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小話
7(その後の思春期夫婦・3)
しおりを挟む「リサ」
「ちょっ……あの、なんと言いますか、自分でも驚いているので少しお待ちください!」
泣いている事にも驚くが、その自覚が全く無かったという事により一層驚いてしまう。泣き止まなければと思うものの、どうして泣いているのかが分からない混乱がリサをさらに追い詰める。
「あああああちょっと待ってくださいね本当に! これ、悲しいとかではなくて、安心したのとか嬉しいとかそういった陽の感情の暴走なので! ご心配には及びませんから!!」
最早号泣と言っても過言ではない勢いで涙を零しつつ、しかし口調ははっきりとしている。急激に羞恥心が募り、リサは自分の気持ちを落ち着かせるためにも水を、と椅子から立ち上がった。
その腕を、ディーデリックが引き寄せる。
わ、と短い声と共にリサの身体はベッドに乗り上げ、さらにはディーデリックの両腕の中に閉じ込められた。抱き締められている状況にさらに羞恥心が膨れ上がる、その前に。
――怪我人の身体の上ーっ!!
その一点しか頭にないリサは慌てて身を起こそうとするが、ディーデリックの腕がそれを阻止する。何故に、とリサが見上げれば驚く程にディーデリックの顔が近くにあった。
軽く、触れるだけの口付けが額に落ちる。そのまま右と左の瞼、そして最後に唇に――
「……よかった、涙は止まりましたね」
驚きに目を見開いたまま固まるリサの両頬をそっと掌で撫で、ディーデリックは愛おしげな眼差しを向ける。ぶわっ、とリサの全身が朱に染まったのはその直後だった。
「な……なっ!? えっ、あっ……あああああ!?」
ディーデリックと口付けた事など一度たりとも無い。彼との結婚式はあくまで「偽装」の時に行ったものであるから口付けるフリをしただけだ。偽装が取れてからは、お互い見事な思春期っぷりを発揮しているので当然進展は無く、下手をすれば年若い恋人同士よりも清い関係だというのに。
「きゅっ、急、に、なにを……!」
「貴女に泣き止んで欲しいと思ったら……その、自然に……すみません……」
真っ赤になって狼狽えるリサにつられたのか、ディーデリックも薄暗い室内でも分かる程に首まで赤く染めている。
「……嫌でしたか……?」
リサより長身でありがなら、おずおずと尋ねてくる姿はまるで見上げてくる子どもの様で、それはいつもであれば可愛らしいと思える光景だった。しかし、どこか熱っぽく見つめてくるその目付きがどうにもいつもと違い、リサは言葉を発する事ができない。それでも決して嫌ではなかったのだと、それだけは伝えたくて首を何度も横に振る。
「嫌じゃなかったのなら……もう一度、してもいいですか?」
まさかの続行を希望された。ビクン、と肩が跳ねたのは恐怖や嫌悪ではなく、ディーデリックの放つ色香に完全に呑み込まれたからだ。
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