妻と夫の非公開日記

文戸玲

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夫の非公開日記②〜メモを取ることにした〜

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令和二年 八月二十七日 木曜日

 メモを取ることにした。なぜなら,忘れっぽいところがあるからだ。この忘れっぽさも少々困ったもので,どれだけ強く意識してみてもまるで砂浜に書いた落書きが波に流されるように意識から消えていってしまうのだ。
 今朝もやってしまった。朝起きたらONE DIRECTION の誰かのような寝癖が付いている。この寝癖は,眠りをむさぼったような錯覚を起こさせてくれるためにむしろ気に入っている。ただ,そのままの格好で外出するわけにはいかないのでこの寝癖を何とかするのが朝の日課だ。問題は,冷水が苦手なために給湯器のガスを付けてお湯を沸かさなければ満足に髪が洗えないことだ。蛇口をひねって水を出し続け,お湯が出たら髪を洗う。シャンプーまでしてすっきりと髪を整える。ここですっきりしてしまい,ガスを点けたことをすっかり忘れてこのままガスの給湯器を消し忘れて妻の逆鱗に触れるのだ。何度も何度もこの失敗を繰り返して同じことで怒られ続けるのも面白くない。「次こそは絶対に消して見せる」とボスの期待に応えられていない悪役子分のように意志だけは強く固く持っているのだが,どうにもうまくいかない。
 毎日日記をつけていると良いことが起こる。それは,自分の行動を思い返すことだ。さらにメモをすることで簡単なミスややらなければならないことの抜けが少なくなるはずだ。これからは,日記をつけるようにすることと同時にやらなければならないことはメモを取ることにしよう。夫婦円満の秘訣こそメモにあるのだ。

メモ
・ガスの給湯器を点けたら必ず消す。
・帰ったら「弁当美味しかったよ」と伝えて弁当箱を出す。
・便座を下ろす
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