雇われ寵姫は仮初め夫の一途な愛に気がつかない

新高

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小話

8(その後の思春期夫婦・4)

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 顎に軽く指を掛けられ、ゆっくりと見上げる様な姿勢にされる。吐息が混じり合いそうな距離まで近付くが、ディーデリックはそこで止まった。リサが是とも否とも答えていないからだ。
 だからここは察してくださいよ! と口に出来れば良かったが、こういう人だからこそ自分も惹かれたのだという点でもあるので、リサは懸命に羞恥心を胸の奥に閉じ込めてどうにかこうにか首を縦に動かした。

 ふわりと夜の空気が微かに揺れる。そして唇に伝わる柔らかな感触と、熱。

 先程よりも長い間互いの熱が混じり合う。それだけでもうリサは全身の血が頭に集中したかの様にグラグラとする。呼吸をするタイミングも分からず、息苦しさも増す一方だ。
 もう限界、と根を上げそうになる寸前、ゆっくりと熱が離れる。ハッ、とリサは息を吐き出した。鼓動がやたらと耳に響く。軽い酸欠と、重度の照れからリサはディーデリックの胸元で俯いたまま顔を上げる事ができない。唯一の救いは、この死にそうになる羞恥心を抱えているのはお互い様という所かと、そうやって少しずつ冷静さを取り戻そうとしていたリサであるが、無情にもその相手が裏切ってきた。

 俯いているせいで流れ落ちた髪の間から覗く赤く染まった耳。そこにディーデリックの唇が触れる。あげく、耳の縁を舌先で舐めるものだから、リサは「ひっ」と短くも鋭く叫んでしまう。
 なにを、と驚きと羞恥を怒りにすり替えた叫びを上げようと口を開けば、その訴えごとディーデリックの口に塞がれた。

 熱も、感触も、今し方の比では無い。そこから伝わるディーデリックの思いも。

 唇からリサの全身を浸食していき、そのせいでリサの力は見る間に奪われていく。抵抗らしい抵抗もできない。いや、その意思すらも奪われ、ただひたすらディーデリックの熱に溶かされてしまう。
 触れ合うだけの口付けができただけでも、自分達からすれば大きな一歩と思っていたのはほんの少し前。それが今はもう濃厚な物へと変わっている。息苦しいし恥ずかしい、けれど直接触れ合う事で彼の思いが一気に伝わってくる様で、リサはそれを一つも取り零したくないと思った。
 そうして必死にディーデリックの口付けを受け止めていると、不意に背中が冷たくなった。気が付けば目の前にはディーデリックの顔があり、彼の背後には豪奢な天井が広がっている。ベッドに寝かされているのだと理解すれば、再度ディーデリックの顔が近付く。

「――ってだめです! だめですよディーデリック様!!」

 唇が触れる寸前でリサはディーデリックの頭をガッと両手で掴んだ。ギュン、とディーデリックの眉間に一気に皺が刻まれる。この状態で阻止されてしまえば、ディーデリックでなくともそんな顔にもなるだろう。


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