【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【3.5】益者三友~どちゃくそ煩いOB達

スーパーヒーロー、よしひろ

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 時間が近づいたので、幾久と高杉、坂本と中岡の四人はプロレス会場に移動した。
「いっくん、どのあたりに椅子並べた?」
「えーと、あのへんかな」
 並べたあたりに移動しようとすると、レスラーの人に声をかけられた。
 よしひろの友人の、社会人プロレスの人で、商店街でパン屋をやっている八木さんだ。
「おう、いっくん、友達も来たのか!」
「あ、はいっす」
「席、どこだ?」
「このへんにしようかと思って」
「そりゃ駄目だ!折角頑張って手伝ってくれたのに、そういう訳にはいかん!」
 八木さんは四人をぐいぐいとリングのそば、実況席の近くに連れて行った。
「身内はみんなこのあたりに座るから、お前らもここで見ろ」
 幾久は断ろうとしたのだが、坂本と中岡がくいついた。
「いいんすか?!こんな近くで!」
 八木は笑ってうなづいた。
「いーっていーって、いっくんのお友達だろ?遠慮すんな」
 じゃな、と笑って去って行った。
「わー、いっくんサンキュー!こんな近くで見れるとか、ちょうラッキー!」
「ありがとう!いっくんさまさま!」
「いやー、別にそんな」
 アルバイトしただけだし、皆ほど動いてないし、と思ったが、二人が喜んでいるみたいだからいいのかな、と幾久は納得することにした。


 プロレスがはじまったが、幾久は圧倒されるばかりだった。
 社会人なのでそこまででもない、と高杉は言っていたがそんなことはなかった。
 皆、しっかり体はプロレスラーだったし、技なんかかけあうと迫力がものすごいし、音なんか牛のぶつかる音みたいだし、場外乱闘になったときは慌てて椅子から飛び降りて逃げた。
 練習生の人がガードで入って来るから問題はないのだけど、さすがによしひろクラスの体の人が何人も戦っていると迫力が凄い。
 その中でもひときわ派手だったのが、玉木だった。
 衣装もド派手で本人もド派手、孔雀みたいな衣装を着ていて、おまけにキャラクターは学校のままのお姉口調、とにかく濃いキャラクターに仕上がっていて、どこをどう見ても先生には見えなかった。
(元から先生っぽくないけど)
 中身はこれ以上ないくらいに大人なのになあ、と幾久は楽しげな玉木を見て不思議に思った。
 おまけにコアなファンもついているらしく、アイドルのような団扇をもって応援している女性陣も居た。
 黄色い歓声が凄く、玉木はその声に応えるように、試合でも華麗に勝ってみせていた。

 そして幾久が一番びっくりしたのが、よしひろの人気だった。

 BGMとともに出てきたよしひろは、大歓声と大喝采の中、声に応えながら登場した。
 いつもは変なマスクに変な人でしかなかったが、地元ではヒーローだと判るたくさんの歓声に、子供よりも大人のファンが多かった。
 そして、素人の幾久から見ても判るくらいにレベルが違って上手かった。
 あんなに大きな体なのに、ロープから相手に向かって飛ぶ姿は軽やかで、ひょっとして本当は軽いのかな?と思ったほどだった。
 相手の体を足ではさんでくるくる回り、なにがどうなったか判らない状態でカウントを取り、あっという間に勝ってしまった。
 一緒に見ていた坂本と中岡はすさまじく盛り上がって、大声で応援していたので幾久もついつられて応援したので声が少し枯れてしまったけれど、大声で応援するのは楽しかったし、それが自分の知っている人が勝って手を挙げているのは、なぜか誇らしくもあった。


 プロレスが終わり、リングの片づけを幾久がしていると、坂本も高杉も手伝った。
 ボランティアの人が飛び入りで参加するのもOKだったので、子供も楽しそうにできることをやっていた。
 中岡も手伝おうとしたのだが、兄との約束があるとの事なので、先に分かれることになり、高杉と坂本、幾久の三人は適当にパイプ椅子を運んだりしていた。
「いっくん、わりーけど、先に帰ってくんねーかな?」
 ファンサービスも終わり、片づけをしていたよしひろが声をかけた。
「オレ、まだ手伝いますよ?」
 バイトとして雇ってもらっているので、皆は途中でよくても幾久はそうはいかない、と首を横に振るが、よしひろは「いいって」と笑う。
「それよかさ、寮の風呂、デカい方沸かしといてくんね?あっち、湯を張るの時間かかるからさあ。俺ら、今日も御門泊まるし」
 普段は使っていない、大風呂のほうは確かに、洗うのも湯を入れるのも時間がかかるだろう。
「わかりました。じゃあ、お先に帰ります」
「おお、たのむぞいっくん!」
「ハーイ」
 お先に、とよしひろや他の人たちに挨拶すると、幾久は高杉と坂本の元へ向かった。



 三人はバスに乗り、それぞれ帰ることになった。
「坂本さんは、ハル先輩と一緒なんすね」
「おう、こっちに来たときは大抵そうさせてもらってる」
 坂本が一緒だから、高杉は寮には居ないのか、と幾久は納得した。
「明日は二人とも、フェス参加っすか?」
 坂本も高杉もうなづく。
「明日けっこう好きなバンド出るから、楽しみにしてる」
「ワシと瑞祥も、用事の後に途中から見に行く。坂本を送ったら、御門に瑞祥と帰る。遅くなるかもしれんが」
 高杉の言葉に幾久はうなづく。
「そうして下さい。やっぱ先生と一緒って、なんか圧迫感あるっすよ」
「そうか?殿、ああ見えて世話好きじゃろう?」
 高杉は言うが、幾久は首を横に振る。
「確かにそうなんすけど、あの外見でかいがいしく世話やかれたらなんか落ち着かなくて」
 迫力ある姿のまま、コーヒーを用意したりおかわりを聞いて来たり、なんだか麗子さんや栄人を見ている気になって、それは便利かもしれないけど、なにせインテリヤクザ風なのでどうも素直にお給仕される気にならない。
「それに、OBの先輩たちも妙に濃いんスよねぇ」
「まあ、ありゃ仕方ねえの。昔からああじゃ」
 杉松の後輩だったという人たちなので、高杉も顔は知っているのだろう。
 むしろ、知っているから逃げたんじゃないかと幾久は思ったが、尋ねないことにした。

 高杉の家はまだ先なので、幾久は寮に近いバス停に降りた。
「じゃ、ハル先輩、坂本サン、今日はお疲れさまでした。また明日」
「じゃーな、いっくん!明日フェスで!」
「お疲れ。今日までじゃが、寮を頼むの」
「はい!」
 2人に別れを告げ、幾久は足取りも軽く寮への道を歩いていた。
 だが、御門寮の近くになると、いつもと様子が違う。
 門の前に数名の女性が門の前に立っていたのだ。

(何だろ?)
 寮生の家族かな?と思ったが高杉も久坂も吉田も実家に帰っているので来るわけはないし、山縣は一人っ子だと聞いているし、出かけているはずだ。
 親戚が来るなら実家に帰るはずもないし、と幾久が門を入ろうと近づくと、女性が声をかけてきた。
「あの、すみません」
「はい?」
「ここって、寮ですよね?きみ、寮生?」
 幾久はうなづく。
「そうですけど」
「グラスエッジ、来てるの?」
「は?」
 幾久は目を見開いた。
(グラスエッジ、って確かバンドだよな)
 音楽にあまり興味のない幾久も名前だけは聞いたことがある。
 いま凄い人気を誇っている、やたらカッコいいロックバンドだ。
「えーと、意味がよくわかんなくて。スミマセン」
「まさか君、グラスエッジ、知らないの?」
 女性に言われ、幾久は「名前は知ってますけど」と答えた。
 でも、そのグラスエッジと御門寮に何の関係があるのかが判らない。
「だって、グラスエッジのメンバーって、ほとんどがこの寮出身なんでしょ?」
 女性が言うが、幾久は逆に驚いた。
「そうなんすか?」
「知らないの?」
「聞いたことないっす」
 グラスエッジではなく、なんだかやたら古い名前のバンドマンなら幾久の父としゃべっていた気がするが、あれはさすがにグラスエッジではなかった。
 高杉に聞けばなにか判るかもしれないが、あいにくさっき別れたばかりだ。
 そんな幾久を置いて、女性たちはおしゃべりを始めた。
「やっぱ来てないんじゃない?」
「そっかー」
 なんだあ、とがっかりされるとなんだか気分が悪い。
「本当に知らない?来る情報とかさあ」
 しつこく聞かれ、幾久はむっとして返した。
「オレ、この学校入ったばっかだし、地元出身じゃないんで、詳しくないんです、スミマセン」
 女性陣はがっかりと肩を落とす。
「なんかさ、グラスエッジの事知ってる先輩とかいないの?メンバーの話とか聞いたことない?」
 ずうずうしいなこの人たち、と思ったが幾久は答えた。
「全く聞いたことにないッスし、いま来てるのは、学校の先生とレスラーとお笑い芸人(みたいな人)だけです」
 学校の先生がいると聞けば少しは引き下がるだろうと思ったが、別に気にする様子はなかった。
「そっかー。やっぱ来ないよねー」
 あーあ、はずれかあ、と言っているが、なんとなく気分がむかむかする。
 自分の寮に土足で入られたような気がして、幾久は女性たちに対してなんだか嫌な感情が湧いてくる。
 が、女性たちは気にする様子もなく、しゃべり始め、出て行った。
「やっぱ明日トリじゃん?絶対当日入りすんだよ!」
「やっぱそうかあ。じゃあ今から空港張りに行くか!」
「行こ行こ!」
 幾久に礼もなく、騒がしく勝手に話しながら女性たちは走り出した。

「……何なんだアレ」
 一応、女性陣が消え去るのを見届けてから、幾久は御門寮の門に入った。
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