自宅警備員の本懐

てとてと

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3時間 溶けかけの氷

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 「どや、大丈夫そうか。」

 それは、私がここで仕事をするようになって1ヶ月ほど経った時のことだった。
 丸刈りで丸眼鏡をかけた先輩から声をかけられた。

 「はい。」

 私は小声で返事をする。そんな私に先輩は言う。

 「まぁ、僕が一緒に付いて教えるのは、今日で最後やけど、わからん事あったら連絡ちょうだいよ。なんか、面白い事の1つでもあったらよかったんやけどな。頑張りや。」

 先輩は、私を励ましてくれた。休憩時間は、いつもどこからか、お菓子とジュースを持ってきていた。

 そんな先輩は明日からいなくなる。先輩はいつもふざけた感じだけど、自宅警備試験の上級や機械関係の資格をたくさん持っていた。
 この職業に就いて15年になるそうだ。

 そしてついに、上からお声がかかり、自宅警備委員会本部へ移動することになった。

 そんな穴埋めに私が選ばれたわけなのだが、大丈夫だろうか。時間はそんな心配を待ってはくれない。

 「そや、もし、賊でも入ってきたら、1番に司令室に逃げ込むんやで。あそこには、バトラーがおるから安心や。」

 「バトラーですか?」

 「司令室の中に座ってたロボットがおったやろ。あれがバトラーや。」

 私は司令室に入った時に座っていたロボットを思い出す。

「バトラーって言うのは、自警(自宅警備員の略)仲間の間で勝手に呼んでいる愛称なんやけどな。やっぱり、この職業っていうのはいろいろあるんよ。」

 先輩は、司令室にいた無表情のロボット『バトラー』についていろいろと話してくれた。

 まず、ロボットが活躍する時代を作り上げたプロトタイプ自動学習機械の13機のうちの1機だという事。

 内部のメモリーには、100年以上の記録があり、外側の部分は最新の技術が詰め込まれている。それは、今こうして話している間も更新しているらしい。

 それから、その100年以上の記録が経験した、災害や犯罪、異常時の対応がすべてあるという事。

 先輩もかなり前に大きな災害があり、助けられたらしい。

 「ほんま、あの時は助かったで。今こうしていられるのも、バトラーさまさまっちゅうわけや。」

 先輩は、何処か遠くの方を見ている。当時の事を思い出しているのだろうか。

 「あの丸みを帯びた外見にはそんな秘密が。」

 「そやねん、なんかあったらバトラーに頼りや。最初は無表情やし。なにこの変なロボット!怖っ!って思っていたんやけどな。」

 先輩は笑いながら私に話しかけてくれていた。

 「ふー。」

 ひと息つく。先輩は、いつも飲んでいる黄色の炭酸水を一気に喉に流し込むと、立ち上がった。

 「それじゃ、続き行こか。」

 私も急いで立ち上がり、先輩の後ろ姿を追いかけていく。

 「頑張らなきゃ。」

 私は今はまだ追いつけぬ、先輩の後を追う決意を固めた。

 そうして、時間は過ぎていき、ロッカーに制服を入れる。

 「お疲れ様。」

 「お疲れ様です。ありがとうございました。その、こ、これを。」

 先輩に選別を渡す。今日の為に少し高めのお菓子セットを購入していた。

 「おーええのに~。」

 先輩から笑みがこぼれる。

 「ほんま、ありがとうやで。せや、」

 そう言って、先輩は自分の持っていた手さげカバンから、アメの袋を取り出す。

 「これ、お返しにあげるわ。頑張ってな。」

 「ありがとうございます。」

 「おう、ほなな!」

 そのまま、先輩は自転車に乗り行ってしまった。

 先輩が見えなくなるまで見送った後に、私も駅に向けて歩きだす。先輩から貰ったアメを食べながら。

 電車に乗り、口の中のアメが無くなったので、新しいアメを袋から取り出す。包み紙を開けると、薄い水色のアメが出てきた。それをゆっくりと口に入れる。少し、しょっぱい味がした。

 次の勤務日がきた。もう、先輩はいない。私は教わった事を1つ1つ、丁寧にこなす。

 作業をして、1時間ほど経った頃。

 「ふぅー。あつい。」

 外の気温は低いが、今は火照りを冷やすのにはちょうどいい。

 今いる場所は、正面の大きな門とは真反対の位置になる。

 ひと通り作業を終えて、休憩室へ向かう。

 休憩室は司令室の近くにあり、歩いて行くと20分ほどかかる。っと言っても、走ったところで、途中に立ち入り禁止の柵やいくつもの扉、シャッターを開けたりしないと通れないところがあるので時間的には、あまり変わらない。

 そんな時、ウォッグから音声が流れる。

 「緊急、緊急。コード4、コード4。繰り返す。緊急、緊・・・」

 「ん!?」

 コード4、それは、侵入者が来た時の緊急連絡。それが繰り返される。慌てて音声を止める。
 何事かと思ったが、考えている場合ではない。急いで、避難場所に走る。

 先輩は『何かあった時は司令室のバトラーを頼れ』だ。

 そうして、10分ぐらいは走っただろうか、息が続かない。やはり、日頃の、運動不足が、

 「はぁっ、、、はあっ、、、」

 休まないと倒れてしまいそうだ。心臓のあたりが苦しい。ぜいぜいと息を切らしながら、司令室まであと少しと言うところで、

 ドゴン!

 後ろの方で何か恐ろしい音がした。肩がビクッと震える。

 バゴンッ!

 続けて爆発音がして、私は転倒した。

 

 
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