リードエンゲージ

水鳥彩花

文字の大きさ
7 / 17
隠された島

狼に溺れる

しおりを挟む
 憧れの海賊団『紺碧』に目を奪われていたアズだったが、隣にいるドールの顔が恐ろしいほど青白いことに気付き、慌てる。
「ど、どうしたのさ、ドール」
 細い眉を寄せた彼女は、握っていたアズの手に力を込めて「帰ろう」と訴えた。唯一人の友人が、今にも倒れそうな顔色なのだ。断る理由もなく、アズは何度も頷いた。
 シエナ色のサングラスを掛けなおし、ドールの背中に手を添える。
「大丈夫?教会まで歩けそうかな」
「ええ、平気」
 幼い頃はドールのほうが高かった身長も、時を重ねるごとに追いつき、追い越した。細い身体はふわふわ柔らかく、それが『女性らしさ』だと知ったのは最近だ。意識すると頬が熱くなってしまう。贔屓目なのかもしれないが、彼女はこの島で一番魅力的な女性だ。
「アズは…‥少し優しすぎる」
 繋がった手に身体を寄せるドール。彼女の体温は、アズよりも低い。
「こんな環境なのに、あなたはどうして、こんなにも、」
 ふと、言葉が止まる。彼女は薄紅色の唇を噛み締め、声を呑み込んだようだ。
 『こんな環境』
 彼女の言葉に、アズは苦笑する。確かに自分は、他人よりも不遇だ。ほんの少しだけ。しかし恵まれていないわけでもない。言葉が話せる。文字が書ける。剣術は平均より上手く、何より料理が得意。立派な家がある。過ごすのに困らないほどのお金もある。生活していくのに、不自由なことは一つだってない。
 ただ一つ、挙げるとするなら『他人に嫌われている』ということだろうか。この島に来てから何年も経つが、まともに会話をしてくれるのはドール唯一人。同世代には居ない者のように振舞われ、大人たちには煙たがられる。アズが話しかけると、誰も彼もが苦虫を噛み潰したように顔を歪め、すぐに視線を外し、ぶっきらぼうな言葉しか返してくれない。
 何故こんな扱いを受けるのか。心当たりはまるでない。記憶にあるかぎり、初めからそうだったから。
「ドール。優しいになんて無いよ」
 彼女が呑み込んだ言葉の形を見ない振りをして、アズは繋いだ手を軽く振った。そうすれば、ドールが少しだけ頬を緩めると知っているから。
「これがおれの、精一杯なだけ」
「私には十二分すぎるっていうことよ」
「おれはドールから貰っている優しさを返してるんだから、ドールもおれにそれだけ優しいんだ」
 ドールの真白な頬が赤く染まる。友人の稀にしか見られない姿に、アズは満足そうに笑う。
 誰からも除け者にされる世界で、彼女は甘い紅茶のような存在だ。温かくて、心を安らげてくれる。
「私は、優しいわけじゃ、ないよ」
 苦しそうな声に、目を伏せる。気付かない振りをする。彼女の胸の奥まで暴きたいわけじゃない。ただ手を握ってくれるだけで、いい。
「ドール、明日一緒に行こうね」
 わざとらしくトーンを上げ、抱えた籠を揺らして見せた。艶やかなベリーに、ドールはようやく肩の力を抜いたようだ。
「勿論。完成、楽しみにしてる」
「任せて。…‥あ、砂糖足りないかも」
 アズの家と、ドールが身を置いている教会は、小高い丘の上にある。対して市場マーケットは港近くで、逆方向だ。アズはドールの手を離すと、軽やかに走り出した。
「アズ!」
「買ってから帰るよ!また明日!」
「~~っ!知らない人には声かけないでね!」
 まるで幼子に言いつける母のような言葉を、背中で受け止めながら、小さく噴き出した。同い年だというのに、彼女は心配性だ。
 砂糖と、それから料理酒も少なくなっていた。ついでに買ってしまおう。市場マーケットが近付くと人も増えてくる。脚の速度を落とし、アズは目的の店まで向かっていく。少し胸がむず痒いのは、ここからでも見える海賊船『無名』のせいだろう。敬愛する海賊たちが、今この島に居て、同じ空気を吸っている。こんな状況で浮足立たない夢人マニアがいるわけがない。
 意識が軽く飛んでいたのがよくなかったのだろう。アズは前から歩いてきた男性に、勢いよくぶつかってしまった。
「わっ、と」
 衝撃と共に籠の中のベリーが飛び出し、道端に転がった。三分の一ほど落ちてしまい、何粒かは相手に踏まれてしまった。慌てて拾おうとしゃがみ、まだ綺麗なベリーに伸ばした手の上に、誰かの手が重なった。
 視線を上げると、すぐ傍にある見覚えのある顔。何度も誌面で見た甘い顔立ちに、アズは喉の奥で小さな悲鳴を上げる。
「ご、ごめんねェ。おれ全然前見てなくてさ」
「いっい、いや、だいじょぶ、です、はい、お気になさらず」
 八の字を描く眉と細められた薄昏色の目から、申し訳ないという気持ちがひしひしと伝わってくる。こんな顔をさせているのが自分だと思うと、胸が痛む。
 ぶつかった相手は、今まさに思いを馳せていた海賊団『紺碧』のひとり。船医のアンソニーだ。
「これ、洗えば食べられるかな」
「平気です。どちらにせよ半分は加工する予定だったので」
 偶像化していた内のひとりとの遭遇に、胸がきゅうきゅうと音を立て、嬉しいはずなのに早く立ち去ってしまいたい気分に襲われ、意図せず早口になってしまった。あんなにも会ってみたいと思っていたというのに。
「そんな雑に入れたら可哀想。こんなに綺麗なんだから」
 宝石みたいだね。うっとり微笑むアンソニーに、見惚れてしまう。
「アンソニーさんのほうが、ずっと、綺麗です」
「え、」
「あ!い、いや!その、」
 ベリーよりも大きな薄昏色の瞳を見ていたら、つい自然と零れてしまった。これ以上何を言い出すか分からない口を、慌てて両手で隠す。
 持っていた手を離してしまったものだから、バランスを崩した籠がアズの膝から落ちそうになったが、アンソニーが抑えてくれた。そのまま彼は籠を自分の元へ引き寄せ、一粒一粒丁寧に砂を払いながら拾っていく。
「俺のこと、知ってるの」
 『紺碧』は海賊の中では有名で、新聞『デイリー・カラー』でも時々紙面を飾っている。色付きシーウルフは圧政や横暴な貴族たちに牙を剥くことが多いからだ。各国の掟に縛られない自由な彼らは、権力を噛み砕くことが出来る唯一の存在。ただしデイリー・カラーで取り上げられるのは精々『紺碧』の名前と船長の活躍、それと副船長の美しさぐらい。船医の名前、ましてや顔など一般人では知りようがない。
 しかしアズは色付きシーウルフ夢人マニア。月に一度刊行される海賊専門誌『月刊海風』を愛読していれば、『紺碧』の船員クルーを把握することぐらい容易い。
「あ、いや、その、」
 それを本人に告げるのは、なんとなく気が引けた。悪いことをしてるわけではないが、ただ恥ずかしい。
 顔を真っ赤に染めながら指先をそわそわ動かす姿は、さぞ滑稽だろう。だがアンソニーは何も言わず、寧ろ微笑みながらアズの返事を待つ。
「前、見たことがあって…‥雑誌で」
「ああ、海風かァ」
 すぐにピンと来たらしいアンソニーは、朗らかに笑い、拾い終わったベリーの籠をアズに差し出した。左の薬指で華奢なシルバーリングが輝いている。色付きシーウルフの誓い、リードエンゲージの証だ。
「あ、ありがとうございます」
「もしかして夢人マニア?」
「ふぁ、」
「ビーンゴッ」
 図星を突かれて、顔から火が出そうだ。
 彼らを好きでいることを恥ずかしいと感じたことは一度もないが、まさか本人にそれが伝わる日がくるとは思いもよらなかった。確かに何度も妄想の中で彼らと出会い、自分の想いをぶつけてきたが、それはあくまで現実では有り得ないだろうと踏んでいたからだ。もし会える日が訪れたとしても、その日のために入念に原稿を推敲し、彼らの夢人マニアとして相応しい姿で賛辞を贈りたかった。
 こんな道端で、ベリーを積んだばかりの田舎臭い恰好なんて、もってのほかだ。
「すみません、おれ、こんな」
「めーっちゃ、嬉しいんだけど!」
 女性が放っておかない甘い顔を、ぐいと近付けたアンソニーは、背後に星を散らしながら(これはアズの幻覚だが)、アズの頬を両手で包む。少しサングラスがずれてしまう。
「男の子でおれのこと知ってる、なァんてレアだしィ。へへッ」
「そ、そんな、おれ、紺碧推しなんで、当然」
「マジでェ?」
 アンソニーの声が高くなり、興奮からか頬が少し赤い。
「紺碧、好き?」
「は、はい」
 頬を包まれたまま何度も頷くと、ようやく解放される。アンソニーは薄昏色の目を柔和に細め、アズの耳元まで口を近付け、囁いた。
「おれも」
 まるで内緒話のようだ。溶けたバターに似た声が、アズの心に染み渡る。味わう暇もなくアンソニーは立ち上がり、アズへ手を差し出した。恐る恐るその手を掴むと、思いのほか強い力で引っ張られた。
「おれのこと、トニーでいいよ。あんたは?」
「アズって言います」
「うーん、じゃ、アズっちね」
 掴んだ手をそのまま勢いよく振られ、アズは肩が抜けそうだった。籠の中でベリーが跳ねるのを認めると、アンソニーは手を止めた。
「そういえば、加工とか言ってたけど、もしかして料理するわけ?」
「うん。料理が趣味だから」
「すっげェ。おれンとこ、料理人いなくてさァ。だから島来ると、美味しいもの探すのが好きなんだよねェ」
 結成されて三年しか経っていない紺碧は、色付きシーウルフ最小規模の七人。その中に料理人の名前は、確かにない。
「へぇ。いつもどうしてるの?」
「料理できる面子が交代でやってンよ。ちな、おれもそのひとりね」
 できる、とは言っても人並みらしく、当番の日はなかなか憂鬱らしい。食卓のバランスや、それぞれの好みから外れすぎない味付け、食欲をそそる盛り付けを考えるのは『料理ができる』程度では楽しみには変えられない。
「ちなみに、誰ができるの?」
 これは夢人マニア心が揺れて零れた質問だ。
「おれと、リノぴとサリィに、くーちゃん。あ、サトリと玖乃のことね」
「あだ名可愛すぎか」
 胸に抑え込むことが出来なくなった本音を、気付かれないように地面にぶつける。心のノートに『料理ができる船員』と『トニーはあだ名付けるのが好き』が付け加えられた。
「美味しいもの、か。港の前の広場から、西の道へ進むと、グラタンが有名なお店があるはずだよ。赤い屋根の」
 アズは食べたことは無いが、地元誌に何度も取り上げられている店だ。外れることはないだろう。グラタンに心惹かれたのか、アンソニーの目は輝いている。
「よさげ!今日はそこ行こっかなァ」
 楽し気に笑うアンソニーに、アズの胸が小さく鳴った。料理は人を笑顔にする。口に入れる前から、こんなにも人を幸せにできる。最高のエンターテイメントだ。
「アズは今晩どうすンの?一緒にどう」
「えッ、いや、おれは、…‥家に昨日の残り物があるし、これの準備もしたいから」
 残念そうに肩を竦める姿に、胸が痛んだが、仕方がない。店側はアズが行けば、嫌な顔をするだろうから。折角料理を楽しみにしているアンソニーが隣にいるのに、自分のせいで気分を害したくない。残り物があるのも、仕込みがしたいのも本当だ。
「そっかァ。アズっち、自分で料理しちゃえるし、しゃーねェかァ…‥雪愛さん誘って行くかなァ」
「あ、めっちゃ見たい…‥」
 突然出た副船長の名前に、素直な心が大きく跳ねる。どうにかして店の様子を見ることは叶わないだろうか。床になりたい。
「うぇ?見たいなら来る?」
「いや、それは、出来ることならおれの家でおれの料理を食べてもらってそれを観察させていただきたい」
「うーん、多分心の声が、駄々洩れになっちゃってンじゃ」
 くすくす、アンソニーの肩が揺れて我に返る。本音を垂れ流してしまった口を片手で抑えて、首を横に振る。どうか忘れてくれ。
「へへッ。アズっちの料理、食べてみてェなァ」
 忘れるどころか返事までされて、穴があったら入りたい気分になった。けれど夢人マニアとしてではなく、料理人としての心が、その言葉を逃がそうとはしない。
「ほ、本当に?」
「もちもちッ。アズっちがいいなら、だよ?無理は言わない」
「是非ッ、食べに来て!」
 アンソニーは嫌な顔一つせず、寧ろ満面の笑みで大きく頷いた。
「何人かがこの島に興味持ってっから、暫く居る予定なんだよねェ。あ、誰か連れてきてもいい感じ?」
「いつでも!何人でも!」
 鼻息荒くアズは丘の上を指差した。正確には、ここからでも見える大きな屋敷を。そこがアズの家だからだ。
「わー、わかりやすーい」
 これほど自分の家が大きくてよかった、と思った瞬間はない。
 アズは頭の中のレシピノートを高速で捲り、次々と献立を考えていく。買うものが増えそうだ。月刊海風で仕入れた『紺碧メンバーの好き嫌い』を参考に、嫌いなものが含まれているものを弾いていく。
「おっと、ごめんねェ。…‥もしもーし、トニーだよ」
 アンソニーはオレンジ色のカバーが付いた端末リボンを耳にあて、誰かと会話を始める。アズは相手が気になって仕方がない。
「いいお店教えて貰ったンで、迎えに行きますねェ。はーい」
 内容からして、副船長だろうか。アンソニーは手を振り、唇だけで「また今度、サリュ!」と告げた。急かされたらしい。何度も頷き返すと、彼はアズへ片目を瞑って魅せてから、駆け出していく。その後ろ姿は、あっという間に人混みへと消えていった。
「行っちゃった」
 まるで夢のような時間だった。もしかしたら夢なのかもしれない、と自分で頬を抓ってみたが、ちゃんと痛い。夢じゃない、現実だ。身体がこれでもかというほど熱くなる。今にも興奮から叫びだしそうになるのを堪えて、歩き出すが、足元が妙にふわふわする。
 地面が柔らかい気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...