ご令嬢は婚約破棄をしてみたい

新高

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「男心って……!」
「あのなあお嬢さん、アンタはほんっとうにこの三年間ずーっと奥様の事を心配してそればっかり考えていただろ? そういうお嬢さんだからこそ俺も惚れたんだけど」
「ひえっ」
「友達想いのお嬢さんが落ち着くまで告白は我慢、ってか言った所で相手にされねえだろうなと思って、だったらせめて近くにはいたいと思ったわけだ」


 相談があると言われればすぐに駆けつけた。それだけではない、互いに様子を見守ろうと、夫婦が参加する夜会にはできるだけ二人も行くようにした。当然エスコートはルークが担い、ハラハラと友人の姿を見つめるミッシェルの傍から離れなかった。

「あれはあなたもそうしたかったわけではなく……?」
「初めの頃こそ俺もそっちが目的ではあったけど、途中からはとにかくお嬢さんに変な虫が近付かない様に追い払うのが最優先になった……つかさ、本当にさ、あのなあお嬢さん」
「あ、とてつもなく呆れ果てたって文句が飛んできそうな気配!」
「大正解。好きな相手じゃなけりゃ、あんな毎回エスコートしたりこうやってアンタの話を聞きに呼ばれて即参上とかしたりしねえっての!」
「きょ、今日はあなたの昇進のお祝いのお茶会だもの!」
「言い訳は見苦しいぜお嬢さん」

 友好国との間で先日開催された武術試合。そこでルークは見事優勝を果たした。元は平民からの成り上がりの騎士が、腕を磨いて名ばかりとはいえ子爵位を拝命するまでになっていた。そこにさらに加わった今回の栄誉。報奨金は元より、新たに領地が与えられ、ついには伯爵にまで上りつめた。

「というわけでお嬢さん」
「……なにが、というわけなのかしら……嫌な予感しかしないんだけど?」
「男心をこれっぽちも理解できない友人想いの激ニブのお嬢さん」
「喧嘩を売られているのは分かったわよ!」
「お嬢さんに選択肢を二つやるから好きな方を選んでくれ」

 何を突然、とミッシェルは鼻白む。ルークはそんな彼女の前に大きく二本指を広げる。

「俺を相手に婚約破棄をしてそれからもう一回婚約して結婚するか、俺が今回の報奨としてお嬢さんを娶らせてくださいと王家に訴えてから結婚するか、どっちがいい?」

 あって無きが如しの選択肢である。しかも片方の中身が色々と、酷い。あまりの事にミッシェルは叫ぶしかない。

「は――はぁっ!?」
「俺はどっちでもいいから、お嬢さんの好きな方でいいぜ」
「い……やいやいやいや待っておかしいわちょっと冷静に落ち着いて話をしましょう!?」

 暴走する馬車並の速度で話がおかしな方向へと進んでいく。これはまずいとミッシェルは必死に抑えようとするが、実力を伴った騎士様がそんな隙を見逃すはずも無くどんどんと追い込んでいく。



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