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呼び方(1)
大好きです、もっと一緒にいたいですと生田さんに正直に伝えられるなんて幸せだなあと最近思う。
「えっ!? ここで終わり……!? えー、続き、気になるなあ……」
「鈴井さんがよかったら、キリのいいところまで観ていったらどうだろう? そのまま泊まっていってもいいし……」
なんだか、もうちょっと居座りたいってねだっているようになってしまったけど、生田さんは「蟻編はおもしろいからな……」と、次のエピソードを再生してくれる。今日はこのまま生田さんの部屋にいてもいいんだ。嬉しくて「やったあ」とはしゃいでしまいたくなる気持ちを誤魔化すように、皿に残っていたおかずを急いで食べた。
いろいろあったけど生田さんと付き合えることになって、当たり前のように二人で過ごせるようになった。お金を貰っていた頃は俺から会いたいってねだることは出来なかったから、それがすごく嬉しい。
最近は、時間が合えば生田さんの家で一緒に夕御飯を食べる。生田さんが作ってくれるおいしいご飯を食べながら、アニメを観るのが俺にとって、何よりも楽しみだ。
生田さんの家はテレビでYouTubeもAmazonプライムも、Netflixもなんでも観ることが出来る。それに、生田さんはなんでも知っているから、俺の知らない面白い作品をいっぱい教えてくれる。十二話全部を観て結局よくわからなかった『少女終末旅行』『廻るピングドラム』についてはわかりやすく解説をしてくれるし、生田さんが好きだって教えてくれたジョジョのアニメも面白かった。
そういえば付き合う前と違って、生田さんが自分のことをたくさん話してくれるようになった気がする。
今までは俺の話を聞いてもらうことの方が多かったけど、何が好きだとか、会社でこんなことがあったんだよとか、そういうことを聞かせてくれる。最近はやっていないけど一番好きなゲームはバイオハザードシリーズ。物知りだから、通向けの音楽を聴いているのかなと思っていたら、「わかりやすいから」という理由で意外と日本で広く知られている海外アーティストのヒットチャートが好きなこと……。
そういう細やかな変化から、ちょっとずつ進展しているんだって感じられて嬉しい。嬉しいけど、でも、もっと恋人らしくなりたいって俺は思う。
「鈴井さん、食後はアイスでもいいかな」
「えっ、あ、はい、食べたいです……」
鈴井さんが好きそうな味をいっぱい買ったんだよと冷凍庫へいそいそと向かう生田さんを見ていたら、俺はすごくちっぽけなことを気にしているんじゃないかって気がしてくる。幸せでなんの不満もない毎日だけど一つだけ俺が気にしているのは……。
未だに俺達はお互いを苗字にさん付けで呼び合っている、ということだ。
たまたま同じマンションの隣室に住んでいるという関係だったわけだし、俺と生田さんには十歳の年の差があるからそれが普通なのかもしれない。生田さんは相手が自分より年下であったとしても、優しく丁寧に接してくれる人なんだってことは俺もよくわかってる。でも、付き合っているのに、この呼び方のままってなんだかよそよそしく感じるのは俺だけなんだろうか。
こ、この前は、初めてセックスだってした。何もかも生田さんにお任せしてしまって俺は何も出来なかったけど、でも、大好きだって伝え合えた、二人にとってすごく大事な時間になった。距離もぐっと縮まったんじゃないかって俺は思っているけど……。
名前の呼び方を切り替えるタイミングは完全に逃してしまっている。
リンちゃんは、生田さんより年下だけど普通に「ユウイチ」って呼んでいたな、ということがふっと頭を過る。上手く言えないけど、生田さんの家の鍵を返せって言われた時と、少しだけ似たもや~っとした気持ちになった。そういう関係じゃないってリンちゃんは強く否定していたし、いじいじと悩んでいた俺の背中を押してもらったのだから、こんなこと思っちゃいけないってわかっているのに……。
「あっ、鈴井さん垂れてるよ」
「へっ……? うわっ」
考え事をしていたせいで、チョコレートでコーティングされたバニラアイスが溶け始めてしまっていた。あたふたしながら、手の甲についたアイスを舌で舐めとっていると「んっ!?」と生田さんが目を見開いていた。
「あっ、すみません、すみません……」
きっと行儀が悪すぎてビックリさせてしまったんだ。でも、生田さんは「違うんだ! 何も気にしないでどうかそのまま続けて」と言ってくれた。
考えすぎて生田さんと一緒にいるのにぼんやりとしてしまうなんて俺って本当にダメだ。生田さんの部屋が汚れなかったことはよかったけど、慌てていたせいで食べ終わった後、アイスの味は「冷えてて甘い」ということしか覚えていなかった。
「疲れているのかな……? アニメはここで終わりにしようか」
なんだか様子が変だ、ということに気がついたのか生田さんは、そろそろ休もうと優しく声をかけてくれる。
「あの、せっかく一緒にいるのにぼやぼやしてすみません……」
「ん? いいよ。何をやっていても可愛く見えるから」
生田さんの喋り方は、YouTubeの動画で使われている合成音声に似ている。淡々としていて抑揚がない。でも、表情や俺に向けられている眼差しを見ていたら、本当に「いいんだよ」って思ってくれているのがわかる。
……名前で呼び合いたいです、って言ってみてもいいのかな。よくよく思い出してみたらラブホテルに行った時も「今日だけ付き合ってる人だと思っていい?」と言って、生田さんは俺のことをマナトって呼んでいたし……。ということは生田さんも本当はマナトって呼びたいと思ってるんじゃないかな?
「あのー、生田さん」
「ん?」
「……また、俺のことマナトって呼んで」
今まで付き合っていた人からは当たり前のように「マナト」と呼ばれていたから、こんなお願いをするのは初めてだった。小さなことだけど、生田さんともっと近づけて、もっと恋人らしくなれたらいいのに。
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