【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

文字の大きさ
54 / 416
【3.5】益者三友~どちゃくそ煩いOB達

先輩は滅茶滅茶かっこいい

しおりを挟む
 物販のテントに戻ると、ちょうど待っていたスタッフさんが幾久を呼んだ。
「あ、いっくん、宮部さんがさっき探しに来てたんだよ?連絡ちょうだいって」
「え、まじっすか」
 スマホを見ると、確かに着信が入ってた。
「気づかなかった」
「どうせ中だから、向かいながら電話して」
「そうします」
 幾久が向かおうとすると、スタッフさんが幾久のパスをTシャツから出した。
「じゃあ、気を付けて!」
「いってくるっす!」
 幾久は宮部に連絡を入れると、さっき通ったゲートの向こうに来てくれていた。
「すみません、気づかなくて」
「ああ、気にしなくていいよ。ぼちぼち時間だからと思ってね。間に合ってよかった」
 まだほかにもバイトがあるのか、と幾久は頷く。
 通り過ぎる派手なバンドの人が「宮部さーん」とか「みやべっちおーつ」と声をかけてくる。
 おまけに通り過ぎるスタッフが、幾久の顔を見て、ぺこりと頭を下げていく。
(なんか丁寧だなあ)
 ひょっとしなくても、宮部はすごくエライ人なのでは。
 幾久は思ったのだった。


 プレハブから、青木が顔をのぞかせた。
「あ、きたきたきた!待ってたよーいっくんんん!」
 がばっと抱きつかれそうになり、幾久はさっと青木を避けた。
「お疲れさまっす」
「もー、ほんとつれない」
 しかし、幾久のとなりにまわるとがっちりと肩に腕をまわしてきて、その腕には幾久が昨日つけたミサンガがあった。
「いまから仕事だからさ、見てってよ」
「いいんすか?」
 仕事の邪魔になるのじゃないか、と幾久は思ったが、宮部は吹き出して言った。
「そのためにアオのヤツ、いっくんわざわざ呼んでんだから」
 青木はちっと舌打ちする。
「うっせーな」
 すると通りすがりのバンドマンっぽい人が、声をかけてきた。
「アオ、かわいいの連れてんじゃん。弟?」
「みたいなもん。かわいーだろ!」
「かわいーかわいー!高校生?」
 派手なお兄さんに声をかけられて幾久は頷いた。
「一年っす」
「うわー!去年まで!中学生!かっわいい!!」
 言うとバンドマンの人は、リストバンドをひとつ外して幾久の腕に通した。
「あげる!うちのバンドもよろしくね!」
「え?いいんすか?」
 バンドマンということは芸能人で、有名人というのではないのだろうか。
「いいっていいって!」
 バンドマンの人が幾久の頭を撫でるが、青木がそれをはたく。
「あんま触るな」
 青木が言うと、後ろから誰かがプレハブから出てきた。
「それはいいけど、アオ、時間だから」
 そう言って声をかけてきたのは、めちゃくちゃカッコいい、男前のお兄さんだった。
 あまりにかっこよくて、つい見とれていると、お兄さんは先を歩いて行った。
「リーダーこっわ」
 そう言って、青木はさっきのかっこいいお兄さんの後をついていく。
 と、その後を来原とナムがついてきた。
 来原は素顔だったが、ナムは相変わらずのマスク姿だ。
「お二人もバイトっすか?」
 幾久が尋ねると青木は吹き出しながら「そうだよ」と答え、来原もナムも頷く。
 青木が言う。
「これから、バイト頑張ったいっくんに、特等席でライブ見せてあげる」
「まじっすか?」
 それはちょっと嬉しい。
「あれ?ライブに興味持ってくれた?」
 青木が言うと、幾久は頷く。
「さっき、あっちのステージで見たんですけど、面白かったっす!塩やきそばも食べたんすけど、めちゃおいしくて!フェス、楽しいっすね!」
「でしょ?」
「でもさっきはステージ遠かったから、近いところで見れるの嬉しいっす」
 興味を持てば、近くでみたいと思ってしまう。
 素直に言うと、青木は頷く。
「だから、いっちゃんいい席で見せてあげる。アオ先輩のコネに感謝してね」
「するっす!」
 バンドの有名人ってよく判らないけれど、他にかっこいい人もいるかもしれない。
 それにオオトリはグラスエッジだと聞いたし、近くで有名人を見れるチャンスだ。

 御門寮の出身なら、よしひろの所の練習生よりそういうカッコイイ人の方がよかったかもなーと幾久は騒がしい先輩達を思い出して考える。
 しかし青木が音楽関係者だったおかげで、こうしてタダでフェスを見れるのだから、ありがたいのは間違いない。

 ステージの中をぐいぐい青木が進んでいくが、本当にこんなところまではいれるんだな、と幾久はものめずらしくあちこちを見る。
 鉄骨で組み込まれた大きな舞台は、いろんな見たことがない機材がたくさんあってそれだけでワクワクする。
 歓声が上がってしばらく、ばたばたとスタッフさんが走り出していた。皆、グラスエッジのTシャツを着ていた。
 青木はそんな中を堂々と進んでゆく。
「いっくん、こっちの袖で見てなよ」
「はい」
 こんな近くで本当にいいのかな、まるでスタッフみたいだ、と思うが青木を誰も止めないのでかまわないのだろう。


 すると、ばたばたしていたスタッフが、青木になにか確認した。
「アオさん、オッケー」
 スタッフがそう言いながら走り回っている。
 ふと見ると、さっきのかっこいい、青木が「リーダー」と呼んだ人が、幾久の近くに立っていた。
 かっこいいんだけど、なんだかどこかで見た気がするし、誰かに似ている気がする。
(誰だっけ?俳優さんとか?それともテレビで見たりしたかなあ?)
 音楽番組をそう見ない幾久は首を傾げるが中々思い出せない。
 スタッフの声がかかる。
「オンさん、出ます!」
 拍手とか、はい、とか、そういった音があちこちで起き、さっきのかっこいい男性が、ステージに出て行った。客席に軽く手を挙げると途端、唸るような声が客席から上がり、おんー!と叫び声が上がる。
(おん?)
 変な叫び声だな、と思ったが、青木が幾久の頭を撫でた。
「いっくん、見える?」
「あ、ハイ、見えるっすけど」
「もっとこっちで見ていいよ」
「いやいやいや、そんなわけには」
 青木が言ったのは舞台の袖も袖、めちゃくちゃ近くだ。いくらバイトでもそこはない。
 だが、その様子を見て近くに居たスタッフらしき人が言った。
「アオらの後輩でしょ?遠慮しなくていいって!」
 本当にいいのかな、と思うが誰も嫌な顔をしていないので大丈夫なのだろう。
(ひょっとしてアオ先輩って、エライ人なのかなあ)
 若いわりに態度も大きいし、誰も逆らわないし。
 青木はインカムを確認すると、言った。
「じゃ、僕も出ます」
「え?」
「はい、アオ出まーす!」
 スタッフが声を張り上げるが幾久は驚く。
(えー?!舞台に出ちゃうんだ?)
 一帯青木は何のスタッフなのだろうか。幾久が驚いていると歓声が上がった。
「きゃああああ!アオ!がんばってー!」
「青木さーん!がんばってくださーい!」
「アオー!!!!!」
「アオだ!アオー!!!こっち向いて!」
 なんでスタッフの青木が頑張る必要があるんだろうか。
 しかし青木は舞台の上にセッティングしてあるキーボードの前に立つ。
「いっくんおつぅ!よっく見ててな!」
 ガタイのいい来原が、タンクトップ姿で現れ、幾久の髪をぐしゃぐしゃっと撫でると舞台に走ってゆく。
「KURUさんだ!」
「KURU!!!!!」
「KURUぅうううううう!」
 野太い男の歓声が上がる。
 なんか昨日のプロレスより歓声凄くないか?っていうか、なんで練習生がこんなに人気あるんだろう?すると、マスクをかぶったナムが現れ、幾久の前で足を止めた。
 幾久がナムと向かい合っていると、ナムはずっとかぶっていたマスクを脱いで、幾久に渡した。
 そういえば、ナムの素顔を見るのは初めてだった。

「大事なものだから、預かっといて」
「へ?ナムさん日本語喋れ……」

 現れたのは、タイ人の顔、ではなく。
 どこからどう見ても日本人の若い男のイケメンで、真っ青に染まった髪をしていた。
 腕に巻いたたくさんのブレスとミサンガ、その中には昨日幾久が結んだものもちゃんとある。

 流石に幾久もようやく気付いた。
 五人組でやけにかっこよくて、ボーカルの髪が鮮やかな紺から水色で、全身に刺青が入った、やたら美しい声のバンド。
 青い髪のナムが、舞台に出て、マイクの前に立つ。
 うなる地響きのような声の中、舞台の隅から幾久は驚いて言った。


「ひょっとしなくても、みんな、グラスエッジなんすか?!」
「気づくのおせー」
 そう言って最後に現れた福原が、幾久の頭をぽんと叩いた。
「見てろよいっくん。俺ら、めちゃめちゃかっけえぞ」
 そう言って福原も舞台へ飛び出した。

 福原がギターを抱え、目くばせする。
 来原がスティックを軽くまわし、リズムを取り始める。オン、と呼ばれた男性がベースをはじき、青木がキーボードの上に手を置く。

 ミサンガの結ばれた腕をナムこと、グラスエッジのボーカル、集(あつむ)が掲げ、叫んだ。

「お前らいくぞぉおおお!」

 どしん、という来原の力強いドラムの音とともに、そのフェス一番の歓声が海峡に響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...