だってスリスリさせてくれるって言ってた!

サトー

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秋と冬はオシャレな人がいっそう輝く季節だと思っている。



まず、アウターが着れるのが大きい。コートやジャケットでカッチリとした雰囲気も格好いいし、ブルゾンやパーカーをスポーティーに着こなすのも上級者感があっていい。
黒やグレーのアウターはビル郡やアスファルトに馴染んで都会的だと思うし、キャメルは、着ている人を明るく洗練された印象に見せる。

葉月君みたいなオシャレ上級者は、グレーのチェスターコートをさらっと上品に着ていたかと思えば、翌日にはスポーツブランドのダウンをカジュアルに着こなしたりする。
レザーやウールのアイテムを取り入れ、生地の素材感で上手く遊ぶことも忘れない。

寒い季節になってからは、葉月君がどんな服を着ているのか見るだけでも毎日が楽しかった。
会うたびに「えっ!かっこいい!」「いいなあ、葉月君はなんでも似合うから」と大騒ぎした。葉月君も機嫌が良い時は「あげる」と、服や小物をちょこちょこくれた。
そのたびに「やったあ!葉月君サイコー!大好き…」と嬉しくて嬉しくて堪らなくなった。







「あっ!葉月君、今日も気持ち良い服着てる!」

待ち合わせ場所の喫煙所に来て早々、俺がそんなことを言うと葉月君は、「言うと思った」と目を細めて笑った。
俺を待っていた葉月君が着ていたのはグレーのシャギーニットだ。

葉月君が初めて毛足の長いフワリとしたニットを着て現れた時、「男がふわふわモフモフした可愛い服を着てる!?」と俺は衝撃を受けた。

俺の育った島は年中暖かくて、冬であろうと誰もニットなんか着ていなかった。
子供の頃、学校に長袖を着ていこうものなら「具合が悪いのか?」と先生や友達から聞かれるのが当たり前だった。だから、アウターやセーターといった冬物なんてロクに着たことが無かった。
そもそもオシャレなニットを売っている店が無くて、持っている服はナイキやミズノの運動着ばかりだった。

そのせいか、誰かから聞いた「ニットはチクチクする服」という情報しか知らなくて、葉月君が着ているようなふわふわモフモフの服なんて触ったことが無かった。



「ねえっ!今日も触らせてよ!」

葉月君に「この服……シャギーニットって言うんだよ。気持ちいいから、触ってみ?」と言われた時。
初めて触るふわふわした感触が余りにも気持ちがよくってビックリした。
それ以来、葉月君がシャギーニットを着ているたびにお腹や背中、腕をさわさわと撫でるのが癖になってしまった。
あんまり俺がベタベタ触るからなのか「他に人がいる所では駄目だ」と葉月君が言うようになって、最近では二人きりの時にしか触らせてくれない。


「……外だから駄目だよ」
「ええーっ!そんなあ……触りたいよ!じゃあ、早く俺の家に行こうよ!」
「今日はラーメンを食べに行くんじゃなかった?」
「んー……でも、早く触りたい……。俺の家でご飯食べちゃダメ?」
「陸がコンビニ飯でも良いなら、俺は全然構わないけど?」
「やったーっ!」

コンビニの食べ物は何度食べても飽きない。田舎の個人経営の商店で売ってる、お婆ちゃんの作った油味噌や炊き込みご飯のオニギリとは違う味わいがある。
冷えていても、美味い。というか、俺は冷えている方がコンビニの食べ物らしくて美味いとすら感じる。



二人でセブンイレブンに寄って、オニギリやジュース、ホットスナックにお菓子を買った。
「早く二人きりになって触りたい」とソワソワしていたら、思わず早足になってしまっていたらしく葉月君に笑われた。

俺の一人暮らしのアパートに着いてすぐに「はい、着いたよ。触らせて?」とねだったら、ご飯の後だと断られた。
さっきまでお腹はペコペコだったのに葉月君のことで頭がいっぱいでオニギリしか食べられなかった。

目の前でモグモグと唐揚げを食べている葉月君が、垂れてきた髪を慣れた手つきで耳にかけた。
指が細くて、長い。この人は仕草までなんだか、お洒落だ、

「いいな、葉月君はかっこよくて……。俺、冬になってから、葉月君がオシャレしてるところを見るの、毎日楽しみだもん」
「……べつにそこまでオシャレなんかじゃないよ、俺は。……俺、いつも思うよ。女に産まれてればもっといろんな服が着れただろうなって」
「ええ……、オシャレだよ!葉月君がオシャレじゃなかったら、俺なんて服着て無いのと一緒じゃん!」

葉月君は「なんだそれ」と失笑していたけど、俺は本気だった。けれど、葉月君が女だったら、やっぱりスラッとしていて、オシャレで綺麗だろうなあ、と勝手に想像してしまった。

「……俺、葉月君が女の人でも葉月君のことが大好きだろうなあ」
「女の人でも?」

何それ、と葉月君は小さく笑った。普通、逆だろうと。葉月君の言い分だと「女の人だったら大好き」と言うのが、正しいらしい。

「でも、俺、男の葉月君が大好きだから……」
「……ああ、そう。どうもありがとう」
「うん。だからさ……これ、ちょうだい?」

葉月君の着ているニットの裾を掴んでおねだりしたけど、返事は無かった。葉月君は何か言いたそうにした後、「……いいから飯を食べろよ」とそっぽを向いてしまった。





「も、もういい……?」

葉月君が食後の一服を始める前に、大慌てでそう尋ねたら「いいよ」と頷いてくれた。
嬉しくて、ベッドを背もたれにしてフローリングの床に座っている葉月君の側にぴったりとくっついた。

「ありがとう。じゃあ遠慮なく……」

そうっと葉月君の腕の部分に触れる。質の良い大きなぬいぐるみを撫でているみたいで一気に幸せな気持ちになった。
ほう、と思わずため息を漏らすと、葉月君がくすりと笑った。

「……毎回毎回、よく飽きないね」
「うん。だってさ、すっごくフワフワしてて気持ちいい……」

そのまま身を乗り出してお腹や胸をペタペタと触る。
「しつこい。やめろよ」と怒られたのは最初の一回目だけで、それ以降は好きなように触らせてくれる。
本当は小さな子供が着ぐるみにするみたいに、抱きついて頬擦りしたい。けれど、さすがにそこまでベタベタしたら怒られるだろうからいっつも我慢している。
でも、そう出来たら幸せだろうな……とうっとりしながら葉月君の胸を撫で回した。

「……陸」
「うん……?」
「なんつー顔をしてんだよ……。そんなに、このニットが好きなら陸も買えば?」
「うーん……。そうだよねえ……。いいなあ、俺もこれ欲しいなあ……。ねえ、葉月君、お願い、これちょうだい?」
「はあー?さっきから駄目だって言ってんのに……。今季買ったばっかりだっつーの……。
それに、陸にはグレーよりもブラックのが似合うと思うけど」
「うん……」

色の似合う似合わないは、わりとどうでも良くて、俺は葉月君の着ているこのニットが欲しかった。
背中や胸を触っている時、葉月君の身体からは、いつもほんのり良い香りがする。
正直に言ったら「キモ。この変態」と言われて二度と触らせて貰えなくなりそうだから一度も言えていないけど、フワフワした手触りと良い匂いに包まれると頭がぼーっとして、ものすごく幸せな気分になる。
気持ち悪がられるだろうけど、全く同じ新品じゃなくて、葉月君の匂いがついたものの方が俺にとってはよっぽど価値があった。



けれど、「しょっちゅうしょっちゅう葉月君も迷惑かな……」と思うこともある。
今日だって前からラーメンを食べに行く約束をしていたのに、俺のわがままで予定を変更してしまった。
葉月君に悪いことをしたかも……と落ち込んでいると、「じゃあさ」と葉月君が俺の手を掴んだ。




「このニット着てみる?もし、サイズが合うなら陸にあげるよ」
「本当……?」

願ってもみないチャンスだった。葉月君と俺の身長は数センチしか変わらない。ほんの少し葉月君の方が大きい。
けれど、葉月君は頭が小さくて首が長いからスラッとしていて格好いい。ごくごく一般的な痩せ型の体型の俺とは全然違う。
葉月君が着ている服が入らないということは無いだろうし、着る前からすでに「この服が、も、貰えるなんて……!」という気分になっていた。

葉月君はモゾモゾとその場でニットを脱いで「はい」と俺に手渡してきた。代わりに、風邪を引かないようにと、部屋着にしているアディダスのパーカーを貸した。

葉月君がパーカーを着ている間に、ニットを持ってコソコソと脱衣所へ向かおうとすると「あれー?陸ちゃんどこ行くのー?」とからかうような声に呼び止められた。



「……い、インナーがダサイとか言われるから……」

カッコ悪い姿を見られるくらいなら、「陸ちゃん」と呼ばれて煽られることくらい我慢出来る。
それにサイズが合うことさえ証明出来れば、このふわふわモフモフした服は俺のものになる。
葉月君の香水の甘い香りにドキドキしながら、服を着替えた。高級な石鹸みたいな甘くて優しい匂いだった。
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