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妻の非公開日記⑦~あきれるほどに素直な男~
しおりを挟む令和二年 八月五日 土曜日
最初はあほらしく読んでいた日記も,笑うこともできなくなった。こいつは本物だ。自分が情けなくなる。この男の日記を読む限り,なにかの拍子に本棚に手を伸ばして私の日記を見つけたものの,本当に読んでいなかったようだ。
もしかしたらそう思わせるのが狙いなのかもしれない。こんなに純情な大人がいるはずがない。これではまるで幼少期の孫悟空ではないか。筋斗雲がそこにあれば乗ってどこにでも行けるに違いない。しかし思い返せば,ほれ込んだわけではないこの男との結婚を決めたのも,決して人を裏切らない誠実な人柄に惹かれたからだった。案の定嘘もつけない馬鹿正直な生き方を貫く男で,そこが逆にイライラさせる要因にもなるのだが信じて後悔したことはない。この日記を通して大切なことを思い返せた。
しかし,それはそれとして私がこの男の言動に寛容になる筋合いはない。そこにいるだけで不快感を感じさせる窓にこびりついたヤモリのような存在なのだから。ヤモリは家を守るなどという脳内お花畑の迷信めいたお話は受け付けるつもりはない。ただ私がどう感じるか,それが生きる上で最も大切なことなのだ。
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