妻と夫の非公開日記

文戸玲

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妻の非公開日記⑤〜人というものはここまですれ違えるのか〜

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令和二年 八月三十一日 月曜日

 今日は恐ろしいことを聞いた。思い出すだけでも身の毛のよだつ発言だった。「すみません,もう少し長いものを履かないとスカートからパンツ見えてますよ」と駅のエスカレーターで中年のおじさんにかつて言われたときのように鳥肌が立った。
 月曜日の食卓は幸せだ。比較的見たいテレビ番組が見られるし,晩御飯の片づけが早く済む。あとの六日間は最悪だ。プロ野球が開幕するとほとんど毎日ご飯を食べながらだらだらだらだら野球中継を見てお酒を飲んでいる。別にプロ野球が嫌いではないからそれはそれで良いのだが,何が腹立つって食卓に解説者がいることだ。テレビでプロの解説者が語っている。別にあんなもの無くてもいいと思うのだが旦那は偉そうにいちいち今のプレーがどうだとか審判が辛口だとか論評している。甲子園を目指して高校野球に打ち込んでいたとか偉そうに言っているが,一回戦負けの弱小高出身が何を言っているのか。自分のことは棚に上げていっちょ前に語るのだから言うのはタダとはこの男のためにある言葉なのだろうと思う。
 先発ピッチャーが制球に苦しんでストライクがなかなか取れないでいる。ドが付くほどの素人の私でもわかることをねちねちと語る夫が,例のピッチャーがホームランを打たれたとたんに頭を抱えて「ほら言わんこっちゃない。苦しい状況を作っておいて置きに行くからや! だから大学でのほほんとしていたやつはあかんねん」と訳の分からない御託を並べたのに堪忍袋の緒が切れてテレビのチャンネルを変えてやった。その時は何も言わなかった旦那が今日になって「途中で見たくなくなるのはわかるけど,明日からはどれだけピッチャーが打ち込まれても放送終了時間がくるまでは最後まで応援してほしい」などと言い出した時にはあきれてものも言えなかった。この男は私がピッチャーが打たれたことに腹を立ててチャンネルを変えたと思っていたのだ。
 男に人は解説者ぶってめんどくさいとはよく聞く話だが,うちの旦那はそこら辺の男とは一味も二味も違うのだ。ほんとうにどうしようもない。
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