32 / 46
中川くんの成長
しおりを挟むこの日の出来事は僕たちの関係を,いや,教室の雰囲気を一変させた。
まず何より,中川君はぼくにちょっかいを出さなくなった。それに加えて熱心に本を読むようにもなった。
こんなことは今までの様子からは考えられなかったが,昨日のやりとりが中川君に影響を与えていることは間違いなかった。
ぼくは気になり,中川君の元へと歩み寄った。集中して本でいるところ申し訳ない気持ちもしたが,ぼくとしてはどうしても中川君の心境の変化を捉えたかったのだ。それがこれからのぼくの人生を有意義な物してくれるかも知れないとなんとなく感じたからだ。できるだけ驚かせることのないように,机を回り込んで彼の正面に立ち,視界に入るように努めた。それでも集中した中川君は,本から顔を上げることはなかった。本の表紙には丸々と太った像が大きく描かれている。
「何を読んでいるの?」
ピクッとほんの少しだけ驚いたような反射を見せて,初めてそこにぼくがいたことを認識したような顔をした。
どうやらそうとう熱中していたようだ。何を読んでいるの? ともう一度尋ねた。
「あ,これか? 昨日さ,家に帰ってから母ちゃんに聞いてみたんだ。何かおもしろい本ないかって。そしたらさ,うちの母ちゃんが『本なんかうちにあるわけ無いだろ』って言ってさ。確かにうちで文字ばっかりの本を見たことはないんだけど。それで,本を買いに行きたいって言ったら『どうせ読みもしないし金の無駄だ』って最初は言ってたんだけど,昔もらった図書カードがあるっていってくれたんだ。それを持って本屋に行ったら,何を買ったら良いか分からなくて」
読んでいた本の表紙を見つめて中川君は話した。そこで一旦話は一段落して,どう話そうか考える様子を見せた。中川君が物事を順序立てて話をしようとするのを見るのは初めてかも知れない。
「それで,表紙を見ておもしろそうって思ったの?」
まるで自分が何を伝えたかったのかを今思い出したかのように中川君は答えた。
「本屋にいた店員さんに紹介してもらったんだ。そもそも本を知らないし,どんな本を読みたいのかも分からなかったからな。でも,本を読んだら賢くて立派になれるって言ってただろ? おれは賢くて立派になりたかったんだ。だからお店の人に『賢くて立派になれる本を教えてください』って言ったんだ。なぜかその女の人は笑っていたけど,『問題集のようなものかな?』って言うから『ドリルならやってないのがたくさん溜まっているからいい』て言ったんだ。そしたらお姉さんはまた笑って『読書がしたいのね』って言うからそうだって言ったら二冊紹介してくれたんだ。なんかへんてこなキャラクターが描いてあったこっちを読むことにしたんだ」
なるほど。書店員におすすめされた本を読んでいるということだ。中川君がこんなに熱中する本を見事に差し出したその店員に是非会いたいと思った。
それでな,と中川君は本の中身について話し始めた。その話は,ぼくの中川君を見る目を変えさせるのには十分な内容だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる