転生悪役令嬢は断罪による国外追放をお望みです。

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第9話 迷子の皇子

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帝都の夜は静かだ。
広大な城の中庭に、月光が白く降り注いでいる。
煌びやかな昼の喧騒が嘘のように、虫の音と夜風だけが響いていた。

わたくしはひとり、テラスに腰を下ろしていた。
重すぎる愛情から一時避難……のつもりだったが、気づけば夜気の心地よさにほっと息をついていた。

そこへ、黒い外套を翻して現れる人影。

「……アリサ」

振り返ると、ディアスが立っていた。
昼間の威厳ある皇帝の顔ではなく、柔らかく、どこかためらいを含んだ表情。

「こんな夜更けに……おひとりで?」
「え、ええ。少し涼みに……」

気まずさを誤魔化すように笑うと、ディアスは隣に腰を下ろした。
沈黙が落ちる。
けれど、その沈黙は重苦しくなく、むしろ穏やかな安らぎを伴っていた。

「……昔の話をしてもいいか」
「え?」

月明かりを仰ぎながら、彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「まだ私が子供だった頃のことだ。 私は王国の城に“人質”として預けられていた。……弱く、臆病な少年だった」

(……え、皇帝が臆病な少年!? ギャップすごっ)

「ある日、城の中で迷子になった。……泣きながら彷徨っていた時だ。 一人の少女が私を見つけて、手を取ってくれた」

わたくしの心臓がドキリと跳ねた。
まさか……

「彼女は言った。『大丈夫よ。私が一緒にいるから』と。 その言葉に、どれほど救われたか……。 その日から私は、泣き虫をやめようと決めた。 努力を重ね、誰にも負けぬ力を得ようと誓った」

ディアスの声は、夜風よりも静かに、しかし力強く響いた。

「……そして、私はこうして皇帝となった。 だが、心の奥でずっと探し続けていた。あの日、私に手を差し伸べてくれた少女を」

ゆっくりと視線がこちらに向けられる。
その瞳には、揺るぎない確信が宿っていた。

「――アリサ。お前だ」

一瞬、息が止まった。
夜空に散る星々すら、その瞬間だけは霞んで見えた。

(えっ……ええぇぇぇ!? あれ、そんな重要イベント私やらかしてたの!? ていうか、人生変えちゃってたの!?)

心の中では大混乱。
けれど、彼のまっすぐな瞳に射抜かれ、言葉が出てこない。

「お前がいたから、私はここまで来られた。 だから……もう二度と、離したくない」

ディアスはそっとわたくしの手を取った。
その手は驚くほど温かく、大きくて、まるで世界ごと包み込むようだった。

(ああああ~~~……これ、逃げられないやつだぁぁ~~!)

わたくしは顔を真っ赤にしながら、必死に笑顔を繕った。
けれど、心のどこかでほんの少し――ほんの少しだけ、その温もりを悪くないと思ってしまったのだった。
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