元お隣さんとエッチな暮らし

サトー

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ポスト投函(2)

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◇◆◇

「定額小為替を使うとか、現金書留を郵便局留めにするとか、方法はあるから大丈夫だと思う」という連絡がユウイチから来たのは数日後のことだった。俺は「こがわせ」と「きょくとめ」がどういったシステムなのかは、よくわからないけれど、これからもタクミにバレずに金が貰えるのならばそれでいい。

「なーんだ、余計な心配をかけやがって」とぼやきたくはなったが、ユウイチからの小遣いはバイト暮らしの俺には貴重な資金源だ。「何に使おう」と想像しただけで気分が明るくなる。
 貰ってもいない金の使い道を考えていたところで、そういえば一番最近送られてきた現金書留に同封されていた手紙のことを思い出した。

「あれ、どこにしまったんだっけ……」

 文章については一切確認していないものの、薄い水色の便箋がぎゅうぎゅうに封筒へねじ込まれているのを見ただけで「キモ」と腕に鳥肌が立った。
 あんな手紙、読まなくたって俺の生活には一切支障はない。たまたま今日は休みで、タクミも一人で釣具屋へ行っていてする事がないから、なんとなく気になっただけだ。それで家のあちこちを探し回って、ようやくタクミのじーちゃんの仏壇の引き出しにしまったのを思い出した。

「はあ……」

 一応、全部に目を通したけど、ただただどうしようもないことしか書かれていなかった。便箋二十枚にぎっしりと筆ペンで手紙を書いて送ってくるなんて本当にどうかしている。いったいこれだけの文章を書くのにどれだけの時間を費やしたんだろうか。ユウイチが無表情で机に向かいせっせと字を書き続けている様子を想像したら寒気がした。

 書かれている内容の90パーセントが「マナトが可愛すぎる」というどうでもいい自慢で、唯一一か所だけ「おっ」と思えたのは序盤の「マナトが自分の両親と会った」という部分だけだった。

「そういえば先日、ごくごく短い時間ではあるものの、初めてマナトをうちの両親に紹介しました」

 どうして両親とマナトを会わせることになったのかとか、会ってどうなったのかとか、そういう所が気になるのに、肝心なことについては一切書かれておらず、マナトと両親の対面についてはその一行だけでさらっと終わっている。
 最後まで読めばどこかでそのことについて触れられるだろうかと思ったものの、あとは本当にどうでもいい話題がだらだらと続いているだけだった。

「運転中にマナトが時々サングラスをかけることがあります。これがもう、かっこよすぎて……。本人は一切自分のビジュアルを意識せずにただただ『眩しい』という理由でサングラスをかけるのですが、マナトは鼻が高くて横顔が綺麗なので濃い黒のレンズが大きめのサングラスが本当によく似合います。こんなにいい顔をしている青年(しかも、運転の腕も最高)の助手席に座るときっと誰もが好きになってしまうだろうと見惚れながら、運転中のマナトの横顔を堪能するのが俺の楽しみの一つになっています。あまりにも似合いすぎているため、薄い色のライトカラーサングラスはどうだろうとたくさん買ってきたら、マナトからは『こんなにいっぱい買ったの?』と笑われてしまいました。もちろん全部かけてもらって、写真にその姿を収めました」

 だからどうしたと言いたくなる、全部を読んだことを後悔したくなるようなエピソードだ。
 全く興味がないのにサングラスを前に「可愛い可愛い」「そんなことないよー」とイチャつくユウイチとマナトの様子が頭に思い浮かんで、「いったい俺は何を読まされているんだ」という気分になった。

 何が気色悪いって、書いているうちに興奮してきたのか、終盤になると字が微かに震えている。何段の腕だったかは忘れたけど、子供だったユウイチに長らく書道を教えていた師匠もまさか、こんな気味の悪い手紙を書くのにその腕を使っているなんて知ったら卒倒するんじゃないだろうか。

 手紙はもう一度じーちゃんの仏壇の引き出しにしまった。タクミにソックリな口下手で頑固だったじーちゃんだって、そんなものを預けられても困ってしまうだけだろうけど仕方がない。一応「じーちゃん、ごめんね」と仏壇に手を合わせておいた。

「まったく……」

 読んだだけで余計なエネルギーを消費させられるような、そういう文章だった。
 ユウイチからの手紙の最後にも「忙しい日々が続くと思いますが、リンちゃんもタクミ君もお体を大切にお過ごしください」という一言はあったが、卒業式、定年退職、入社祝い、入学式といった注文が殺到するような繁忙期がようやく終わり、母の日までは一息つけるような、今はそんな時期だ。本当に迷惑なヤツだ、と腹を立てながらタバコを吸ってぼんやりと過ごした。

  毎日忙しかったせいで俺の手は相変わらず乾燥がひどい。心なしか三十歳になってから、手の水分量自体も減っているような気がする。見かねたゲイ友が「使って」とジョンマスターオーガニックのハンドクリームをくれたぐらいだ。

 俺の手がボロボロになってしまうほど、日々、世の中では誰かが誰かのことを祝う。誕生日や母の日、バレンタインといったイベント以外にも、昇進だとか栄転だとか、開店祝いだとか、とにかく人から人へ、祝いの花は贈られる。「推し俳優の初舞台なんです」と若い女がすごい金額のスタンド花を注文していったこともあった。タクミと二人で四苦八苦しながら、推しのイメージカラーだというオレンジ色の花を使い、スタンドをリボンで飾り付けたのを思い出す。

 花束で腹は膨れない。相手の幸福を「よかったじゃん」と喜ぶ気持ちを形にしているだけだ。ただただ、相手の人生の節目を祝ってやりたいから、という理由だけで高価で華やかな花が贈られる。
 稼がないと生活が出来ないから、普段はそんなことなんか特別意識せずにせっせと注文どおりのものを作っている。ただ今日はユウイチからの手紙にさらっと書かれていた、マナトを両親に紹介した、という一文に「ふーん、よかったじゃん」という気分になったから、なんとなく今まで作ってきた祝いの花について思い出してしまった。
 ユウイチの両親がどういう反応を示したのかはわからないけど、「一緒に住んでるんだ」とたんたんとマナトを紹介するユウイチの様子はなんとなくイメージ出来る。きっとマナトは張り切りすぎてガチガチになっていただろうけど、愛嬌はあるしなんとかなったんだろう。
 手紙にいちいち詳しく書かなかったのは、たぶん、マナトと両親との対面が、ユウイチにとっては日常にさっと馴染んでしまうような、そういう出来事だったんじゃないだろうか。だから俺も大袈裟に喜んだり、根掘り葉掘り聞いたりはせずに、「へー、やるじゃん」と心の中で思うだけにしておいた。

 
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