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コネタ
4(終)
しおりを挟む「とはいえ、俺の目の前で、俺以外の男の名前を笑顔で呼んだり呼ばれたり、あげく愛称で呼んだりしてるのを見ると流石に我慢ならないんですよ!!」
「うああああああ……ご、ごめんな、さい」
色々と言いたい事はセレスにもある。シークの繋がりで声を掛けてくる貴族の男性相手に礼を欠くわけにはいかないし、それは彼と同じ騎士団に所属している騎士達にも同じ事だ。笑顔で話をしているのはそういう人として最低限に礼儀であるし、名前を呼ぶのも、呼ばれるのも同じ理由。それに、シーク以外の人物から名前を呼ばれようと、特にセレスは感じる物が無い。彼だけなのだ、名前を呼ぶ、呼ばれるだけでこんなにもセレスをおかしくさせるのは。
などと言い訳はいくらでもできるが、どうしたって悪いのはセレスである。素直に謝るほか道は無く、セレスは心の底から謝罪を口にする。いっそこれは彼の前で膝を着き、神に懺悔するのと同じ様にした方がいいのかもしれないと、そんな事まで考えてしまう。
「最初に言いましたけど、これは俺の心が狭いだけの話なので貴女は悪くないんです」
シークは口元を手で覆い隠し、俯き加減でそう呟く。最近になってようやく気が付いたが、これは彼が照れた時の癖だ。
「え?」
セレスの口からポロリと疑問の声が漏れる。ずっとセレスが悪いわけでは無いと言っているが、では何故こんな話をするのか。そして、何故に急に照れ出すのか。そんな二種類の疑問が混ざったセレスの声に、シークは完全に俯いてしまった。
「……くだらない……ただの嫉妬です、すみません……」
嫉妬、とは? とセレスは一瞬考えるが、その意味を理解した途端ボフンと音が出るのではないかと言うほどに全身を真っ赤に染めて固まる。
名前を呼んでもらえない、呼ばせてもらえない、という子供の喧嘩だとしても幼稚すぎる理由で、常日頃余裕綽々の態度を崩さないシークが嫉妬して、あげくそれが恥ずかしくて動揺している。ひあ、とセレスは溜まらず悲鳴を漏らした。
恥ずかしい、けれど嬉しい……でもやっぱり恥ずかしすぎて死にそう――
嫉妬だなんて人間の感情の中でも醜悪な部類であるだろうに、まさかそれを嬉しいと思う日が来ようとは。あと、自分より体格も社会的立場も立派な男性相手に、可愛いという感情を抱くとは夢にも思わず。
貴女が可愛すぎて溜まらないんです、とはシークが頻繁にセレスに向ける言葉であるが、なるほどこれが、とセレスは初めてシークの可愛らしさにやられてしまい、ズルズルとソファに倒れ伏した。
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