ご令嬢は婚約破棄をしてみたい

新高

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7(完)

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「お嬢さんの希望で一回無駄に婚約破棄するのと、王命でサクッと結婚するのとどっちにする!?」
「前者で!!」
「おし、なら決まりだな」
「あーっ!! 待ってったら!」
「お嬢さん!」
「なにかしら!?」
「俺と結婚するのは嫌か!?」
「嫌ではないわね!?」
「今度こそ決まりで」
「だからーっ!! 待ってってお願いしてるのにー!!」
「どうせ覚悟が決まってないとか好きだと言ってもそういう意味で好きなのか分からないとか言うんだろ?」
「筒抜けなのが悔しいんだけどまったくもってその通りよ!」
「覚悟なんてその内決まるし、そういう意味で好きなのか分からなくても俺がちゃんと分からせるから心配いらない。大丈夫。安心しろ!」
「これっぽっちも安心できないんだけど!?」

 そうは言いつつすでにミッシェルの顔は赤く、それどころか首筋から耳の縁まで染まっている。こうも勢いよく次から次へと告白されて、乙女心が無事ですむわけがない。

「この三年の間でのあなたと随分違うじゃない! そんな人だったの!?」
「お嬢さんがひたすらこっちの行動に気付かなかっただけではあるんだけどな」
「そもそもあなたずっと私のこと名前で呼んだりしてなかったし……それで好意を持たれてるって気付く方が無理だと思うんだけど!」
「それこそ男心だなー」

 なあに? とミッシェルは顔を赤くしたままルークを見つめるが、ルークはそれに答えない。
 初めの頃は「ミッシェル嬢」と呼んでいたが、気持ちを自覚した辺りから無性に名前を呼ぶのが恥ずかしくなり、かといって名字で呼ぶのは他の人間と同じになるからそれは嫌だと――特別な呼び方をしたい、許されたいと思ってしまい、そんなくだらなさすぎる男心により最終的に「お嬢さん」になってしまった。情けないにも程がある。口が裂けても言えようか。

「お嬢さんだって俺の事名前で呼ぶ方が少ないだろ? たいてい「あなた」呼びばっかじゃねえか」
「だってしかたないじゃない! 名前で呼ぶのがなんだか恥ずかしいんだもの!!」

 こちらは馬鹿正直に答えてしまうミッシェルである。先程からもうずっと狼狽えすぎて、頭で考えるより先に口から言葉が出てしまうのだ。己の発言に「あーっ!!」と叫んでミッシェルはテーブルに突っ伏した。おかげで、目の前でルークも真っ赤になって固まっている事に気が付かない。

 年頃と言えば年頃ではあるけれど、それにしたって中身の成熟度が低い二人である。



 優雅で、そして祝いの席でもあったはずのティータイムはこうして幕を下ろした。





 

 記憶喪失になった令嬢と、それを愛の力で支えた騎士の物語で不動の人気を得た女流作家、メイジー・ディングリ-。
 そんな彼女の次なる代表作は「婚約破棄に憧れた令嬢と、真実の愛でそれを防いだ騎士の物語」であるのだが、この時点ではまだ誰もそれを知らない。



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