【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【3.5】益者三友~どちゃくそ煩いOB達

御門寮のヒーローたち

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 カレーうどんは普通においしかった。
 肉がちょっと筋っぽいかな、と思ったが鯨と言われても言われなかったら気づかないレベルだ。
 坂本と中岡は食べ終わるとおしぼりで体を拭き、きれいにしてから制服をまた着た。
 制服を着るとちゃんとした、立派な人に見えるのが不思議だ。

 プロレスが始まるまで、時間があるので祭りでにぎやかな港の通りへ向かった。
 市場へ向かう海峡に面した通りはウッドデッキで作られていて、すぐ下に海が見える。
 時折波がぱしゃんと上がってきて、磯臭さもあって、海だなあ、と幾久は当たり前の事を思った。
 デッキのある広場には観光客目当ての店が並んでいたが、今日は祭りとあって普段は店内にしかない雑貨店が屋台を出していて、キラキラしたガラスのアクセサリーもあった。
 高杉が雑貨屋の前で足を止めた。

「これ、かわいいのう」
「おー、ハル、彼女にでもあげるとか?」
「バーカ、妹にじゃ」

 海をテーマにした店なのか、いろんな海モチーフのアクセサリーや小物なんかがある。
(あ、これなんかいいな)
 幾久の目を引いたのは、藍色と青と水色の三色で編まれた渦模様のミサンガだ。
 好きなものを1本なら三百円、2本セットで五百円、とあった。
(ナムさん、ブレスレットたくさんしてたなあ)
 あのきれいな腕の青い刺青には、この色が似あいそうだと思った。
 自分も欲しいし、2本買ったらお得ということもあって、幾久は自分のものと、ナムに似合いそうなブルーのミサンガを選んだ。
「すみません、この青いのと、こっちの」
 ライムグリーンと青と白で編み込んだものを、幾久は自分用に買った。
 そして煩げな人をふと思い出して、もう少し買っておいたのだった。



 それぞれが買い物を済ませ、歩いているとヘルメットに特攻服にタイツ、といったまた変な風貌の人が見えた。
(なんだあれ)
 祭りだから変な人がいるのかな、と思って関わらないようにしようと思っていたら、そのヘルメット男が振り向いた。
「おー!ハルじゃねーか!小僧も!」
「……も、毛利先生?」
「なんじゃ、殿か」
 ちっとも動揺しない高杉にびびりつつも、幾久は尋ねた。
「先生、その恰好……」
「ふぐマンだ!」
 そう言って胸を張るが、確かにヘルメットをよく見ると、フグの顔の模様が描いてあった。
「殿も試合出るんか?」
「おー。乱入予定だわ」
 乱入って予定されているものなのだろうか。
 プロレスはよく判らない、と幾久は思った。
「よしひろは?」
 高杉が尋ねると、毛利が顎をしゃくった。
「試合前に客寄せでな、市場の海峡前ウッドステージでヒーローショウすんだよ。たぶんもう居るから行ってみろ」
「サンキュー、殿」
「おーよ」
 高杉は毛利に礼を言うと、全員でよしひろを探しに市場のほうへと向かった。

「あ、あれっすね」
 市場のあたりは広く、車が忙しそうに出入りしている。
 マスク姿のよしひろを見つけ、近づこうとしたその時だった。
 てっきり知り合いかなにかと思ったのだが、よしひろは男にからまれている真っ最中だった。
 ふざけてよしひろの体を乱暴に殴っているのは、さすがに見ていてもどうかと思うレベルだ。
 高杉がさっと近づいて行った。
「ラ・グルージャ・マッチョ!」
 呼んだのはよしひろのヒーロー名だ。
 よしひろも高杉に気づき、「おう!」と笑顔を見せる。
 多分、高杉は、どさくさに紛れてこの場をどうにかしようという魂胆なのだな、と幾久も気づく。
 所が、ヘンな大人は高杉を気にするどころか、さらに絡もうとする。
「マッチョ、サインくださーい!」
 高杉がわざとらしくそう言い近づくと、よしひろはまた笑顔で「いいとも!」と男から逃れようとする。だが、無視された男は腹がたったのか、よしひろに蹴りを入れた。
 高杉の表情が途端凍りつき、一瞬でその蹴った男を睨みつけた。
 だが、それに気づいたよしひろは、わざとらしく「いたぁ~い、ちょっとなにすんだよぉ」と軽くふざけ、高杉を自分の背においやった。
 男は怒りを隠さず、よしひろにあごをしゃくりあげながら怒鳴った。
「おめーさ、調子のってんじゃねーぞ?」
 わかりやすい挑発に、よしひろはじっと男の言葉を聞いていた。男はしゃべり続ける。
「プロレスって結局ただの演技だろ?ミセモンだよなぁ?なのになーに強いフリしてんだよぉ、あぁ?」
 良い大人なのになにを絡んでいるのだろうと幾久はあきれてつい、その男を見てしまうが、男は幾久に怒鳴った。
「なーに見てんだよガキィ!」
 うわっと幾久は引くが、さっとよしひろが前に出た。
「お、なんだよ、やんのかよ、やんのかよ」
 男はボクシングでもやっているかのようなポーズをとるが、よしひろはため息をつくと男に言った。
「あのね、お兄さんはプロレスラーなんだよ」
「は?」
 いきなりの説明に幾久も驚く。
 男は勿論顔をゆがめ、もう一度「は?」と首がもげおちそうな勢いでよしひろを下から睨みつけた。
「だから、お兄さんはプロレスラーなんだよ」
「んなの見たらわかんだろぉがよぉ!」
 確かになーと幾久は思った。
 この外見と肉体で、レスラー以外の何だというんだろうか。
 あ、コーヒー屋さんだったか、と思い出してちょっと笑いそうになったのをこらえる。
「おめーさ、本当につえーっつうんなら?俺と勝負しろや!悔しかったらな、殴ってみろよ!」
 どう見ても男はただの柄の悪い一般人だし、プロレスラーのよしひろが一般人なんか殴れるわけがない。
 だが、よしひろは、ものすごく可愛くないくせに、唇をアイドルのように尖らせて言った。
「やだよ、だって俺、プロだよ?」
「プロがどーしたってんだよぉ!」
「だからさ、プロだから、殴ってもいいけどお金貰うよ?」
 いきなりの言葉に、幾久も、周りに居た、はらはらしながら様子を見ていた人たちも驚いた。
「……?どういう意味だよ!」
「どーもこーもないでしょ?だって俺、プロだもん。殴る蹴るでお金貰ってんだもん。タダで他人殴るとか冗談じゃないよ」
 幾久はこらえきれず、ちょっと噴き出してしまった。
 確かにそうだ、プロレスは殴る蹴るでお金をもらうものだな、と気づいたからだ。
 周りで見ていた人たちは、よしひろの言葉に急に目を輝かせ、面白そうに覗き込んできた。
 よしひろは男に続けて言った。
「あのね、プロに無料で殴ってもらおうとか、おいしい事考えてるんだろうけど、そういうのダメだから。だって見てよ、この筋肉!これだけ育てるのに、どれだけ時間とお金とプロテインかけたと思ってんの?冗談じゃないわよぅ」
 よしひろの可愛くないアヒル口と、あまりにもっともな意見にとうとう周りがクスクスと笑い始めた。
 よしひろは更に続けた。
「どうしてもって言うなら、ファイトマネー計算してあげるけど、たぶんあんたの肋骨全部いっちゃうよ?レスラーに殴る蹴るされても多分、保険使えないけど、お金払って怪我したいの?」
 するとよしひろの後輩がさっと出てきて電卓を叩き、男に見せると男はさーっと顔色を青くする。
 後輩はにこっと笑顔で男に告げた。
「お支払いは前払いでおなしゃーす」
 さすがにバカにされたのが判ったらしく、男は勢い、腕を振り上げてよしひろに殴りかかってきたが、前に来たはずの男の腕は、いつの間にか後ろへ倒れていた。
 すると、男を倒したのは毛利こと、ふぐマンだった。
 すごい、親友のピンチにかっこいい、と幾久が素直に感心していると、倒した男を小脇に抱えて、毛利は叫んだ。
「この男は貰った!」
 そう叫ぶと、わはははは、と笑いながら毛利は海へ一直線に向かい。
「あ」
「え」
「うそ」
「まじか」
 どぼーんという音に、そこに居た人たちがわあっと驚く声。
 毛利は男と二人して、すぐそばの岸壁から海に落ちた。正しくは、毛利が男を抱えて海に飛び込んだのだった。


 毛利と男は宇佐美の漁船で拾われていた。
 岸壁には緊急用の浮き輪が設置されているので誰かがそれを投げたのだが、浮き輪を使ったのは毛利一人だった。
 折角二つ投げてくれたのに、毛利はこともあろうにその浮き輪の一つは自分が使い、もう一つは遠くに投げてしまったのだ。
 そして男の首根っこを摑まえては何度も沈んでいた。
 暫くして宇佐美が漁船で引き上げに来て、なんとか海から上がったずぶぬれの男はすっかり恐縮してがたがた震えながら、肩を組んだ毛利の「頭冷えたよな?」「ちょっと酔ってただけだよな?」「もうおうち帰るよな?」という低い声に、はい、はい、と繰り返し答えていたから、海の中でさぞかし怖い目に合わされたのだろう。
(ちょっとはかっこいいと思ったのに)
 やっぱり柄の悪い人よりもよっぽど悪い人だったんだ、と幾久は自分の学校の先生のはずなのに頭が痛くなった。

 ちゃっかりしているのがよしひろで、海に落ちた毛利たちの騒ぎで何事かと集まった人たちにチラシをくばりまくり、人が引かないうちにヒーローショウをはじめ、プロレスの宣伝に使っていた。
 煽った男が悪いとはいえ、うまく利用されてしまったんだなあと幾久はちょっとだけ同情した。
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