【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【3】右往左往~幾久、迷子になる

海峡ロンドンバス

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 関門橋をすぎると海から少し離れて、海岸線そのものは見えなくなったがやはり町並みはいかにも港町、といった感じだった。
 横浜のようにひろびろとした雰囲気はないが、向こうに九州が見えるし、大きな水族館もあったりした。煉瓦の建物もあった。
 街中に入ると道路もかなり広く、ビルも多い。

(馬鹿にしてたけど、まあ都会じゃん)

 学校がまったりした所にあるので田舎だと思い込んでいたが、街中は一見、東京とそこまで変わるか?というレベルだった。
 確かに銀座のように、ブランド店がひしめきあい、看板が並び、みっちりと店が詰まり、人が大勢歩いているわけではないけど、建物がそこまで小さいとか、すさまじく田舎とか、そんなことはない。
 ビルはちゃんとおおきなビルがたくさんあるし、それなりの企業も入っているっぽい。
 なにより、道路がすごく綺麗で広い。
(……田舎じゃないじゃん)
 下手したら東京の別の地区のほうより綺麗だしちゃんとしてる。
 最初の印象が悪すぎたせいで、ど田舎だと思い込んでいたが、バスでちょっと出ればちゃんと都会らしい場所もあるのかと納得した。
 外を眺めていると、大通りから見慣れない建物を見つけ、幾久は船の関係かな、と思い写真にとろうとした。そういえばさっきの海岸線も興奮してみるばかりで写真に撮らなかった。
 おしいことをした、と思いながら背負っていたショルダーを下ろしてスマホを取り出そうとした。
「……あれ?」
 ごそごそとバッグの中を探る。
「あれ?マジで?」
 まずい。
 どうやらスマホを寮に忘れてきたらしい。
 急にざあっと不安になった。
 なにかあってもスマホで連絡すればいいと思って引き受けたのに。
(やばいまずい。でもまあ、なんとかなる、だろ)
 山縣の言うとおり、バスは海岸線を一直線で、どこかで曲がることもなかった。
 寮から考えれば、いつも通る国道をそのまま進んでいるだけなので、迷うこともないだろう。
 そう考えるとまあいいか、という気持ちになった。


 ロンドンバスは無事、赤間ヶ関駅前に到着した。

 成る程、駅の傍にデパートがあり、大きな建物が連なっていた。
 バス停でバスを降りると、ロンドンバスは折り返し運行になった。
 幾久が乗ったときはすんなり乗れたし、そこまでの人もいなかったが、観光でも使われているらしい、けっこうな人が並んで写真を撮ったり賑やかだ。
 そそくさとバスを降り、デパートへ向かう。
 駅前はさすがに人通りはかなりあった。
(田舎田舎って馬鹿にしてたけどそうでもなかったんだな)
 通っている場所と住んでいる寮が郊外チックなだけで、実際そこまで田舎じゃなかったのかと反省した。

 さて、スマホはないので山縣に確認することもできなかったのだが、一応明太子屋の名前とパッケージはなんとなく覚えている。
(折角スマホでパッケージ撮ってたのに意味なかったなあ)
 物覚えのいい自分に安堵しつつ、デパートの地下へと降りる。
 降りてから少し食料品店をうろついてみた。
 明太子屋はいくつかあった。だが、肝心の、山縣の言っていた明太子屋が存在しない。
(あれ?オレ、覚え間違えた?)
 記憶力にはけっこう自信がある。だけど幾久の記憶の中にある文字はここに存在しない。
 おかしいな、と他の明太子屋を何度もうろついていると、三角巾を頭に巻いた売り子のおばちゃんに話しかけられた。
「どうしたの坊ちゃん。なにか探してるの?」
 坊ちゃん、と言われたことにはあえて触れず、幾久は頷いた。
「明太子を探してるんですけど……このデパートって、ここしか食料品おいてないんですよね?」
「はぁー、デパートの食料品ったら、ここだけになるねえ。スーパーなら、あーっちの方に地下があるけど」
 確かに山縣はデパート、と言っていたしデパート名もあっている。間違いなくここだ。でも店がない。
 幾久は、店の名前を思い切って出してみた。
 ご存知ないですか、と尋ねると、売り子のおばちゃんは、傍に居た別の販売員のおばちゃんと顔を見合わせた。
「その店、こないだ引っ越したばっかりだわ」
「へ?」
 明太子屋が引越し?と幾久は首をかしげるが、親切なおばちゃんは説明する。
「新赤間(しんあかま)のほうに、イズミシティっていう、大きな複合施設ができたでしょう?」
 なんだそれ、と幾久は首をかしげる。
「すみません、判りません」
「ありゃ、地元の人じゃないんかね」
「引っ越してきたばかりなんです」
「ああー、そりゃ判らんよねえ。どうする?この明太子なら、その店と味が似てるけどねえ」
 いや、勝手に食べてはいけないものを食べてしまった山縣のアリバイを完全なものにするためには、全く同じものを買わないといけない。
「どうしてもその店のが必要なんですけど……どうやったら行けますか?」
 ここのJRの駅は赤間ヶ関なので、『新』赤間というならすぐ近いだろう。
 一駅なら歩けばいいや、とそう思っていたが。
「バスも行けるけど、引っ越してきたばかりならどうかねえ」
 おばちゃんたちがわやわやと話をしだす。
「あ、それなら電車で移動して新赤間ヶ関(しんあかまがせき)駅の新幹線口に行ったらいいよ。あそこからイズミシティまで、直行のバスが出てる」
「そうなの?」
 幾久ではなく、隣のオバチャンが食いついてきた。
「そうよ、駅からけっこうあるでしょう、あそこ。だからバスが出てるの」
「ああー、そうよねー確かにあれ歩くにはけっこうあるわよねえ」
「車ならすぐだから、判らないけどねえ」
 幾久をそっちのけで井戸端会議を始めている。
「えと、じゃあJRに乗って、バスで移動できるんですね。ありがとうございました!」
 ぺこりと頭を下げて、幾久はオバチャンたちから逃げ、デパートを出て駅へ向かった。
 さっきロンドンバスから降りた場所へ戻り、幾久はJRの駅の中へ入る。
 駅は普通の駅で、案内表示板で行き先を確認する。
 小銭を入れている小さなポーチから小銭を出して、新赤間ヶ関までの切符を買う。
 一応方向と地図も確認すると、新赤間ヶ関の次の駅が長州駅となっている。
 確か報国院高校へのJR最寄駅は長州駅だったはず、じゃあ帰りは新赤間ヶ関駅から長州駅までJRで戻ればいい。
 わざわざこっちに戻って、またバスで引き返すとかえって大回りになるだろう。
 幾久は新赤間ヶ関行きへ向かう電車へ乗るため、ホームへと向かった。
 ホームは高い場所にあって、回りがよく見えたが、磯臭さにびっくりした。
(海が近いからかなあ)
 それにしても、なんというか魚屋のような匂いがしたが、すぐに鼻が慣れてしまったし、電車に乗るとそれもなくなった。
 不思議な場所だなあ、と幾久は思う。
 港町なら横浜も鎌倉もそうだけど、こんな駅の中が磯臭いなんてびっくりだ。
 もっと小さい、いかにも田舎の駅、というか無人駅みたいな場所ならそこまで驚かないのかもしれないけれど。

 電車は赤間ヶ関を出て、ひとつとまる。
 そしてその次が新赤間ヶ関だった。

『次は、新赤間ヶ関、新赤間ヶ関。新幹線お乗換えの方は、出口を左側に……』

 引っ越した明太子屋があるという、イズミシティへのバスは新幹線口から、と聞いたので、幾久はそれをしっかり頭に叩き込む。
 電車が止まり、新赤間ヶ関駅に到着した。
 アナウンス通り左方向へと進むが通路があったが、進んでいくうちに目の前に動く歩道があった。
(うわ、在来線でなんで?)
 狭くはあるけど、羽田空港みたいに動く歩道があって、それに乗って移動するようになっていた。
 その理由はすぐに判る。
 駅の中が異様に長い。
 歩道を百メートル程度歩くとさらに動く歩道がある。
 そこをまだなのか、と思いながら歩いているとやっと降りる場所になり、階段を降りるとようやく改札だった。
 駅員さんがいたので切符を渡し、改札を出る。
 駅構内にはいろいろ店があったが、バス停の場所は看板が出ていたのですぐに判った。
 駅前にはなぜか南国によくあるようなソテツが植えてある。
 やはりこのあたりも南国になるのだろうか。
 そしてイズミシティ行きのバスは二十分分待ちだった。おまけに片道百八十円。
(うえ、二十分待ち?!しかも百八十円って……)
 待ちたくないし払いたくないなあ、と思ったけれど場所も判らないし、歩くわけにもいかないので暫く待つ事にした。

 山縣には明太子+移動の費用で先に五千円貰っているので問題はないと思うが、すぐそばに親がいない状態でお金を使うのは少々気が引ける。
 とはいえ、移動しないことには目的が果たせないし、なんだかのども渇いてきた。
 駅の周りにコンビにでもあれば、と思ったけれどそんなものがある様子はない。
 ただ、駅構内に売店が少し大きく、コンビニっぽかったのでそこに一度戻ってペットボトルのお茶を買った。
 一応尋ねてはみたけど、やっぱりスイカには対応していなかった。
(チャージしてある意味ないじゃん)
 コンビになら使えるのになあ、と思いながら、お茶を飲みつつ、ぼうっとしてバスを待つ。
 デパートでも思ったが、ここのバス停もおばちゃん、おばあちゃんだらけだ。
 バスは定時どおりに到着し、おばちゃんとおばあちゃんの中に紛れながら、幾久は目的の『イズミシティ』に到着した。
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