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しおりを挟む「なっ……あれは若気の至りって言うか!」
「でも今でもそれは思ってるんだろう?」
「なんならついこの間までは本気で実行しようかしらって思っていたわよね」
不幸続きの友人に突如降って湧いた幸運に、ミッシェルは最初は大喜びしたものの段々と不信も募っていった。面識のない、しかも没落寸前の伯爵令嬢に、氷の騎士の異名を持つ騎士様が求婚してくるなど、何かがあるに違いない。友人はとてもじゃないが冷静でいられる状況ではないだろうから、その分自分がしっかりと見極めてやなねばならないと、ミッシェルはその使命感に燃えていた。
まあ、燃えた所で相手の方が年も立場も上であるのだから、たかが小娘が息巻いた所でどうなるものでもなく、式の当日が来るのは早かった。
皆が口々に祝いの言葉を投げかける中、ミッシェルは新郎相手にこう言い放ったのだ。
「私の十年来の、とても大切な友人を伯爵様にお貸ししてあげます。ええ、お貸しするだけです十年も続く友人関係と、今日からようやくはじまる夫婦の時間ですよどちらが上かだなんて考えるまでもありませんよね? この子が少しでも辛そうだったり悲しそうな素振りをみせたら即時返却を求めますからね!!」
新郎は見た目は良いが氷の、と異名が付く程の冷たさもある。そんな相手に食らい付くのは気の強いミッシェルとしてもかなりの勇気がいった。だが、それでも一言、にはならなかったが伝えたかったのだ。どうか彼女を幸せにしてください、と――
「大事にしてくださっていたのは傍から見ていてもよく分かったわよ。でも幸せそうではなかったんだもの」
なにやら距離がある。それはミッシェルから見ても、ルークから見ても明らかだった。しかし夫婦間の事なので外野が言える事は無い。それでもどうにかできないものかと二人で頭を絞ったが、まあろくな答えは浮かばなかった。
そうこうしている間にも友人の元気はどんどんと無くなり、やがて屋敷に閉じこもりがちになってしまった。
「もうさすがに辛抱ならないと思ったのもしかたなくない? 私ちゃんと伯爵様に事前に警告はしてたし!」
「だからって王家とも関わりの深い伯爵家相手に、真っ向から喧嘩売りに行こうとしたのはビビったわ。よかったよ俺あの時に間に合って!」
たまたま街中を巡回中のルークの目に飛び込んできたのは、今から殺人でもおこしそうな程の殺気を抱えたミッシェルだった。即身柄を確保して警備隊の詰め所を借りて尋問すれば、これから友人を攫って田舎に引っ込むのだと、見事な犯行予告を受けた。
「未然に防ぐ事ができて本当によかったと思った」
「あの頃伯爵様がなにかと留守でお屋敷にいらっしゃらなかったから、やるならあの時しかなかったのよね」
「マジの計画的犯行やめろよな。快活なお嬢様、にしたって程があんだろ」
有能な部下のおかげで、若き伯爵夫人の失踪事件は未然に防ぐ事ができたわけであるのだが。
「最終的に奥様が記憶喪失になるとは」
「ほんともう……あの子ったら……!」
両親を事故で亡くし、親戚に身売り同然の婚姻を結ばれそうになり、その寸前で美貌の騎士に救われたと思ったら、まさかの記憶喪失という事態。なぜか結婚してからの三年間、という限定で。
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