宮からの指令が届きました」
こんな時に……。
私は仕方なくセバスチャンから指令書を受け取ってテーブルに広げ、セバスチャンと一緒に読んだ。
「帝国に赴く第二王子の護衛?わざわざ私に?」
アホ王太子はそのアホさのせいで優秀な第二王子を支持する者たちからは嫌われている。
第二王子の支持者に結構な大物がいたり、そもそも数が多いこともあって国王陛下が頭を悩ましているというのは公然の秘密となっている。
そんな状況でわざわざ私に護衛しろというのはどういうことだ?
「仮に第二王子を暗殺するつもりとか……」
「えぇ?」
セバスチャンがとんでもないことを言いだした。
「国外で事を起こしてしまえば、王太子だけが得をする状態が作り出せます。第二王子が倒れてライバルはいなくなる。帝国には責任を問える。我々には指令未達成となる」
「なるほど。しかしそんなに簡単に暗殺なんてさせないわよ?」
王太子の手駒でそんなことができる者がいるなら私たちがいる意味は薄れる。
苦虫を嚙み潰したような表情で嫌がらせしかできないような状態をあの王太子が良しとしているはずはないのだから。
「アッシュが出てきたりしたらまぁ無理だけどね」
今のこのタイミングでこの指令というのは気になる。
帰ってこないアッシュが、実は弱みに付け込まれて洗脳でもされていて、私たちに襲い掛かり、第二王子もろとも消し去るとか……。
考えただけで震えるわね。
それはないと信じたいけど。
「まずは第二王子と面会するしかないでしょう。そこで相談できるならしましょう」
「そうね。わかったわ。まずは面会に伺いましょう」
今考えても仕方のないことはとりあえず置いておいて、私たちは行動を決めた。
「ライラ、ダリウス、カリナ、グレゴール、エレノアに準備をさせておきます。指令書を読む限り少数精鋭が求められていますから」
「そうでしょうね。大人数なんか引き連れて行ったらそれこそ帝国に信じてないわよって言ってるようなものだから」
「あと、情報部にアッシュ様の情報収集を命じておきます。なにもつかめない可能性は高いですが……」
「ありがとう。セバス」
そして私たちは粛々と準備に取り掛かった。
□王宮にて
「お初にお目にかかります、クリストファー王子。帝国訪問の警備の指令を受けました、エリーゼ・ルインです」
私は硬い表情で跪いて挨拶をする。
「あぁ、聞いている。楽にしてください、ルイン伯爵」
そんな私に対して第二王子はフランクに話しかけてきた。
アホ王太子とは雲泥の差だ。
彼は最初から胸とお尻ばかりに下卑た視線を向けていた。あと、たまに顔に。
「急な面会と聞いたが、何か指令に不備でもあっただろうか?」
「その、率直に申し上げて少々困惑しております。なぜ、我々にこの指令が下ったのか」
第二王子は遠回しな表現を嫌われる誠実で真面目な方という噂だ。
そして目の前にいる青年は噂にたがわぬ信頼できる人に見える。
魔力の動きも素直だった。
「なるほど。私も唐突な話で、正直に言って同じように感じた。何か裏があるなと」
「そうでしたか。それなのに面会を受けてくださってありがとうございます」
第二王子の立場からすると我々は王宮の犬と呼ばれつつ、間違いなく王太子派閥に見えているだろう。
「あぁ。既に指令が発せられているから、帝国に一緒に行くのは確定だからね。それならどのような人物か確かめておく方が重要だと考えた。そして、誠実な印象を持っている」
「ありがとうございます。そこで相談なのですが、我々は暗殺にでも遭遇するのではないかと考えました」
私の腹は決まった。胸の内を全て打ち明けて相談しよう。
これでもし騙されていたら仕方ない。慎重になっても何も進まないのだから。
「同じことを考えた。しかし君たちが噂にたがわぬ実力を持っているのだとすると、君たちを超えてくるような暗殺者がいるものだろうか」
「それはわかりません。単純な戦闘では負けることはなかったとしても、状況的に追い込まれた場合など、どのようなことを相手が考えているか次第です」
「ふむ……。わかった。気には止めておこう」
第二王子は顎に手を当てながら何かを考えている。
きっと私たちを試していて、そしてある程度の成果を得たのね。
信頼してもらったと思う。
「帝国訪問を取りやめる、という選択はありませんか?」
1つだけ質問をする。答えは予想できるが、もしやめるならそれが一番のように思うから。
「それはない。帝国は今後ますます大きくなっていくでしょう。今は少しでも対話し、可能な限り時間を稼ぐべきなのだ。稼いだ時間を有効に使う必要があるのだが……それはまずは訪問し、対話した後のことだな」
そして私たちは準備を整え、第二王子、外交官3名、侍女や料理人のほか王子の世話役など計6名、護衛の近衛騎士団30名、我々6名という布陣で帝国に向けて旅立った。
その日までに、アッシュの消息を掴むことはできなかった。
もう2週間。
ちょっと前まで『ねぇ、アッシュ』って声に出せばすぐに来てくれる……って、それはそれでおかしいのだけど。
過保護で過干渉でちょっと邪険に扱ってしまったけど、反応が一切なくなるとそれはそれで寂しい。
勝手なものね。
どうしたのかしら?
王宮に連れていかれて、また幽閉されたりしているのかしら……。
まさか処刑されたとかじゃないわよね……。
それはないか。
アッシュを倒せる人がいるとは思えない。
でもメンタル豆腐だからなぁ……。
アッシュの反応からしたら、きっと失ってしまった王女様との仲は悪くなかったはず。
王宮に捕らわれて王女様の件で責められ続けたりしたら身動きが取れなくなるかもしれない。
でも私が何かすることはできない。
それは魔族全体を危険に晒してしまう。
もしくはそれも含めての罠なのかもしれない。
考えても考えても悪いことしか浮かばないわね。
いつの間にこんなに心に入ってきていたのよ。
アッシュ……。
「お嬢様、王宮からの指令が届きました」
こんな時に……。
私は仕方なくセバスチャンから指令書を受け取ってテーブルに広げ、セバスチャンと一緒に読んだ。
「帝国に赴く第二王子の護衛?わざわざ私に?」
アホ王太子はそのアホさのせいで優秀な第二王子を支持する者たちからは嫌われている。
第二王子の支持者に結構な大物がいたり、そもそも数が多いこともあって国王陛下が頭を悩ましているというのは公然の秘密となっている。
そんな状況でわざわざ私に護衛しろというのはどういうことだ?
「仮に第二王子を暗殺するつもりとか……」
「えぇ?」
セバスチャンがとんでもないことを言いだした。
「国外で事を起こしてしまえば、王太子だけが得をする状態が作り出せます。第二王子が倒れてライバルはいなくなる。帝国には責任を問える。我々には指令未達成となる」
「なるほど。しかしそんなに簡単に暗殺なんてさせないわよ?」
王太子の手駒でそんなことができる者がいるなら私たちがいる意味は薄れる。
苦虫を嚙み潰したような表情で嫌がらせしかできないような状態をあの王太子が良しとしているはずはないのだから。
「アッシュが出てきたりしたらまぁ無理だけどね」
今のこのタイミングでこの指令というのは気になる。
帰ってこないアッシュが、実は弱みに付け込まれて洗脳でもされていて、私たちに襲い掛かり、第二王子もろとも消し去るとか……。
考えただけで震えるわね。
それはないと信じたいけど。
「まずは第二王子と面会するしかないでしょう。そこで相談できるならしましょう」
「そうね。わかったわ。まずは面会に伺いましょう」
今考えても仕方のないことはとりあえず置いておいて、私たちは行動を決めた。
「ライラ、ダリウス、カリナ、グレゴール、エレノアに準備をさせておきます。指令書を読む限り少数精鋭が求められていますから」
「そうでしょうね。大人数なんか引き連れて行ったらそれこそ帝国に信じてないわよって言ってるようなものだから」
「あと、情報部にアッシュ様の情報収集を命じておきます。なにもつかめない可能性は高いですが……」
「ありがとう。セバス」
そして私たちは粛々と準備に取り掛かった。
□王宮にて
「お初にお目にかかります、クリストファー王子。帝国訪問の警備の指令を受けました、エリーゼ・ルインです」
私は硬い表情で跪いて挨拶をする。
「あぁ、聞いている。楽にしてください、ルイン伯爵」
そんな私に対して第二王子はフランクに話しかけてきた。
アホ王太子とは雲泥の差だ。
彼は最初から胸とお尻ばかりに下卑た視線を向けていた。あと、たまに顔に。
「急な面会と聞いたが、何か指令に不備でもあっただろうか?」
「その、率直に申し上げて少々困惑しております。なぜ、我々にこの指令が下ったのか」
第二王子は遠回しな表現を嫌われる誠実で真面目な方という噂だ。
そして目の前にいる青年は噂にたがわぬ信頼できる人に見える。
魔力の動きも素直だった。
「なるほど。私も唐突な話で、正直に言って同じように感じた。何か裏があるなと」
「そうでしたか。それなのに面会を受けてくださってありがとうございます」
第二王子の立場からすると我々は王宮の犬と呼ばれつつ、間違いなく王太子派閥に見えているだろう。
「あぁ。既に指令が発せられているから、帝国に一緒に行くのは確定だからね。それならどのような人物か確かめておく方が重要だと考えた。そして、誠実な印象を持っている」
「ありがとうございます。そこで相談なのですが、我々は暗殺にでも遭遇するのではないかと考えました」
私の腹は決まった。胸の内を全て打ち明けて相談しよう。
これでもし騙されていたら仕方ない。慎重になっても何も進まないのだから。
「同じことを考えた。しかし君たちが噂にたがわぬ実力を持っているのだとすると、君たちを超えてくるような暗殺者がいるものだろうか」
「それはわかりません。単純な戦闘では負けることはなかったとしても、状況的に追い込まれた場合など、どのようなことを相手が考えているか次第です」
「ふむ……。わかった。気には止めておこう」
第二王子は顎に手を当てながら何かを考えている。
きっと私たちを試していて、そしてある程度の成果を得たのね。
信頼してもらったと思う。
「帝国訪問を取りやめる、という選択はありませんか?」
1つだけ質問をする。答えは予想できるが、もしやめるならそれが一番のように思うから。
「それはない。帝国は今後ますます大きくなっていくでしょう。今は少しでも対話し、可能な限り時間を稼ぐべきなのだ。稼いだ時間を有効に使う必要があるのだが……それはまずは訪問し、対話した後のことだな」
そして私たちは準備を整え、第二王子、外交官3名、侍女や料理人のほか王子の世話役など計6名、護衛の近衛騎士団30名、我々6名という布陣で帝国に向けて旅立った。
その日までに、アッシュの消息を掴むことはできなかった。
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