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俺、シエナの武器を買います! その1

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 次の目的地に早速行こうと思っていたのだが……『ぐぅ~』とシエナのお腹が鳴った音が後ろから聞こえてきた。
 振り返ると彼女が顔を真っ赤にしてお腹を押さえている。まあ、もう気づけばお昼どきだし、鳴ってしまうのも仕方がない。
 だが……ナイス、空腹!

「シエナ。腹が減ったよな。今日は昨日と趣向を変えて露店で適当に何か買おうか」
「……はい……すみません……」


 ちょうど次行く予定の武器屋の周りに露店が沢山あったので、そこで焼いた肉をパンで挟んだ食べ物を二つ買って、街の歩道のそばにあるベンチに座っていたシエナに片方渡す。

「はい、どうぞ。ちょっと熱いから気をつけてな」
「ありがとうございます」

 俺から食べ物を受け取ったシエナが小さく『あちっ』と言っていたが……やば。めっちゃかわいい……
 買った食べ物の料理名は『肉パン』という名前だった。なんというか腹パンみたいな名前だとは思ったが……使っている材料が肉とパンだからそういう名前を付けたんだろう。もう少し何か無かったのだろうかと思わなくもないが……

 俺もシエナの隣に座って、肉パンを食べてみると……美味! となるような美味しさだった。
 値段も高くなく、ある程度食べごたえがあって味もいい! 露店はこういう食べ物が多いから結構俺は好きなのだ。
 シエナの方を見ると、彼女も両手で食べ物を持ちながら満面の笑みでお上品にパクパクと食べていた。
 ……服も一張羅で、防具も最高級で最先端。顔もスタイルも宝石レベル。性格も良いしシエナには欠点がないな。
 街行く人達に目を向けても男女問わずシエナを凝視している。 
 今は時間帯のおかげで街に出歩いている冒険者が少ないということで俺に厳しい目を向けてくる人もいないし、なんというか『俺の女だ!』と周りに言いふらしているような気分になって実にいいですな。アハハハ!


 昼食を食べ終わった後、俺達はすぐ近くの武器屋の店内へと足を踏み入れた。

「らっしゃいませーってエリックの旦那じゃないっすか!? この前、武器を新調したばっかりなのにもう壊したんっすか? もう~、いつもいつも『武器は大切に使って下さい』って言ってるのに~。この~おっちょこちょいさんっ!」

 俺たちが店の中に入るなり見当違いなことを言ってきた彼女の名前はキャロライン。
 見た目はミラさんと似たような感じで小さいが、髪の色が明るい黄色でボブカット、ついでに胸も結構でかいという違いがある。
 彼女も俺に話しかけてきてくれる数少ない女性の内の一人だ。

「俺はいつも武器を大切に使っているつもりだ。クエストを完了して疲れて帰ってきたときに玄関でポイッとついしてしまったりするけど……」
「それ、大切にしているって言わないっすよ!」
「いや、すぐに武器が壊れるのは戦っているモンスターが強いからだ。文句があるならいつもいつも強敵モンスターばかりを押し付けてくるミラさんに言ってくれ。――じゃなくて! 今日はそういう要件で来たわけじゃない! このシエナにキャロラインの店で出せる一番良いヒーラー用の武器を渡したくてな」

 話がどんどん脱線していっていたので強制的に打ち切って、無理やり本題に入った。
 シエナはキャロラインに『よろしくお願いします』とお辞儀をする。

「ほう……これは……ものすごいべっぴんさんっすね……」
「やっぱりそう思う? いやー俺にはもったいないくらいなんだがな! アハハーー」
「――エリックの旦那! うちはヤリ捨てというわけですか!? ウチのことも可愛いと言ってべた褒めしていたのに! ヤルだけヤッて別のいい女を見つけたからってポイ捨てするんっすか!?」
「おい馬鹿野郎! 誤解を招く言い方をするな! 確かに容姿を褒めはしたが、俺とお前の間にはなにもないだろ! ごめんなーシエナ。こいつは冗談が大好きでな? 時々洒落にならないことも言っちゃうんだ。俺の顔に免じて許してやってほしい」

 キャロラインも口を塞いでシエナの方を向いて弁明をする。

「いえ、私も真に受けているわけではないですし、その……面白いお方ですね!」

 心優しいシエナは苦笑いで対応をしてくれる。
 ……おいおい。それは真に受けている人がする行動だぞ……

 しばらく後。キャロラインに『全て冗談です。ごめんさい』に類する言葉を言ってもらい事態は丸く収まった。
 ったく、とんでもないこと言いやがって……誤解が解けたから良かったけど、解けなかったらケツ叩きをキャロラインに百回するところだったぞ。


「で、確か要件はシエナさんのヒーラー専用武器で合ってたっすか?」

 仕切り直し、というような感じで少し場所を移動してキャルロットが要件を再度聞いてくる。

「そうだ。厳密に言えば『この店で出せる一番良い』専用武器だがな」
「……あのエリックの旦那がそんなことを言うなんて……面白いこともあるもんっすね」

 ニヤニヤとキャロラインが俺を見てくる。
 ……またいらんこと言ったらマジでケツ叩きしてやる、と思っていたのだが……『了解したっす。ちょっと選んでくるんで待っててくださいっす』と言って店の奥へと消えていった。
 最初から素直にそうしてくれ。

 シエナと二人きりになったので彼女にもう一度さっきのことについて弁明をしておく。

「ごめんな、キャロラインが変なことを言って。あれ全部捏造だから。だから気にしないでくれよな?」
「はい、キャロライン様の冗談だと分かりましたし、エリック様がそういうことをしない方というのは重々承知してるので大丈夫ですよ。本当に心配性なんですね」

 シエナはクスッと可愛らしい顔で笑う。
 どうやら本当に誤解は解けているらしい。良かった……
 『心配性』と言われたが、シエナに『ヤリ捨てをしたクズ男』なんて思われた暁には死んでしまいたくなるし、必死で弁解をしたくなるのも仕方ない。

 シエナが気を使って『あの武器を見てみたいです! 一緒に見に行きましょう!』と言って話を変えてくれたので、俺も特に口を挟むこと無く店内に展示されている武器をシエナと一緒に見て回ることにした。


「どれもよく分かりませんが、なんというか物凄くいい武器なんだろうなって思いますね」

 剣士用の武器を二人で見ていた時、シエナがこのお店に展示されている武器の率直な感想を言ってきた。

「まあな。冒険者が現状手に入れられる最高の武器がここに集まっていると行っても過言ではないと思う。この街、アルメルドにはたくさんの武器屋があるが……キャロラインの店が一番質が良いだろうな」

 彼女もカイルと同じくまだ若いのに熟練の職人の腕を持っている、いい意味で頭がおかしい子だ。
 ニーニャは……あれでいて年齢が不詳なんだよな……前に一度、酒場で『今いくつなの?』とか聞いたら『年齢を言ったらニーニャはこの場で発情するにゃけど……それでも良いのかにゃ?』とか言い出すから結局分からなかったし。

「そうなんですね……そんなにいい武器を私に買ってくださるなんて……私、本当にがんばりますから!」

 シエナが俺の右手を両手で握ってくる。
 ……恥ずかしい。店内に人がいたら今すぐこの場から逃げ出したくなるくらい皆にガン見されそうな光景だ……
 顔を赤くするのを抑えながら俺も左手を上からシエナの両手に重ねる。

「何度目だって話だが期待しているぞ! でも、気張らずに最初は無理をしないように心がけてくれ。怪我をされることが一番俺にとってもシエナにとっても辛いことだからな」
「エリック様……」

 シエナが俺に熱い目線を寄越してくる。
 おっとこれはいけませんよ。ここはお店ですからね。
 しかし、俺の左手が勝手にシエナの顔に近づいていき……彼女の顔に触れようかとしていたそのときーー

「……ウチの店でそういうことはしないでもらいたいっす。あ! でもウチも入れて3Pでしてくれるならーー」
「さあキャロライン君! 装備を見せてもらおうか!」

 いつの間にか俺たちの後ろにいたキャロラインがまたしても訳の分からない事を言ってきたので、シエナに伸ばしていた手を速攻で引っ込めて話を切り替える。

「エリックの旦那、話を逸らさないでほしいっす! この店には防音室があって、そこでなら一晩中出来るっすから! さあ、シエナさんとウチを好き放題にしていいっすからそこに行ってイクっす!」
「おい! 俺がせっかく話題を変えたのになんで蒸し返すんだ! シエナ、お前も何か言ってーー」
「……私は……初めてはエリック様と二人きりが……いいです……」

 俺とキャロラインが固まる。
 俺の息子もアソコに血流が流れ出して固くなる。
 ――え? 『気持ち悪いです! 嫌です!』とかじゃなくて『二人きりがいい』という返しですか……というか、これ。オッケーサインってこと……? じゃなくて! この流れは色々おかしな方向に向かっている気がする。まずい、まずいですよ!
 言い出しっぺのキャロラインにどうにかしろと言おうとして彼女の方を向くと……彼女は顔を真っ赤にして『あわ……あわわわ』と言っていた。
 冗談で言ったのにマジレスされて、しかもとんでもないことをシエナが言ってきたから急に自分の発言が恥ずかしくなってきたのかも知れない。
 ほれ見たことか。冗談が通じない人だっているんだから、これに懲りたらもう少し自重するんだな。

「シエナ。今の発言は非常に嬉しいが、今は聞かなかったことにしてあげるから正気に戻ってくれ。というわけで、キャロライン。選んできてくれた武器を俺たちに見せてくれるか?」

 二人がおかしくなってしまったので、俺がもう一度話を変える。

「……はいっす……じゃあ、店の奥にあるトレーニング室にウチと一緒に来てほしいっす……」

 今度は素直に従ってくれた。
 ……まあ、トレーニング室に行く間にいつもの調子に二人共戻っているだろ。
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