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しおりを挟むディーデリック・ベーレンズ伯爵はリサより一つ下の二十歳でありながら、国王の専属の護衛を務めるというだけでその強さは歴然だ。短く纏められた黒髪に、強い意思を宿した深緑の瞳。その毅然とした姿に憧れを抱く貴族令嬢は多い。端から結婚に夢を持たず、むしろ雑草魂で得た語学の知識を持って領地へ戻り、そこで識字率を上げたいという目標を掲げているリサには無縁の存在、であったはずなのだが。
互いに面識はない。リサは相手が有名すぎるので噂としては知っていたが、彼の方では知らなかったはずだ。いやもしかしたら良くない方での噂を聞いてはいたかもしれないが、それでも水より薄い関係でしかなった。それだというのに、リサが今置かれている原因を作ったのが――リサを、国王の寵姫として推薦したのがこのディーデリックに他ならない。
理由は至って簡単である。「語学が堪能」である事と、「気が強い」という二点のみ。語学については素直に嬉しかったが、二つ目についてはそうはいかない。僅かに口元が「雑草」と言いかけていたのも怒りの一つだ。
それでも幼き王妃の為であるという義侠心と、提示された報酬にリサは承諾をした。
その後まさか、王妃の存在を脅かすものではないと国内外に示すために、彼と偽装結婚をするはめになるとは思わなかったが。
思えばアレが不味かったのかもしれないとリサは己を振り返る。
予測などできるはずもない怒濤の展開の中、ひたすら真顔もしくは眉間に皺を寄せ続けていたディーデリック。そう言えば彼は女性嫌いの噂があったなとその時リサは思い出したのだ。
いくら国王と王妃の為とはいえ、好きでもない相手と結婚の真似事はしたくはないだろう。見た目が麗しいのもあり、かなりの数の令嬢に言い寄られては迷惑そうにしているとも聞く。ハハーンなるほど、とリサは合点がいった。だからつい、余計な事を口にしてしまったのだ。
「大丈夫ですよベーレンズ卿。偽装とはいえ夫婦となりますが、きちんと目的は理解していますし、私はけして、絶対、まかり間違っても貴方を愛することはありませんから! ご安心ください!!」
彼の心配は杞憂であると、そう伝えたいだけだった。まるっと全部、心の底からの親切心でそう言ったというのに。
ギュン、と眉間の皺がイーデンの難所として名高い渓谷ばりに深くなる。そして凍てつく様な視線が容赦なく突き刺さった。それでも声を荒げるでも無く、地を這う様な声でありはしたが「お気遣い感謝します」と返したのは彼の騎士としての矜恃だったのかもしれない。
「リサ? どうかしましたか?」
あの時以来リサが目にする夫の顔は常に顰めっ面だ。なのに彼はリサの様子に敏感である。今もこうして黙り込んでしまったリサに気遣わしげに声を掛ける。
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