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小さいXL(2)
しおりを挟む「やっぱり葉月君だった! 遠くから見てもカッコイイから、俺すぐにわかったよ!」
もう一度陸ちゃんが目の前に現れたのは数日後のことだった。講義をサボってタバコを吸いながら「この後も全部バックレて帰ろうかな」と迷っていた時に、喫煙所の前を通りかかった陸ちゃんの方から「葉月君!」と声をかけてくれた。
「久しぶり。ちゃんと道は覚えた?」
「うん! もうどこでも一人で行けるよ!」
今にも「褒めて」と言い出しそうな誇らしげな顔。あっ、と思った時には引き寄せられるようにして陸ちゃんの頭へ手を伸ばしていた。毛量自体が多いのか、密度が高い、こしのある髪質だった。
絶対キモイと思われてしまう、と慌てて陸ちゃんの髪をぐしゃぐしゃにして「よかったじゃん。えらい、えらい」と冗談っぽく言うと「やめてよ!」と抗議する声が聞こえた。
「あああ、俺の髪が……。ただでさえダサいのに、余計変になる……」
「ごめん、ごめん」
多少髪がボサボサであろうと、顔がいいおかげでちっともおかしなことにはなっていなかった。手櫛でせわしく体裁を整えながら「昨日もここで、葉月君が友達と一緒にいるところを見ました」と陸ちゃんは言った。
「えー? 声をかけてくれればよかったのに」
「……俺みたいにダサいやつが話しかけたら、迷惑だと思って」
「なんでよ? そんなワケないじゃん」
「葉月君も友達も派手……、じゃなくて華やかでカッコイイから、声、かけられなくて……」
陸ちゃんの言う昨日の出来事をよく思い出してみる。
俺を含めた全員が、髪の色も服装もがちゃがちゃしているうえに、喫煙所でだらだらとタバコを吸い講義にもろくに出ない連中ばかりだった。華やかと言うよりは、ただただガラが悪い。
さっきは考え無しに「声をかけてくれればよかったのに」と言ってしまったが、もしかしたら陸ちゃんは怖くて躊躇してしまったのかもしれない。
「……じゃあさ、今度二人だけで会おうよ」
「二人だけ? いいんですか?」
「いいよ」
本当に? と陸ちゃんはすごく嬉しそうに笑った。何気なく言ったつもりではあったものの、俺の手にはじっとりと汗が滲んでいる。陸ちゃんからの返事を待つ間、なんでですか、と聞かれたらどう誤魔化そうとか、そんなことばかりが頭に浮かんでいた。
今まで俺がつるんでいたのは自分と似たような、何をやっても「ダルい」と口にして、四〇パーセント程度の力で生きていくことに一生懸命になっているようなタイプばかりだった。だから、陸ちゃんのような明るくて愛嬌たっぷりの人種と接することにはそもそも慣れていない。そのせいか「葉月君って、カッコイイ」「また話せて嬉しい」とストレートに好意を示されると、すぐに気分がよくなってしまう。
素直に同姓を褒めてくる男にはロクなやつがいない。たぶん、誰に対しても自分の可愛さを活かしてこんなふうにベタベタしているに決まってる。そう思って警戒していたのに陸ちゃんはいとも簡単にガードをかいくぐって「葉月君」とじゃれついてくる。
「俺、まだこっちで出来た友達と何処にも遊びに行ってません。葉月君、東京スカイツリーって行ったことある? 楽しいですか?」
つまんないよ、東京に住んでるけどそもそも一回しか行ったことないし……と本当のことを口にするのを躊躇ってしまうほど、陸ちゃんは期待で顔を輝かせていた。
「スカイツリーねー……。まあ、行ってやってもいいけど」
「本当!?」
喜びすぎて、陸ちゃんは「連絡先を教えてくださいっ!」と慌てて取り出したスマホを落としてしまっても「うひ」と顔が笑っていた。陸ちゃんについて勝手に警戒していたことに罪悪感を覚える。それくらい、無邪気なはしゃぎっぷりだった。
「楽しみー! 葉月君、ありがとう~!」
「……ああ、そう。それならいいけどさ」
そっちがそこまで喜ぶなら、俺もまあそれでいいよ……という表情をすごく苦労して作らないといけなかった。少しでも油断したら誰にも見せられないようなデレデレしただらしない顔つきになってしまう。
そうして連絡先を交換した後は、あっという間に季節が巡っていった。
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