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第46話
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夜風の工房は、もう一つの窯を作った。
それは焼くためではない。
“教えるため”の窯だった。
「ここから先は、わたしたちだけじゃ、もう手が足りない。」
「でも、必要としてる場所は、まだまだあるんだ。」
焼き手たちは相談し合い、小さな手紙を送り出した。
【火を分けにいきます。】
その知らせを受けた村や集落では、驚きが広がった。
「……パンの焼き方を、教えに来るって?」
「材料もないし、窯もない。第一、火を扱うのも久しい……」
だが、その日、夜風から三人の子どもたちが現れた。
道具は簡素なものばかり。
けれど、その手つきには、火を扱う者の自信とやさしさがあった。
「大丈夫。必要なのは、薪と、土と、あなたの“焼きたい気持ち”だけ。」
こうして始まった、“夜風の分火”。
それは技術の伝達ではなく、“火の心”の授業だった。
パンの焼き方。
窯の組み方。
火のくべ方。
そして、なにより大切なのは――
「どんなときに、誰のために焼くか。」
「“火の味”っていうのは、焼き手の気持ちそのものなんだ。」
最初に学んだのは、盲目の娘だった。
火が見えず、焼き加減がわからない。
けれど彼女は、耳で薪の爆ぜる音を聞き、
指先で生地の湿り気を読み、鼻で焼ける麦の香りを受け止めた。
そして生まれたのは、“音で焼くパン”。
別の村では、聴覚を失った青年が、火の振動を床から感じ取って焼いた。
“足の裏で測るパン”と呼ばれたそれは、しっかりとした歯ごたえを持ち、旅人の携行食として広まった。
焼き手たちは、どの地でも教えた。
けれど、自分の名前は残さなかった。
残るのは、焼きあがったパンと、その地の“火”。
やがて世界には、小さな火を宿す窯が増えていく。
「この火は、夜風から来た。」
「いや、“焼きたい”って気持ちから始まったんだよ。」
どちらの言葉も正しい。
必要なものが、必要な人のもとへ届くとき――
火は、パンとなり、心となり、命となって、そこに残る。
誰かが言った。
「パンは、火のかたち。」
夜風の旅は、今日も続いている。
それは焼くためではない。
“教えるため”の窯だった。
「ここから先は、わたしたちだけじゃ、もう手が足りない。」
「でも、必要としてる場所は、まだまだあるんだ。」
焼き手たちは相談し合い、小さな手紙を送り出した。
【火を分けにいきます。】
その知らせを受けた村や集落では、驚きが広がった。
「……パンの焼き方を、教えに来るって?」
「材料もないし、窯もない。第一、火を扱うのも久しい……」
だが、その日、夜風から三人の子どもたちが現れた。
道具は簡素なものばかり。
けれど、その手つきには、火を扱う者の自信とやさしさがあった。
「大丈夫。必要なのは、薪と、土と、あなたの“焼きたい気持ち”だけ。」
こうして始まった、“夜風の分火”。
それは技術の伝達ではなく、“火の心”の授業だった。
パンの焼き方。
窯の組み方。
火のくべ方。
そして、なにより大切なのは――
「どんなときに、誰のために焼くか。」
「“火の味”っていうのは、焼き手の気持ちそのものなんだ。」
最初に学んだのは、盲目の娘だった。
火が見えず、焼き加減がわからない。
けれど彼女は、耳で薪の爆ぜる音を聞き、
指先で生地の湿り気を読み、鼻で焼ける麦の香りを受け止めた。
そして生まれたのは、“音で焼くパン”。
別の村では、聴覚を失った青年が、火の振動を床から感じ取って焼いた。
“足の裏で測るパン”と呼ばれたそれは、しっかりとした歯ごたえを持ち、旅人の携行食として広まった。
焼き手たちは、どの地でも教えた。
けれど、自分の名前は残さなかった。
残るのは、焼きあがったパンと、その地の“火”。
やがて世界には、小さな火を宿す窯が増えていく。
「この火は、夜風から来た。」
「いや、“焼きたい”って気持ちから始まったんだよ。」
どちらの言葉も正しい。
必要なものが、必要な人のもとへ届くとき――
火は、パンとなり、心となり、命となって、そこに残る。
誰かが言った。
「パンは、火のかたち。」
夜風の旅は、今日も続いている。
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