え?聖女って、女性がなるものだよね? ~期間限定異世界救済プロジェクト~

月夜野レオン

文字の大きさ
9 / 68
第一部  離宮編

9.水場建築

しおりを挟む
さて、今日からは作業を城と町で同時進行しなければならない。 

兵士達には更に頑張ってもらわないといけないが、水も食事もたっぷり摂れるようになって、皆のやる気はマックス。 

まず城の畑は、朝に種を撒いて一気に育成を加速。 

そのまま収穫出来るものは除いて、更に熟成を加速して最後は乾燥まで行って、なんちゃって干し肉や作物の種が回収出来るところまで進めた。 

これらを備蓄用に回収を頼む。 

リルの木も2本を乾燥までして、横に新しい木を育てる。 

備蓄食料の回収とリルの木の薪作りと石鹸作りに兵士20人を配置して、陣頭指揮をライド王子に任せた。 

医師のテッセルとリネルには、教会に水と食材、石鹸の配給に行く兵士に同行してもらって、病人の数と状態を把握してきてもらうことにした。 

俺はザウスと残りの兵士達とで建築材料を持って街の広場へ繰り出す。 

昨日の夕方から、俺は城の水場に一切近づかないで、当直の兵士に水の降水状態を監視してもらっていた。 

その結果、俺がすっかり降雨の事を忘れて爆睡している夜の間も、雨の勢いは変わらなかった。 

一度雨雲を作って降雨量を固定すれば、俺が意識していなくてもそのまま降り続けるらしい。 

不思議だけど、今は有り難い。 

 

「さて、準備にかかろう」 

広場に到着すると、早速目星をつけておいた中央に貯水場の建設を開始した。 

民達が何事かと集まってくるけれど、成功するまではパニックになるので内緒にしておく。 

「アキラ様、枠の高さですが、どの程度にしましょうか?」 

「そうだなぁ……」 

貯水槽自体は高さを3メートル、幅を5メートルの四角形にした。 

レンガに似たブロックを兵士達がどんどん積み上げていく。 

樹液から作る粘土みたいなもので隙間はピッタリと塞がる。 

その横に腰の高さくらいで5メートル角の枠を、更にその横に膝の高さの枠を作らせた。 

貯水槽の壁面に1ヶ所穴を開けて、そこから横の枠に水が流れるようにミニ滑り台を設置。 

腰の高さの上段からは、バケツで水を掬えるようにした。 

その横の中段は、動物達の水飲み場として、または洗い物なんかが出来るように横長に作った。 

最後の下段は、足とか汚れたものを洗う場にする。 

段々畑の要領だ。 

貯水槽の上には板で蓋をして敢えてブラックボックスにする。 

その中で雨雲を発生させて雨を降らせるので、見られないようにする為だ。 

聖女の奇跡を開けっ広げにする訳にはいかない。 

貴重な水源になるから、稼働後は兵士を常駐させないとだめかな。 

でも人手は猫の手を借りたいくらいだから、それは避けたい。 

「ザウス、相談があるんだけど」 

「はい、何でしょう?」 

横で作業の陣頭指揮をとっていたザウスに、タイミングをみてコッソリと声をかける。 

「水の供給源になる場所だから、監視というか管理者を置きたいんだけど、兵士は使いたくないんだ。何か良い案はないかな?」 

「ああ、そうですね。少ないとはいえ行商人や旅人も立ち寄る場所です。不法占拠や荒らしが出たらマズいし、治安悪化に繋がる恐れもありますね」 

ふうむ、と考え込む俺らに、兵士の1人が声を掛けてきた。 

「あのー、アキラ様。実は相談が……」 

「相談?」 

「俺の実家が水の販売を家業にしてまして、ここに給水場が出来ると商売が立ちいかなくなってしまうんですが……」 

「……それだっ!」 

「ひえっ」 

俺とザウスが同時に叫んだもんで、恐る恐る話してきたその兵士は仰天して尻餅をついてしまった。 

いや、申し訳ない。 

そうだよ、ここでは水は酒と同程度の有料物だった。 

ならばその商売をしている者達に、今度はここの管理をしてもらえばいい訳だ。 

「この町に何軒くらいあるんだ?その商売をしている家は」 

「えっと……5軒です」 

ちょうど良い数だ。 

聞けば水源に水を汲みに行って販売するその商売は結構過酷なので、みんな屈強な人が揃っているらしい。 

まさに最適な人員じゃん。 

砂漠を往復する荷馬車は夕方に出発して午前中に戻ってくるらしいので、夕方の出発前に城に集まってもらおう。 

数人の兵士に店を回ってもらって、荷馬車で城に来るように伝言を頼む。 

貯水プールは、夕方に何とか完成した。 

急いで俺だけを残して、広場を立ち入り禁止にする。 

「よし、やるか」 

粘土は乾くのに3日くらいかかるらしいが、そこはそれ、俺が加速をかければすぐに乾く。 

リルの木と同様にやればいいだけだが、うっかり人がいたりすると、即席ミイラが出来かねないから人払いをしたのだ。 

広場に干からびたミイラが点々とか、笑えない。 

範囲をよくよく意識して、乾燥を開始する。 

レンガの隙間からシューっと蒸気が上がって、樹液粘土の色が変わりだす。 

こいつは完全に乾燥すると黒くなるらしいので、分かりやすい。 

蒸気が消えて、レンガの隙間が黒くなったところで加速を止める。 

「これで完成だな」 

強度を兵士達と確認して、出来栄えを満足そうに眺めていたら、陽がだいぶ傾いていた。 

「いけねっ、城に戻らないと」 

水販売業者の荷馬車が来る前にと、ダッシュで帰って中庭で汗を流す。 

 

水を城で供給出来ると言われて半信半疑でやってきた業者達は、上から伸びてきているホースからドバドバと出る水に口をあんぐりと開いて固まった。 

「……水が………水が…」 

屈強な男共がみんなして口を開いて並んでいる光景は、ちょっと笑える。 

やっと我に返った男達に、ライド王子が口止めをしたうえで聖女様が降臨して水を与えて下さったのだと説明すると、男達は涙を流しながら、見えない聖女様に感謝を捧げていた。 

いや、路上でそのひれ伏しはやめよう。 

怪しい宗教みたいで怖い。 

俺は身バレするのは得策じゃないと思い、王子達と相談して一兵士に扮装することになったので、他の兵士達に紛れてそれを見ていた。 

でも、ちょっと胸に迫るものがあるな。 

あんな屈強な男達でも、毎日砂漠を往復して水を運ぶということが、どれだけ過酷だったかよく分かる。 

もう運ばなくてもいいんだと喜びにむせび泣く背中に、皆の命が重くのしかかっていたんだな。 

水なんてあって当たり前の世界がどれだけ恵まれていたのか、すごく身に染みた。 

早く、この世界の人達の生活を豊かにしてあげたい。 

王子の話では、彼らはこれから貯水場の管理を仕事にして、城から給料を貰う形になるらしい。 

国家公務員みたいな感じか。 

公共事業だもんな。俺の世界での水道局みたいな。 

明日は貯水場を始動する予定だ。 

俺は兵士達とボリュームも栄養も満点の夕食を食べてから、ワイワイと水浴びをした。 

驚いたことに、中庭に簡易シャワー施設が作られていた。 

畑の収穫を速攻で終わらせた兵士と女官達が作ったらしい。 

仕事はやっ。 

4本の柱を立てて穴を開けた皮を上に張り、ホースで上から水を回してきていた。 

「おおー、ナイスアイデアだな」 

多少大きめの水滴だけど、十分にシャワーの役割を果たしている。 

柱同士の間に布を張って目隠しも出来ており、石鹸置き場も完備。 

10人くらいで、交代で浴びられる。 

これならいつでも入りたい時にホースの口を縛ったヒモを解けばオーケーだ。 

女性陣も交代で入れるし。 

「これ……広場でもいけるんじゃね?」 

貯水場の横に公衆浴場。 

おおー、いいかも。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...