王宮の犬~王太子の愛人の話を蹴って働く私には報復なのか無茶な指令ばかり……超強い協力者といつかきっと一族の安住の地をみつけてやるわ!~

蒼井星空

文字の大きさ
15 / 28

第15話 新たな指令

しおりを挟む
連れて行かれたアッシュが帰ってこない……。
もう2週間。

ちょっと前まで『ねぇ、アッシュ』って声に出せばすぐに来てくれる……って、それはそれでおかしいのだけど。
過保護で過干渉でちょっと邪険に扱ってしまったけど、反応が一切なくなるとそれはそれで寂しい。

勝手なものね。
どうしたのかしら?
王宮に連れていかれて、また幽閉されたりしているのかしら……。

まさか処刑されたとかじゃないわよね……。
それはないか。
アッシュを倒せる人がいるとは思えない。

でもメンタル豆腐だからなぁ……。
アッシュの反応からしたら、きっと失ってしまった王女様との仲は悪くなかったはず。

王宮に捕らわれて王女様の件で責められ続けたりしたら身動きが取れなくなるかもしれない。

でも私が何かすることはできない。
それは魔族全体を危険に晒してしまう。
もしくはそれも含めての罠なのかもしれない。

考えても考えても悪いことしか浮かばないわね。
いつの間にこんなに心に入ってきていたのよ。
アッシュ……。


「お嬢様、王宮からの指令が届きました」
こんな時に……。

私は仕方なくセバスチャンから指令書を受け取ってテーブルに広げ、セバスチャンと一緒に読んだ。

「帝国に赴く第二王子の護衛?わざわざ私に?」
アホ王太子はそのアホさのせいで優秀な第二王子を支持する者たちからは嫌われている。
第二王子の支持者に結構な大物がいたり、そもそも数が多いこともあって国王陛下が頭を悩ましているというのは公然の秘密となっている。

そんな状況でわざわざ私に護衛しろというのはどういうことだ?

「仮に第二王子を暗殺するつもりとか……」
「えぇ?」
セバスチャンがとんでもないことを言いだした。

「国外で事を起こしてしまえば、王太子だけが得をする状態が作り出せます。第二王子が倒れてライバルはいなくなる。帝国には責任を問える。我々には指令未達成となる」
「なるほど。しかしそんなに簡単に暗殺なんてさせないわよ?」
王太子の手駒でそんなことができる者がいるなら私たちがいる意味は薄れる。
苦虫を嚙み潰したような表情で嫌がらせしかできないような状態をあの王太子が良しとしているはずはないのだから。

「アッシュが出てきたりしたらまぁ無理だけどね」
今のこのタイミングでこの指令というのは気になる。
帰ってこないアッシュが、実は弱みに付け込まれて洗脳でもされていて、私たちに襲い掛かり、第二王子もろとも消し去るとか……。
考えただけで震えるわね。

それはないと信じたいけど。

「まずは第二王子と面会するしかないでしょう。そこで相談できるならしましょう」
「そうね。わかったわ。まずは面会に伺いましょう」
今考えても仕方のないことはとりあえず置いておいて、私たちは行動を決めた。

「ライラ、ダリウス、カリナ、グレゴール、エレノアに準備をさせておきます。指令書を読む限り少数精鋭が求められていますから」
「そうでしょうね。大人数なんか引き連れて行ったらそれこそ帝国に信じてないわよって言ってるようなものだから」
「あと、情報部にアッシュ様の情報収集を命じておきます。なにもつかめない可能性は高いですが……」
「ありがとう。セバス」
 
そして私たちは粛々と準備に取り掛かった。



□王宮にて

「お初にお目にかかります、クリストファー王子。帝国訪問の警備の指令を受けました、エリーゼ・ルインです」
私は硬い表情で跪いて挨拶をする。

「あぁ、聞いている。楽にしてください、ルイン伯爵」
そんな私に対して第二王子はフランクに話しかけてきた。
アホ王太子とは雲泥の差だ。
彼は最初から胸とお尻ばかりに下卑た視線を向けていた。あと、たまに顔に。

「急な面会と聞いたが、何か指令に不備でもあっただろうか?」
「その、率直に申し上げて少々困惑しております。なぜ、我々にこの指令が下ったのか」
第二王子は遠回しな表現を嫌われる誠実で真面目な方という噂だ。
そして目の前にいる青年は噂にたがわぬ信頼できる人に見える。
魔力の動きも素直だった。

「なるほど。私も唐突な話で、正直に言って同じように感じた。何か裏があるなと」
「そうでしたか。それなのに面会を受けてくださってありがとうございます」
第二王子の立場からすると我々は王宮の犬と呼ばれつつ、間違いなく王太子派閥に見えているだろう。

「あぁ。既に指令が発せられているから、帝国に一緒に行くのは確定だからね。それならどのような人物か確かめておく方が重要だと考えた。そして、誠実な印象を持っている」
「ありがとうございます。そこで相談なのですが、我々は暗殺にでも遭遇するのではないかと考えました」
私の腹は決まった。胸の内を全て打ち明けて相談しよう。
これでもし騙されていたら仕方ない。慎重になっても何も進まないのだから。

「同じことを考えた。しかし君たちが噂にたがわぬ実力を持っているのだとすると、君たちを超えてくるような暗殺者がいるものだろうか」
「それはわかりません。単純な戦闘では負けることはなかったとしても、状況的に追い込まれた場合など、どのようなことを相手が考えているか次第です」
「ふむ……。わかった。気には止めておこう」
第二王子は顎に手を当てながら何かを考えている。
きっと私たちを試していて、そしてある程度の成果を得たのね。
信頼してもらったと思う。

「帝国訪問を取りやめる、という選択はありませんか?」
1つだけ質問をする。答えは予想できるが、もしやめるならそれが一番のように思うから。

「それはない。帝国は今後ますます大きくなっていくでしょう。今は少しでも対話し、可能な限り時間を稼ぐべきなのだ。稼いだ時間を有効に使う必要があるのだが……それはまずは訪問し、対話した後のことだな」

そして私たちは準備を整え、第二王子、外交官3名、侍女や料理人のほか王子の世話役など計6名、護衛の近衛騎士団30名、我々6名という布陣で帝国に向けて旅立った。
その日までに、アッシュの消息を掴むことはできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...