ご令嬢は婚約破棄をしてみたい

新高

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「なら成立ってことで?」
「そうね……って待って待って違うわこれ成立させちゃ駄目なやつ!」
「なんで?」
「このまま成立したらあなた私の結婚相手ってことになっちゃうわ。私は素敵な恋をして、それから幸せな結婚をしたいの」
「おう」
「だから」
「俺だと力不足?」
「ガラが悪くて口は悪いけれど、騎士として立派に仕事を勤めているし、人としてもまあそこそこちゃんとしていると思うからそこは大丈夫だと思うけど」
「これ褒められてんのか貶されてんのか喧嘩売られてんのかどれかなー」
「褒めてはいるけど貶してもいるわね。でも喧嘩は売ってないわ、事実を述べているだけ」
「それが喧嘩売ってんだよお嬢さん」

 ルークは愉快げに身体を揺らす。

「お嬢さん、まだ伝わらねえかな?」
「え!? なに!? 言いたい事があるならはっきり言って!」

 ミッシェルは地味に狼狽えている。普段ならきっとルークの言いたい事など理解出来ているはずなのに、ちっとも頭が働かないのだ。なのでそう訴えてみたのだが、さらなる追い撃ちがかけられた。

「ずっと惚れてる相手が、素敵な恋とやらに憧れて婚約破棄だの真実の愛だの言い出したんで、どこの誰だか知らねえヤツに掻っ攫われる前に俺が身柄を確保したいって言ってんだけど」

 言葉が耳から脳に届いて、それを処理するまでにやたらと時間がかかる。はっきり言ってとお願いしたにも関わらず、やはりルークは回りくどい言い方をしているような気がする。が、それでも一つはっきりしている事があった。

「……ずっと、好きな相手がいるの?」
「そう、自覚してからは二年と少しだけど、多分好きになったのは初めて会った時のあの発言だな」

 年も立場も上の相手に、友人の幸せのためだけに食ってかかった彼女の姿に、ルークの心は強く動いてしまった。

「好きだよお嬢さん」
「え……」
「アンタの願いなら、婚約破棄だろうとなんでもしてやるよ。だから、それが終わった後はもう一度俺と婚約してください」
「――ええええええっ!!」

 ガタン、とミッシェル側のテーブルが大きな音を立てた。椅子ごと引っ繰り返りそうなミッシェルの醜態に、しかしルークは愛おしげともとれる視線を向ける。

「そういう反応含めて好きだなー」
「え、軽い。待ってちょっと待って無闇に乙女心をからかうのやめてもらえる!?」
「お嬢さんこそ決死の覚悟の男心を軽く流そうとするの止めろよな」
「あなた本気で言ってるの!?」
「お嬢さんは俺が冗談でこんな事を言う男だと思ってるわけか。うわー傷付くなー凹むなーこれはお嬢さんに責任を取ってもらうしかないなー」
「そういう言動が軽いって言ってるの! もう少し乙女心を学びなさい!」
「はは、お嬢さんこそ男心を学べっつーの」

 ああ言えばこう言う、とミッシェルの怒りは増していく。しかしその怒りの半分以上は羞恥をすり替えてのものだ。だってこれはすり替えるしかない。冗談でこういった事を言う人物かどうか、ミッシェルは良く知っている。だからこそ、冷静でなどいられるわけがない。


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