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新人対抗戦編
人外
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「何だ……一体何が起こっている……」
私はこれでも小国ではあるが、宮廷魔術師をしている。国としての軍事力は大国に劣るが、私個人としては、他国に劣らないものだと考えていた。
事実、これまでに他国の宮廷魔術師を見たときもそう変わらないレベルだと感じていた。
……だが目の前の現実はどうだ。これは上位魔術師の戦いではない。にも関わらず、当たり前のように王級魔術が乱発されている。
あのアリスとかいう少女、先鋒のあんな娘までもが王級魔術を使っているのだ。私でさえ王級の身体強化を秘奥としている程、難易度の高い魔術なのだ。
……あり得ない。こんなことがあり得ていいはずがない。私の半生が、あんな十年程しか生きていない子供と変わらないなどと……
王国だけじゃない。帝国もだ。帝国の学生は少し年齢が上のようだが、それでも私からすれば王国の学生と大差はない。
それなのに帝国の学生もそこらの木っ端魔術かのように王級魔術を使っている。
何か……何かが変わろうとしているのか。この時代を変える何かが起ころうとしているのだろうか。
そして決勝戦で私の自信は完全に打ち砕かれた。
「あれは何だ……!?」
「師よ……あれは人なのですか……?」
我が弟子が信じられないといった様子で頭を抱えている。当然だ。あんなものが人のはずがない。人が内包できる魔力を完全に逸脱している。
もはや目で追うことすら許されない人外の身体強化は、その軌跡が縦横無尽に舞台を走るのが見えるだけ。そしてそれらから放たれる魔法は大気を震わせている。そして頑強な結界に護られている舞台を脆い土壁か何かのように破壊している。
あれは……化け物だ。
帝国の大将も化け物だが、王国のあの子供……あれはあそこまでの力を解放しておきながら、まだ余裕を見せている。
あれではまるで……まるで深淵のようではないか。
過去に一度だけ深淵の戦闘を見たことがある。あれは人が近寄ることのできない地獄だった。私があそこから生きて逃げられたのは奇跡だ。
もっとも、やつらにとって私など路傍の石ですらなかっただろうが。
あそこにいる化け物は、それを連想させる。あの白い雷、帝国の大将も尋常ではないが、それすらも圧倒している。
私はあれが深淵が化けていると言われても信じる。
……一つだけ確かなことがある。私たちは……私たちの国は、今すぐに……すぐにでも王国へ同盟を申し入れるべきだ。
あれは人数でどうにかなるレベルではない。いればいるだけ、ただそこに死体が増えるだけだ。絶対に敵対してはいけない。
私たちの国が、あれにただの一矢を報いることすら想像ができない。何も出来ず、ただひたすらに蹂躙される想像が駆け巡る。
すぐに国へ帰らねば。そして王へ進言しなければなるまい。
予感がする。これから時代は大きく動き出すだろう。そしてそれに私たちが抗う術はない。抗うことのできる国を味方につけるしか方法はない。
帝国も同じだが、王国と敵対している帝国に同時に同盟を申し入れることは難しいだろう。
帝国は決して敵対している王国と同盟を組んでいる国を相手にしないだろう。むしろそんな状況で同盟など申し入れれば、真っ先に消されかねない。
「帰るぞ。すぐに王に会わねばならん」
「は、はい!」
失敗は許されない。失敗は、私たちの滅亡に繋がるのだから……
◆
「……もう一度言ってくれるか」
王が耳を疑うのも無理はない。あれを見ずに、聞くだけでは夢物語を語っているようにしか聞こえないだろう。
だが事実だ。そしてここで対応を誤れば国が滅ぶ。
「全て真実です。今すぐに、王国に同盟を申し入れるべきだと進言いたします」
「……聞かせてくれ。お主でも勝てないのか?」
「勝つ、ではありません。私程度では戦いにすらならないでしょう。私の攻撃は何一つ通らず、向こうの攻撃は一つでも当たれば死ぬ。これでは戦いになろうはずもありません。戦うという舞台に上がることすらできないでしょう」
「それほどか……何かが起ころうとしているのかもしれんな」
私と同じ考えだ。何か、は分からない。しかしあれは天才とかいう言葉で済まされるようなものではない。
「わかった。すぐに使いの者を出そう」
「ありがとうございます」
これで最低限の生き残る糸は掴んだ。後はこれを離さず、最善を選び続けるしかない。
私はこれでも小国ではあるが、宮廷魔術師をしている。国としての軍事力は大国に劣るが、私個人としては、他国に劣らないものだと考えていた。
事実、これまでに他国の宮廷魔術師を見たときもそう変わらないレベルだと感じていた。
……だが目の前の現実はどうだ。これは上位魔術師の戦いではない。にも関わらず、当たり前のように王級魔術が乱発されている。
あのアリスとかいう少女、先鋒のあんな娘までもが王級魔術を使っているのだ。私でさえ王級の身体強化を秘奥としている程、難易度の高い魔術なのだ。
……あり得ない。こんなことがあり得ていいはずがない。私の半生が、あんな十年程しか生きていない子供と変わらないなどと……
王国だけじゃない。帝国もだ。帝国の学生は少し年齢が上のようだが、それでも私からすれば王国の学生と大差はない。
それなのに帝国の学生もそこらの木っ端魔術かのように王級魔術を使っている。
何か……何かが変わろうとしているのか。この時代を変える何かが起ころうとしているのだろうか。
そして決勝戦で私の自信は完全に打ち砕かれた。
「あれは何だ……!?」
「師よ……あれは人なのですか……?」
我が弟子が信じられないといった様子で頭を抱えている。当然だ。あんなものが人のはずがない。人が内包できる魔力を完全に逸脱している。
もはや目で追うことすら許されない人外の身体強化は、その軌跡が縦横無尽に舞台を走るのが見えるだけ。そしてそれらから放たれる魔法は大気を震わせている。そして頑強な結界に護られている舞台を脆い土壁か何かのように破壊している。
あれは……化け物だ。
帝国の大将も化け物だが、王国のあの子供……あれはあそこまでの力を解放しておきながら、まだ余裕を見せている。
あれではまるで……まるで深淵のようではないか。
過去に一度だけ深淵の戦闘を見たことがある。あれは人が近寄ることのできない地獄だった。私があそこから生きて逃げられたのは奇跡だ。
もっとも、やつらにとって私など路傍の石ですらなかっただろうが。
あそこにいる化け物は、それを連想させる。あの白い雷、帝国の大将も尋常ではないが、それすらも圧倒している。
私はあれが深淵が化けていると言われても信じる。
……一つだけ確かなことがある。私たちは……私たちの国は、今すぐに……すぐにでも王国へ同盟を申し入れるべきだ。
あれは人数でどうにかなるレベルではない。いればいるだけ、ただそこに死体が増えるだけだ。絶対に敵対してはいけない。
私たちの国が、あれにただの一矢を報いることすら想像ができない。何も出来ず、ただひたすらに蹂躙される想像が駆け巡る。
すぐに国へ帰らねば。そして王へ進言しなければなるまい。
予感がする。これから時代は大きく動き出すだろう。そしてそれに私たちが抗う術はない。抗うことのできる国を味方につけるしか方法はない。
帝国も同じだが、王国と敵対している帝国に同時に同盟を申し入れることは難しいだろう。
帝国は決して敵対している王国と同盟を組んでいる国を相手にしないだろう。むしろそんな状況で同盟など申し入れれば、真っ先に消されかねない。
「帰るぞ。すぐに王に会わねばならん」
「は、はい!」
失敗は許されない。失敗は、私たちの滅亡に繋がるのだから……
◆
「……もう一度言ってくれるか」
王が耳を疑うのも無理はない。あれを見ずに、聞くだけでは夢物語を語っているようにしか聞こえないだろう。
だが事実だ。そしてここで対応を誤れば国が滅ぶ。
「全て真実です。今すぐに、王国に同盟を申し入れるべきだと進言いたします」
「……聞かせてくれ。お主でも勝てないのか?」
「勝つ、ではありません。私程度では戦いにすらならないでしょう。私の攻撃は何一つ通らず、向こうの攻撃は一つでも当たれば死ぬ。これでは戦いになろうはずもありません。戦うという舞台に上がることすらできないでしょう」
「それほどか……何かが起ころうとしているのかもしれんな」
私と同じ考えだ。何か、は分からない。しかしあれは天才とかいう言葉で済まされるようなものではない。
「わかった。すぐに使いの者を出そう」
「ありがとうございます」
これで最低限の生き残る糸は掴んだ。後はこれを離さず、最善を選び続けるしかない。
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