え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

文字の大きさ
7 / 68
第一部  離宮編

7.貯水と配給

しおりを挟む
貯水部屋に戻ってみると、防水の皮貼り作業はほぼ終わっていた。 

おおぅ、みんな仕事が早いわ~。 

今は皮を筒状に張り合わせてホース作りの最中だった。 

「お……これは使えそうだな~」 

柔らかな材質の皮は、まるで消防隊が使うホースのように折り畳める。 

「ライド王子、この皮ってどこから入手してるんだ?」 

「それはわが国では育たない動物の皮なので、隣国から来ている行商から買っています」 

定期的に来ているので来月にはまた来るという。 

「たくさん買えるかな?」 

「………何分、ここには特産物がないので、物々交換が出来ません。国費も回してもらえないので……」 

恥じ入るように俯く王子に、俺は慌てて首を振った。 

「いやいや、それはこの現状を見れば分かるし。そうか、何か手を考えないとな……」 

倉庫にまだ使わずに積まれている分があるというので、とりあえず全部出してもらって、ホースを何本も作ってもらうように指示する。 

これには、女性陣が私達が作りますと名乗り出てくれた。 

助かるわ~。 

「んじゃ、やってみようかね」 

何回もやっていると、雲を作るのも早くなってきた。 

まずはドドッと降らせて、腰の高さくらいまで一気に貯める。 

「ライド王子、触ってみてくれ」 

「……おおっ、冷たい!」 

水に手を入れた王子がビックリしている。 

よしよし、今回はめっちゃ冷たいイメージで降らせてみたんだ。 

もう、雹になる寸前くらいのイメージな。 

樽に詰めて運んだ先で、少しでも冷たさが残っていた方が熱中症には効果が期待出来るからな。 

「まずは教会に配給しないとな」 

窓の横に用意したホースを全部水の中に浸して端をヒモで縛っていると、兵士のひとりが柄杓みたいなものを持ってきた。 

「ん?何これ……」 

「え、あの……筒に水を掬い入れる為のものですが…」 

おおっと、ここは理科のお時間か。 

「ああ、いらないよ。これはね……」 

窓の下にいる兵士に声をかけてから、下に用意してある荷車の樽に向けてホースを投げ下す。 

「端を樽に入れたら、ヒモを解いてくれ」 

「はっ」 

ヒモが解けると、勢い良く水が出てくる。 

「おおっ、これは魔法ですか!?」 

「なぜ何もしていないのに筒の中を水が落ちていくのだ?」 

どよめく兵士達に原理を説明しようとして、イマイチ自分も理解していないことに気づいてしまった。 

「あ~、これは自然の法則を利用してるだけなんだよ」 

理科で習ったけど、案外覚えていないもんだなぁ。 

「何て言ったっけ?……サイフォンの原理だっけか?」 

う~む、説明出来んわ。 

まあとにかく手早く水を補充出来るから、良しとしよう。 

「アキラ様は博識ですね。素晴らしい知識をお持ちだ」 

うわ、ライド王子のキラキラの視線が痛い。 

やめてくれ、そんな大したもんじゃないし説明すら出来ないしな? 

回りの兵士たちまで、同じ視線になってる。 

「し、下に行こう」 

荷車を確認しに行こうと言って、俺は慌ててそこを逃げ出した。 

樽に水をどんどん入れている脇で、馬とラクダのあいのこみたいな動物がヤクーという名前だと聞きながら水をやっていると、医師のテッセルが籠を抱えてやってきた。 

「おお、アキラ様。こちらにいらしたか」 

抱えている籠には葉っぱがどっさり入っている。 

「これは何の葉っぱ?」 

「リルの葉ですよ」 

あ、石鹸の原料のか。 

「こんなに瑞々しい葉を入手出来たのは久しぶりです。これを水樽に何枚か入れて下さい」 

「へ?樽に?石鹸になっちまわないの?」 

俺は籠から葉っぱを摘み上げてしげしげと眺めた。 

楓とか紅葉のでっかい版って感じだけれど、葉の表面に朝露の細かいのみたいな玉がびっしりとついてる。 

不思議な葉っぱだな~。 

「ほっほ、石鹸にするには乾燥させて砕いて混ぜ物をしないと出来ませんよ。これはそのまま食べても美味しい植物です」 

どうぞ食べてみて下さいと言われて、おそるおそるかじってみた。 

「………お?なんか……表面のプチプチが塩味だ」 

「はい、これは塩分を含んでいる水泡なので樽に入れると溶けて少し塩水になります。また葉には殺菌作用もあるので水質劣化を遅らせます」 

「おお~、それはいいな。熱中症には塩分も取る必要があるし、一石二鳥だ」 

そのまま食べて良し、水に入れても良し、殺菌もできるし石鹸にもなる。 

リルの葉、万能じゃん。 

早速樽に入れるように指示していたら、持ってた葉っぱの残りをヤクーにパクリと食べられてしまった。 

「おわ!びっくりした~。そっか、お前も塩分欲しいよな」 

美味そうにムシャムシャ食べてるのを見て、前にテレビでトナカイが岩塩を齧りに来るという話を思い出した。 

「生き物には塩分は必要だよな」 

もう一枚葉っぱを齧ると、俺の世界にも似たような植物があったな~とぼんやり思い出した。 

アイスプラントとか言ったっけ? 

「アキラ様、リルの葉の加工で相談が……」 

おっと、ぼんやりしている時間は無かった。 

俺は葉っぱを齧りつつ、畑にとって返した。 

やる事が山積みだ~。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...