【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【3.5】益者三友~どちゃくそ煩いOB達

物販のアルバイト

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 翌日、幾久はバスでフェスの会場へ向かった。
 バイトは昼過ぎからだったので、のんびりできたのがありがたい。
 会場は昨日の様子とは違って、人がものすごく多かった。幾久と同じくらいの人も多く、きっと報国院の学生も来ているのだろうな、と思った。
 到着したら青木に電話するように言われていたので電話をすると、受付窓口に行くように言われた。
 窓口で名前を書いていると、男性が近づいてきた。
「あ、乃木くんはこっち貰うよ、うちのバイトだから」
「はいっす」
 受付がそう言い、閉じられていたゲートを開け、男性は幾久を連れて中へと入って行った。
「どーも、はじめまして。宮部です」
「あ、ども、乃木幾久です」
 男性はフェスのTシャツを着て首からパスを下げていたが、雰囲気はいかにもサラリーマンで、宮部と名乗った男性はにこにこして幾久に言った。
「アオの後輩でしょ?フェス初めてって聞いてるけど」
「あ、はいっす。今日お世話になります」
 堅苦しいのいいよ、と宮部は笑っている。ものすごく愛想がいい人だった。
「今アオ、ちょっと忙しくてね。後から会えるけど先にバイトしてもらっていい?」
「勿論っす!」
 そのために今日は来たのだから、と幾久が頷くと宮部が笑って頷いた。
「じゃ、電話だけ持っといて。それから、着替えて貰いたいんだけど」
 宮部がきょろっとあたりを見渡すが、幾久が言った。
「着替えるの、そのTシャツっすか?」
 宮部が持っているTシャツを指すと、宮部が頷く。
「だったらここで着替えるっす」
 言うと、幾久は着てきた服を脱ぐ。
 サッカーの試合で、外で服を着替えることはよくあったからだ。
 宮部は笑いながら「高校生はいいなあ」と言っていたが、なにがそんなにおかしいのか幾久には判らなかった。
「着替えと、いますぐ必要じゃないものはこっちで預かるよ。あとこれパスね。首から下げとけば、関係者のルートも問題なく通れるから便利だよ。でも絶対になくしちゃダメ。他人にもあげちゃダメ。それだけは気を付けて」
「はいっす」
 バイト用のパスでも、こういう場所は厳しいのだな、やっぱバンドの人とかいるもんな、がんばろう!と幾久は気合を入れる。
 着替えたTシャツは、今日のフェスのTシャツだった。今日の日付と、出演するバンドがずらっと書いてあって、そこには幾久が知っているバンドもあった。
「おー、似合う似合う」
 宮部が言うと幾久が照れた。
「そっすか」
「うん、音楽好きな高校生って感じでいいね!」
 宮部は人のよさそうな笑顔でにこにこと笑っている。
「あと、これも」
 幾久の腕に、宮部はどんどん幾久にグッズをつけていく。
 リストバンドなんか片腕にゴムのを三つ、もうひとつはグラスエッジのタオル地のをつけられた。
「なんか多くないっすか?」
「こういうの宣伝になるから。つけといて」
「うす」
 仕事の一環なのかと頷いた。
 仕事用のポーチも貰ったので、幾久はそこに財布と携帯を入れておく。
「じゃあ、いっくんにしてもらうのは物販のお手伝いです」
「ぶっぱん」
 宮部が移動しながら説明してくれた。
「こういったフェスではグッズが販売されるんだけど、フェスのグッズもあれば、参加するバンドのグッズも売ってるんだよね。で、いっくんのお仕事は、そのグッズの荷出しね。裏に箱が大量にあるでしょ?」
 宮部が指さすと、テントの裏に段ボールの箱が大量に重なっていた。
「うす」
「あれを、指示に従って箱を開けて、売ってるスタッフさんに渡すお仕事。あと、ひょっとしたら他のお手伝いもあるかもだけど」
「うす、がんばります!」
「いい返事!じゃあ行こうか!」
 宮部が行くと、物販に居たスタッフが「お疲れさまっす!」と笑顔を見せた。
「これが話してたいっくん。大事にね」
「うぃっす!じゃあ、いっくん、早速仕事、お願いします!」
「はいっす!」
 バイトだしがんばるぞ!と幾久は張り切ってお手伝いを始めた。

 バイトはものすごく忙しかった。
「いっくん、こっちに3番TシャツのMサイズ!!!」
「はいっす!」
「こっちにラバーバンドください!」
「はいっす!」
「タオルありますかぁあ」
「いま運びます!」
 幾久はテントの裏で段ボールを開け、サイズごとのTシャツを出して運んだり、言われたグッズを持って来たり、忙しい。
 物凄く忙しいけれど、段ボールを開けて持って行くという作業はとても楽しくて、夢中でやっていた。
 あっという間に大量の段ボールは消えてしまい、幾久は何度か「3番Tシャツ、Mサイズ、売り切れでーす!」「リストバンド売り切れです!」と叫んで、そしてほとんどのグッズが、売り切れとなった。
 グッズが売り切れると、スタッフの人が言った。
「いっくん、お疲れ様!おなかすいてない?」
 言われてはじめて幾久は空腹なことに気づき、おなかは「ぐううう」という音を立てた。
「すいてるみたいだね」
「……スンマセン」
「いいって。じゃあさ、もうここはいいから飯、食ってきたら?」
 スタッフさんが指さした方向には、屋台がたくさん並んでいた。
「食い物充実してるから、買っといでよ!ここで食っていいからさ」
「あ、じゃ俺、頼んでいいかな?塩やきそば食いてー」
 おれも!と手が上がったので、幾久はお使いに出ることにした。

 屋台はそれぞれいろんなものがあって、見ているだけで楽しい。
 スタッフさんのおすすめの焼きそば屋さんで頼まれた海鮮塩焼きそばを買い、他にも肉丼や甘いものを両手に抱えて帰った。
「いっくん、ありがとう!」
「おつ!おつ!」
「飯だぁああ」
 そう言って喜びながら食事になった。
 順番で食事になったが、幾久は先に食べさせてもらえたのがありがたかった。
 飲み物を用意して貰えたので、つめたいウーロン茶を飲みほして、実はのどがものすごく乾いていたと、飲み干してやっと気づいた。
「あー、喉かわいた」
「それって、飲む前に言うセリフだよ」
 幾久の言葉にスタッフがうけている。
「でもお疲れ様。こういうバイト、初めてでしょ?」
 幾久は頷く。
「でも、すげ楽しかったっす」
 お腹が減っているせいか、塩焼きそばが異様に美味い。あっという間にたいらげて、肉丼に入った。
「肉もウマい」
 頬に詰め込んで幾久が言うと、スタッフも「だろ?」と満足そうだ。
「ここのフェス、飯けっこううまいんだよな。この海鮮塩やきそばもスゲー人気だし」
「うまかったっす」
 幾久が言うと、スタッフも頷く。
「そーなんだよ、これが楽しみでここに来てるってのもあるよなあ」
 話していると、一番若いスタッフの一人が幾久を誘った。
「なあなあいっくん、ちょっと抜けてフェス見にいかね?」
「いいんすか?」
 幾久が顔を上げるが、皆、「いいよ」と頷く。
「物販、思ったより早く終わったし、この程度なら俺らで充分まわせっから」
 いこうぜ、と言われ、幾久はうなづいた。
「あ、それと」
 スタッフは幾久のパスを、Tシャツの内側へつっこんだ。
「バイト終わったから、隠しといたほうがいい。ゲートに入るときに、また出したらいいから」
「はいっす」
 なるほど、バイトが終わったからしまっておくんだな、と幾久は頷いた。


 スタッフの人が好きだというバンドの演奏が行われている場所へ行き、後ろの方からちょっとだけ見ていた。
 前の方の盛り上がりはすさまじく、お目当てのアーティストが出てくると、皆腕を振り上げて応援して叫んで踊って飛びはねていた。
「すごい熱気っすね」
「そりゃ、ロックフェスだから盛り上がりも半端ねーよ?」
 スタッフは体を揺らし、途中で「うおー!」と叫んで応援していて、よっぽど好きなんだなあ、と幾久はうらやましくなった。
 次々出てくるバンドの演奏を見て楽しんでいると、暗くなるにつれ徐々に人が増えてきた。
「なんか、人増えてきてません?」
 かなりのバンドが演奏を終えて、あと二、三組しか残っていないのに、人は逆にどんどん増えている。
 近くにいた人が幾久に答えた
「オオトリがグラスエッジだから増えてんだよ」
「そうなんすか?」
 尋ねた幾久に、ビール片手に観戦していた大人が笑いながらうなづいた。
「ボーズ、フェスはじめてか?ひょっとして」
 頷く幾久に「そっかー!」と言いながら、隣の人と「かんぱーい!」とかやっている。もう完全に酔っ払いだ。
「ここ、グラスエッジの地元だろ?いま人気スゲーから、県外からもめちゃくちゃ来てんぞ」
「っていう俺らも県外。かんぱーい」
 うえーい、と盛り上がっている大人が言う。
「これからまだ人増えるぞ。ほら、見てみ」
 大人が指さした方を見て、幾久は驚いた。
「なにあれ!」
 一番大きなメインステージ前に、人がものすごい勢いで入って行っている。
 どんどん詰まっていって、後ろからも並んでいる人がめちゃくちゃ多い。
「こっちのステージはあそこまででもねーから、のんびり見れるけどな、やっぱすげーわ、グラスエッジ」
「はぁあ」
 まだ時間あんのになー、でも俺らこっから見るしー、と大人は笑っている。
(グラスエッジ、かあ)
 御門寮出身で、報国院の出身だと言うが、幾久はどんな人たちなのかは知らない。
 そこまで興味もないのだが、こうも皆がグッズを買っているとちょっと興味は湧く。
 スタッフさんのお目当てのバンドの演奏が終わったらしく、一度前まで行っていたスタッフさんが帰ってきた。
「ごめーんいっくん、盛り上がっちゃって」
「いいっすよ」
 楽しかったっす、と言うとそっか、とスタッフさんも嬉しそうだった。
「ぼちぼち帰るか。俺の目当ては終わったし」
「そうっすか。じゃ、失礼します」
 幾久が言うと、ビールを持った大人は「おー!」とか「楽しめよー少年!」と声をかけ、手を振ってくれた。
(なんか本当に、フェスって楽しいな)
 まだそんなに演奏をじっくり見たわけでもないけれど、福原の言う意味がわかった気がした。
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