だってスリスリさせてくれるって言ってた!

サトー

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葉月君と知り合ったのは、大学に入学したばかりの頃で、場所は構内の喫煙所だった。

葉月君は喫煙所に設置されたベンチに座って、一人でダルそうに煙草を吸っていた。
その瞳は何も写していないんじゃないかと思えるくらい、ぼんやりとしていた。

「……なにか用?」

そう言われて初めて、自分が葉月君の前で足を止めてボーッと突っ立っていることに気が付いた。



「あ、かっこいいなあ、と思って……」

あと、道に迷いました、と付け足すと、フハッと葉月君は笑った。さっきまでの気怠い雰囲気とは打って変わって、明るくて元気な笑顔だった。


「それで、さっきから何度も同じ場所をウロウロしてたってわけか。
どこに行きたいの?」

学科共通棟です、と答えると「全然逆方向じゃん!敷地内の端と端!大丈夫かよ?」と大笑いされた。
だって、どの建物もデカイし似てるし、道はどことどこが繋がってるのかわからない……と心の中で言い訳をしているうちに、恥ずかしくなってきて、目の前でゲラゲラ笑っている葉月君の前から逃げ出したいような気持ちになった。



「はー……笑った笑った…。……で、どうする?」
「どうするって?」
「一緒に行ってやろうかって聞いてんだよ」
「いいんですか?」
「いいも何も、そんだけ方向音痴じゃ着く頃には明日になってるよ」

だいたい未成年が喫煙所の前をいつまでもウロウロしてんなよ、と言った後、葉月君は灰皿に煙草を押し付けた。

「名前は?え?……陸?」と俺を頭から爪先までジロジロ眺めた後、ダルそうに立ち上がった葉月君は、スラッとしていてネイビーのロングカーディガンがよく似合っていた。
俺が同じ服を着たら、おじいちゃんの寝巻きみたいになりそうだ……と思ったのをよく覚えている。




道を教えて貰ったのをキッカケに、葉月君は俺によく構ってくれるようになった。
学部は全然違うけれど、勉強だって見てくれるし遊びにも連れて行ってくれた。


「陸ってなんで微妙に訛ってるの?どっから来たの?」

産まれ育った島の名前を言ったら「何それ?何処?聞いたことない」とビックリされた。

「ここに来てから、みんなにそう言われる……。人住めねえだろとか、テレビは付かないだろとか、ネットも無いだろとか……」
「ひっでえ!」

葉月君はギャハギャハと大ウケした後、「で、実際ネットも無いし、アマゾンも届かないでしょ?」とバカにしてきた。

「ネットは使えるし、アマゾンだって届くよ!時間はかかるけど……」
「フッフッフ……。もしかして陸がやたらコンビニの食べ物を食べたがるのってそのせい?」
「……そうだよ。だって、島にはコンビニなんてなかったから。
俺、中学の修学旅行の時、福岡でセブンイレブンの食パンをお土産に山ほど買って帰ったからね……」
「はあ?どんなお土産だよ!」

葉月君は身体を揺すって、顔を真っ赤にして笑った。
田舎者だと笑われるのは嫌だけど、葉月君にそうされる時だけは、それ程腹が立たなかった。
他の人に「ど田舎育ち」といじられると「やめてよ!」と怒りたくなるけど、葉月君だけは特別だった。




「……可愛いなあ。陸は」

一通り爆笑した後は、そう言って微笑んでから、俺の髪をぐしゃぐしゃにしてくる。
俺のことでヒーヒー笑っている時は、まるで子供みたいなのに、急にお兄さんらしくなって、「可愛い可愛い。ずーっと陸はそのままでいな」と優しい声で言う。
たまに、フォローのつもりなのか「笑って悪かったよ」とセブンイレブンのおにぎりも買ってくれる。



「……でも、俺も葉月君みたいにオシャレでかっこよくなりたい」
「はあ?俺?」

葉月君は自分のことを「35点の素材を髪型と服装で、80点に見せているだけだ」とよく言う。
確かに、葉月君の顔はよくよく見ると目は離れているし、鼻もそこまで高くない。
歯も小さくて、笑うと子供みたいな顔つきになる。

けれど、パーツの一つ一つが上品に顔に収まっていて、睫毛も眉毛も髪の毛も一本一本が細い。
それがなんだか儚げで、葉月君のゆるっとした雰囲気に、とてもあっていた。



「俺はかっこよくなんかないよ……。自信がないから見た目に気を使ってるだけ。陸の方がずっといい顔をしてるよ」

そう言って微笑みながら葉月君は、目にかかっていた前髪を中指でそっと払った。
長めに伸ばした前髪をサイドに流していて、反対側は髪を耳にかける大人っぽいヘアスタイルだ。
「ピンクアッシュと美容室で言えばやって貰えるよ」という色に染められている髪は、いつもフワッとしていて、同じ男とは思えないような良い香りがする。



「葉月君は、誰よりもかっこいいよ!だから……また服をちょうだい」

コイツ、と笑ってから葉月君は俺を小突いた。
出会ってから今まで、葉月君からはいっぱい洋服のお下がりを貰っている。

初めて貰った服はブランドもののリバティプリントのシャツだった。
生地の色はクリームがかったホワイトで、キクやユリ、デイジーといった小さな花々が連なるようにいくつもプリントされていて美しかった。
シルクのような柔らかい生地は肌触りがよく、「これ洗濯しても、アイロンがけは必要ないから」と葉月君も得意そうにしていた。

「せっかくあげたのにどうして着てこないんだ」と怒られた時に、「オシャレすぎて、合わせる服が無い」と正直に言ったら、哀れむような顔をされた後、「これと着な。パンツは細身でネイビー……無ければ黒でも良いよ」と黒のカーディガンも譲ってくれた。



春と夏は葉月君から貰った服を、葉月君のアドバイス通りに着て乗り切った。



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