何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

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第9話:君の耳も、尻尾も、全部すてきだよ

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「おい、あれ見ろよ。あの子、また一人で――。」

「ちっ、気味悪いんだよ、ああいうのは。」

広場の片隅、石垣に背を預けて蹲る少女がいた。
髪は淡いグレー、服はどこか野暮ったく、そして……彼女の頭には、ピクリとも動かない獣の耳。

「……また、獣人か。」

私は思わず呟いた。
この世界には、人間以外にも様々な種族が存在する。その一つが「獣人族」――だが、彼らは未だに人間社会では“異端”とされている。

彼女――ミラは、混血だった。
人間の父と、獣人の母の間に生まれた少女。
だから、人間の言葉も通じる。礼儀もわかる。それでも、耳と尻尾ひとつで拒絶されていた。

「……カノン様?」

後ろからそっとアレスが声をかけてきたが、私は無言でミラに近づいた。

「こんにちは。」

「……来ないで。どうせ君も、変だと思ってるんでしょ。」

「変なんて思ってない。君の耳も、尻尾も、全部すてきだと思ったから声をかけたんだよ。」

そう言って、私はそっと座り込む。
少し驚いたようにミラは私を見て、そして目をそらす。

「……変わってるね、君。」

「よく言われる。でも、君もけっこう変わってると思うよ。だって、ずっと黙ってるのに、尻尾だけピコピコ動いてるし。」

「っ……見ないでよ!」

真っ赤な顔でうずくまる彼女に、私は微笑んで言った。

「ねぇ、君の生まれた国は、どこ?」

「……北の獣人領。そこでは、耳も尻尾も普通だった。でも、母が死んで、父がこっちに連れてきたの……。」

「なら――帰ろう。君の耳が笑われない場所へ。」

ミラは目を丸くした。
そして、その目から涙があふれた。

――それから数週間。
母の助力もあって、ミラは祖国の遠縁に引き取られることになった。

「ありがとう、カノンくん。私、今までで一番幸せかもしれない。」

そう言って微笑む彼女の耳は、くすぐったそうに揺れていた。

そして、彼女が旅立った日の夜。
私はアレスの部屋の前で、偶然、扉の隙間から聞いてしまった。

「どうして……どうして、皆、カノン様のもとを……。」

震える嗚咽。
かすかな涙の音。
まるで、壊れた子供のような声だった。

私は静かに扉を開けた。

「……アレス?」

「っ……カノン、様……。」

そこにいたのは、騎士見習いでも、親友でもない。
ただの、幼い少年だった。

理由もわからない。だけど、私は何も言わず、そっとアレスの頭を撫でた。
彼は涙をこらえるように眉を歪めながら、それでも身を預けてきた。

「大丈夫だよ、アレス。僕はここにいるよ。」

その言葉が、彼にとってどれほど重かったのか――
まだ、私は知らなかった。

カノン・ライエル・フィルディア、3歳と4ヶ月。
三人目のヒロインを救ったその日、アレスの心は、確かに音を立てて揺れた。
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