俺のすべてをアーシュ様へ

サトー

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★冬の記憶(4)


◇◆◇

「シシィもここがずいぶん気に入ったようだね」

 外の景色を眺めていた俺はアーシュ様から微笑みかけられてハッとする。葡萄酒に少し口をつけただけでなんだかぼんやりしてしまっていることを見透かされているような気がした。
 アーシュ様は「着いたばかりだ。ゆっくり休むといい」と、俺をふかふかの長椅子に座らせて、見るからに高級そうなグラスに葡萄酒をたっぷりと注いでくれた。まだ女の人の格好をしているままのアーシュ様のお着替えを手伝ったり、荷物を片付けたり、やらないといけないことはたくさんあるけれどアーシュ様の言うとおりにした。俺を気遣ってくれているのだとわかっていたし、それに、この静かな空間でせかせかと動き回るのはよくないことのように感じたからだった。

 甘いお酒は飲めるけれど、何度飲んでも葡萄酒は葡萄から作られたとは思えないような、酸っぱくて複雑な味がする。でも、アーシュ様にそう伝えたら、きっと「シシィにはまだ早かったか」と子供の頃と同じようにリンゴのジュースを勧められるかもしれない。俺がもう大人になったことを証明したくて、ぐい、と一気にグラスの半分ほどを流し込んだ。

「はい、ここは素晴らしくて、外の景色はいくら見ていても飽きません。こんな、素晴らしい場所に俺のことを、連れてきてくださって、本当にありがとうございます……」

 アーシュ様と一緒に暮らす前に読んで勉強した本には、「たとえどれだけ楽しかったとしても、お酒を飲み過ぎてひどく酔っ払ってはいけない。特に伴侶のいない所では」と書かれていた。少し顔が火照ってぼーっとしているだけで、俺はまだ酔っ払いすぎたわけじゃない。それにアーシュ様と二人きりなのだから大丈夫……。
 言い訳をするみたいに頭の中であれこれ考え事をしながらグラスを手の中で弄んでいるとアーシュ様からの強い視線を感じる。慌てて顔を上げると、アーシュ様の真っ白な手が俺の頬に触れた。

「私は嬉しいんだ。特別な場所に君を連れてくることが出来て」
「ほんとう……? 俺も、嬉しいです……」
「……でも、シシィは外の様子に夢中だ。汽車の中では私のことだけをずっと見ていたのに」

 低く呟くような声と、俺の顔を覗き込んでくる灰色の瞳。ドキリとしてグラスを落としそうになった。汽車の中でずっと女の人の格好をしたアーシュ様に見とれて、こっそりとイタズラを仕掛けられた時には妙な気持ちになっていたことを見透かされているような気がしたからだ。
 アーシュ様だって自分が人をどぎまぎさせるような美しさを持っていることを知っているはずなのに。顔を背ける俺を簡単に捕まえて、嬉しそうにクスクス笑う。


「ここが、特別な力で作られた世界というのがまだ信じられなくて……。それに……」

 アーシュ様はうっすらと微笑んで俺が話すのを待っている。きゅっと口の端が上がった艶やかな紅い唇と、柔らかそうな真っ白な肌。二人きりの空間で傍にいるアーシュ様を直視できず、外ばかり眺めている俺を、面白がっているのかもしれない。

 特別な場所で、こんな気持ちになるのはきっといけないことなんだと思う。だから俺はすごく困っている。ただでさえ葡萄酒のせいで頭がぼうっとしているのに、じりじりとアーシュ様が身体を近づけてくるからだ。小さなトカゲや鳥を狙う猫のように、いつの間にかアーシュ様は俺にぴったりと身体をくっつけていて、くすぐるように俺の頬を撫でる。

「あの、アーシュ様、お疲れでしょうから、着替えてゆっくりなさった方が……」
「ああ。私はシシィとゆっくり過ごすためにここへ来たんだ」
「わ、あ……」

 ひょい、と俺の手からグラスを取り上げた後、崩れるようにしてアーシュ様に長椅子へ押し倒される。

「可愛いシシィ。汽車の中で恥ずかしそうにしていた時から、私は君に触れたくてたまらなかった。少しでも目を離したら誰かに攫われるんじゃないかと私は不安になるのにいつだって君は無防備だ」
「あ……、ダメ、ダメです、こんな明るい部屋で、そ、外からだって見えちゃう……」

 見えないよ、ここは私とシシィの二人だけだからとアーシュ様が楽しそうに言う。
 カーテンが開いたままの窓からは、相変わらずきらきらと光り輝く青空と、庭の木の枝が風でそよそよと揺れているのが見える。その光景はあまりにも穏やかで美しく、時間の流れさえもゆっくりと進んでいるようだ。
 それでも俺にはまだすべてが特別な力で作られているなんて信じられなかった。本当はどこか、遠い町のはずれにある場所と繋がっていて、今にもこの家の前を散歩中の誰かや郵便配達の人が通りかかるかもしれない。俺とアーシュ様のしようとしていることが誰かに見られてしまうような気がして気が気じゃなかった。

「誰もこの世界を覗くことは出来ない。何重にも結界が張られているからね。……見られても私は構わないけれど。シシィを誰よりも愛しているのは私だと、誰かに見せつけるのも悪くない」
「ダメ……、ダメです……」
「……でも、誰の目にも触れないように二人きりの世界に閉じ込めてしまいたいと思うこともある。シシィは無垢でとても可愛いから。私の心はいつだって、どうすればシシィに自分だけを見てもらえるのかということで悩んでばかりだ……」

 そう言ってから俺が何か言葉を返すよりも早く、アーシュ様の紅い唇が俺の唇を塞いだ。俺の上に覆い被さっているアーシュ様はふんわりとしていてあったかい。冬用のドレスのせいだろうか。目を閉じてアーシュ様の舌を受け入れていると、甘いいい香りがした。花や果物といった自然のものとは違う鼻をくすぐるような匂い。化粧品の匂いだろうか。アーシュ様のきらきらと輝いていた瞼やさらっとした頬を思い出しながらうっとりと目を閉じる。

 慌てているような手つきでアーシュ様は俺の着ている服を掴んだ。このままここで、アーシュ様から求められることを受け入れていいのかどうかまだ俺は迷っている。だから、アーシュ様の手を掴んで小さく首を横に振った。暴れてアーシュ様に怪我をさせてしまったら大変なことになる。だからそっと、恥ずかしいです、と伝えることしか出来ない。

「ん、う……」
「好きだ、シシィ。汽車の中でもずっと我慢していたんだ」
「でも……」
「誰にも邪魔されずに……。シシィのことだけを思って過ごせるのを私だってずっと楽しみにしていた」

 アーシュ様の唇が俺の首筋に何度も吸いつく。くすぐったさに全身がゾクゾクする。くたりとした俺の身体はアーシュ様にぎゅっと抱き締められている。瞳も睫もお人形のように繊細で美しいけれど、俺に触れる手は熱く、力も強い。
 このままここでシシィが欲しいと言葉でも触れ合いでも情熱的に求められて。それで、とうとう俺は目を閉じたまま頷いてしまっていた。

「ん……、……いいですよ。こんな明るい部屋で服を脱ぐのは恥ずかしいですが、俺も……アーシュ様が欲しいです」

 葡萄酒の影響が大きいのだろうけれど、真冬なのにあたたかい不思議な場所で俺の心はふわふわとしていて、なんだか自分のものじゃないみたいだった。何時なのかわからないけれど今が昼間と同じくらい明るいということも、アーシュ様も俺もよそ行きの服を着ているということも、どちらも「まあいいや」と感じられてしまう。なんだか温かいお湯に浸かっているみたいに、俺の心は緩んでしまっていた。


 アーシュ様に促されるまま、俺は手を上げたり腰を浮かせたりして着ている服を少しずつ脱がせてもらった。下着だけの格好になって肌が部屋の空気に触れた時、俺は自分の身体が火照っていたのだと気がついた。

「……冬のシシィを脱がせるのはなかなか大変なことだ。特に今日みたいに待ちきれない時は」
「家を出る前のアーシュ様が、俺に服をいっぱい着せたんですよ」
「……そういえばそうだった」

 バツが悪そうにしながら俺を抱き寄せるアーシュ様の腕の中で俺は少しだけ笑った。さっきみたいに、「欲しい」という気持ちを思いきりぶつけられながら求められるのも好きだけど、こんなふうにフッとアーシュ様の表情が緩んで和やかな雰囲気の中で触れあうのも好きだ。そこには必ず他の人は知らないようなアーシュ様の一面が存在しているから。
 俺の心の奥にもアーシュ様を独り占めしたいという気持ちがあるのかなあ。それをアーシュ様みたいに言葉にして伝えることが俺には難しい。

「私の服は?」

 にや、と笑うアーシュ様に俺は目を逸らすことは出来ないままぱちぱちと瞬きを繰り返した。シシィが脱がせるんだ、という意味なのだろうか。それとも。

「えっと、できればそのままで……、そのままの格好のアーシュ様に、俺のことをたくさん……」

 愛して欲しいです、までは言えなかった。愛して欲しいという言葉に含まれている意味をアーシュ様に知られることが恥ずかしかったからだ。明るい部屋の中で、女の人の格好をしたアーシュ様に「女の格好をした私に抱かれて喜ぶなんて。なんていやらしい身体だろうね」といじめて欲しいなんて。ぐしゃぐしゃに泣いてしまうまで激しく求められたい。その後で「いい子だ」と慰めて欲しい……。

「おいで、シシィ」

 今この瞬間アーシュ様に俺の心は見られてしまっているのだろうか。優しく微笑みながらアーシュ様はドレスの胸元についている真珠のボタンを一つずつ外していく。
 上と下が分かれている服じゃないと、愛し合うときは不便だねというアーシュ様の言葉にすら俺の鼓動はドキドキと早くなっていくばかりだった。

「……下着もドレスもまた買えばいい。ほら、シシィの好きなようにしてごらん」

 優しい言葉に導かれるようにして、俺はアーシュ様をゆっくりと押し倒してから真っ白な胸元に顔を埋めていた。ドレスが直接肌に触れないようアーシュ様はすべすべした下着をつけていたけれど、それを無理やりずり下げてから、大好きな人の胸元に何度も口づける。俺と同じようにアーシュ様の肌の表面には熱が籠もっていて、うっすらと汗で湿っていた。化粧品や香水の匂いとは違う。もっと男っぽくて、濃いいい匂いがするような気がして、俺は夢中でアーシュ様の胸に唇を寄せた。

「ん……、シシィ……」

 胸の先に唇で触れるとアーシュ様の肩が小さく震える。子供の頃からずっとずっと憧れていた人に、俺は今すごくいけないことをしているんじゃないかって、そんな気持ちになった。それなのにやめられない。アーシュ様の声がもっと聞きたいし、肌に触れたい。自分の舌や唇の動きにアーシュ様が反応してくれることが嬉しくて、片方をぺろぺろと舐めながらもう片方を指の先で摘まんだ。
 アーシュ様の長い指が俺の髪に絡まる。優しく触れているけれど、でも、しっかりと頭を押さえている。「このまま。もっと」と言われているのだとわかったから、俺は顔も上げずに舌を使い続けた。

「ああ……、可愛い……、こんなに夢中になって……」
「ん、んぅ……」

 アーシュ様の胸に吸いつきながら俺は何度ももぞもぞと腰を揺らしていた。身体中の熱が一カ所に集まっていて、それを発散したい気持ちを我慢するためだった。

「アーシュ様、俺、もう……」
「ん?」
「うう……」

 自分で触りたいです、と言いたいけれど言えない。どうしてだろう、アーシュ様が怖いわけではない。下着だけの格好で四つん這いになってアーシュ様の胸を舐めているうちに、なんだか心まで、ご主人の許しを待つ犬のように従順になってしまっていた。アーシュ様が大好きという気持ちと、アーシュ様をいやらしく求める心を恥ずかしいと思う気持ち、両方の間で揺れながら、俺はアーシュ様の胸に舌を伸ばした。

「こんなに硬く大きくさせて可哀想に……。我慢しているんだねシシィ、そうなんだろう?」
「ひゃ、う……」

 爪を赤く塗ったアーシュ様の指先が下着越しに俺のアソコを撫でる。もどかしい快感がじんわりと身体を走って、俺は背中を大きくしならせていた。くく、と笑った後、アーシュ様は下着のシミになっている部分を何度もなぞる。

「あ、あ……っ」
「いい子だ、シシィ。いい子のシシィにはご褒美をあげないといけないね」
「ごほうび……?」
「ああ、そうだよ。シシィが望むものをあげよう」

 俺の望むもの。俺の性器をつんつんと弄びながら、もう片方の手で胸の先をすりすりとなで回すアーシュ様はそれがなんなのか知っているみたいだった。

「あっ……、アーシュ様、ダメです、それ、我慢できない……」

 アーシュ様の手を払いのけて、自分の思うままに触ってこの熱を吐き出せたら。身体はそう望んでいるけれど、俺の心がそれを止める。ご褒美という言葉は俺の頭の中をじいんと痺れさせて、期待で俺の息は上がり、下着はすっかり汚れてしまっていた。

「そこに立って下着を脱ぎなさい。まだ君が知らないことを教えてあげるから」

 アーシュ様が指を指していたのは、明るい陽の光が差し込む窓の側だった。

「……はい」

 いくらここが特別な場所だと言われても。外の世界が見えるような場所でアーシュ様と愛し合うことにはやっぱり抵抗がある。それなのに、アーシュ様が欲しくて堪らない。

「脱いだら窓に手をついて。全部を私に預けるんだ」
「はい、アーシュ様……」

 そうしたからといって何かが変わるわけではないのに。普段よりずっと時間をかけて俺は下着を脱いだ。窓の外に広がる春の美しい景色をなるべく目に入れないようにしていたのかもしれない。

「で、できました。ご褒美が欲しいです……」

 俯いたまま手をついて俺は腰を突き出す格好になった。柔らかい光に照らされた窓枠が温かい。アーシュ様と暮らしているお屋敷では絶対に出来ない格好だった。
 結界があるとわかっていても、気持ちが落ち着かない。外から裸を見られるかもしれないのに、と思うと顔が熱くて目が潤んでくる。それなのに俺の性器は硬くて熱を持ったままだ。

「いい子だね、シシィ」

 ドレスが擦れる音が聞こえる。脚をもっと開きなさい、というアーシュ様の声に頷きながら俺は小さく息を吐く。

「あ、ん……」

 熱い塊がゆっくりと擦りつけられる。アーシュ様を受け入れるための場所にひたひたと先端が触れて、そのたびに俺は小さく声を漏らした。焦らすように周辺を刺激するばかりで、アーシュ様はなかなか入ってきてくれない。

「ん、ぅ……、やだあ、欲しいのに……」

 外から丸見えの状態で裸で脚を大きく開いたまま、俺はアーシュ様を求めて何度も腰を揺らした。
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