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「また、6月30日が終わる」

これから6月1日がやってくる。
家の時計は壊れて止まっていた。とても古い時計で、俺が生まれる前からある。ずっと大事にしていた時計だ。
なぜだか胸が高ぶっていた。どうしてかはわからない。ドキドキと時計がチクタクなるように、少しせっかちに鳴っていた。
これから何が起こるんだろう。そんなこと今更、何を思っているのか。また同じ日を…くり。
頭がじわじわとぼやけてくる。意識が不明瞭になり酔ったような、夢を見ているような感覚になる。体中の力が抜ける。集中が解ける。注意力が散漫になるのだけれど、それ以上に注意力が欠如し始めて、海に沈んでいるかのような感覚だった。どんどん深い、海の底へ沈んでいく。海の底へ沈み切ると、その下にある、海底の地層の中に取り込まれていく。それはさながら、人間が土にかえるかのような、不思議な感触。土からは養分を吸い取って、体中が何かで満たされていく。そうしているうちに意識が喪失した。
声が聞こえる。誰かの声が。俺を呼んでいる。その声は俺に届いていなかった。つんざく悲鳴のようにも聞こえた。

「助けて。助けて」

その声はかぼそくて、いつも消えてしまいそうで、まるで幽霊の声。そう、俺は幽霊の声を聴いている。耳を澄ましながら、吸い寄せられるように、心がひきつけられるように、俺はその声を。
聞いた。
俺はまた、6月を繰り返す。
今度はどんな六月になるのだろうか。永遠に終わらない、さながらウロボロスのように、循環し俺の意識を奪っていく。

この世界はループしていた。この一か月、何度も何度も俺は繰り返していた。何万年も生きているがこんな経験始めて。
俺は何万年も生きている。いわゆる不老不死。とまあ、こんなことを言ったところで、誰も信じてくれるはずもない。信じるには信じるに足る材料が必要だ。その材料をこれから見せて行きたい。
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