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小話
9(その後の思春期夫婦・終)
しおりを挟む今更、だとかここまで流されておいて、などといった不満が無言の圧力で降り注ぐ様だ。中々進展しない仲を一気に進めるには今しか無い、とはリサも思う。流された形にはなっていたが、それはつまりはリサも同じ思いでいたからこそだ。
が、しかし、である。
「全治三ヶ月なんですから今は大人しくしていてください!!」
「……俺は大丈夫です」
「大丈夫なわけないでしょう!!」
繰り返しになるが全治三ヶ月。両足それぞれに大きな怪我だ。どうしたって無理である、色々と。
「とにかく今は怪我を治すことに専念してください!!」
「お気になさらず」
「気になるところしかありませんが!」
「怪我が治ればいいんですか?」
「はい?」
「俺の怪我が治れば、リサは気がかり無く俺に抱かれてくれますか?」
「なっ……!」
ここまではっきりと求められたのはいつぞやのリサが酔っ払って醜態をさらしたあの時以来だ。いっそ苛烈なまでのディーデリックの熱量に、リサは上手く口が動かずしばらく意味のない言葉を漏らす事しかできない。
真正面から彼の頭を掴んだままの手も動かせず、そのために視線を逸らす事も出来ない。
「け……怪我、が……治ったら……いいです、よ」
たっぷり三十程数えた辺りでリサはそう答えた。死ぬ、羞恥で死ぬ、と固く瞳を閉じて悶えていると、ベッドが大きく揺れる。リサの隣に横になったディーデリックが上半身をきつく抱き寄せた。
「わっ!? ディーデリック様!?」
リサの頭を胸元に抱え込む様にして抱き締めている。軽く耳に触れる指先が熱く、間近で聞こえる心音もやたらと速いので、どうやらディーデリックも恥ずかしすぎて顔を合わせられない様だ。
「全力で治します。一日でも早く」
「……ご無理のない範囲で!」
「速効で治しますから」
「お医者様もゆっくりじっっくり確実にと仰ってましたよ!」
「その時まで我慢するので、だから、……褒美を、ください」
褒美の内容など考えるまでも無い。ぎゅう、とさらに強くなる腕の力に逆らわず、リサもディーデリックの胸元に顔を埋める。
過去最高に顔が赤くなっている自信がある。とてもではないが見せられるものではない。それでもどうにかリサは最後の気力を振り絞って答えを返す。
「好きなだけ差し上げますので……きちんと、しっかり、完璧に、治してくださいね」
「――はい、必ず」
ディーデリックはリサを抱き締めたまま眠りに落ちたのか、気持ち良さそうな寝息が頭上から聞こえる。リサも徐々に眠気が押し寄せては来るが、その度に今の会話が脳内で繰り返され眠気が飛んで行く。そもそもからして、こんなにも密着した状態で眠るなど無理な話で。
結局リサは朝まで一睡も出来ず、それを見たティーアが新たな誤解をし、ステンからは「お前ら思春期夫婦の後処理をする俺の身にもなれ!」と叱られる羽目となった。
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