【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

文字の大きさ
55 / 416
【3.5】益者三友~どちゃくそ煩いOB達

Time of Our Lives

しおりを挟む
 日が暮れて、暗くなった御門寮はこうこうと明かりがついていた。
 にぎやかにOBや先輩が出入りし、あっちこっちで食事をとっている。そんな中、居間の片隅でうめき声をあげている大人が二人いた。
「や、本当にかっこよかったすよ、ステージの上では」
「だってぇ、いっくん見てると思ったら張り切っちゃってさあ」
 青木はあだだだだ、そこそこ、と言いながら背中を丸出しに、幾久に湿布を何枚も貼られている。
「青木君、トんでたもんね」
 俺も煽られたわー、と福原が唸っている。こっちも大量に背中に湿布だ。
 元気なのは、ボーカルの集と来原だけで、もりもりと肉や魚を食べ続けていて、凄いな、と幾久は感心する。
「から揚げ戦争おこしてた人らが、あんなかっこいいバンドできるんすね」
 ステージはびっくりするくらいにかっこよかった。
 体中に音の振動があんなにも響くなんて幾久は知らなかったし、流れる音楽は胸を打った。
 特にナムこと、集の歌声はすばらしく美しく、そのくせめちゃくちゃ響く声だった。
「それにあのかっこいいお兄さん、がっくんのお兄さんだったんだって聞いてびっくりしましたよ」
 ライブ後、楽屋に待っていたのはなんと、昨日会った中岡と坂本だった。
 おまけに高杉と久坂も居たのだから、幾久の驚きは半端なかった。
 そこでやっと幾久は、オンという名前と、誰かに似ていると思ったら中岡だったことに気づいた。
「なによーちょっとは喜びなさいよ、おれらだって有名人よ、有名人」
 福原が床を叩きながら言うが、幾久は答えた。

「一部界隈ですよね」
「ヒドイ!後輩ヒドイ!」
「ファンの人に言ってくださいっす。おれそこまでバンドに興味ないっすし」

 最初に青木や福原を知ってしまったので、いまさらグラスエッジです!有名人です!と言われてもキャーなんて言えない。

「そもそもなんで黙ってたんすか。オレ、バカみたいじゃないっすか」
 この人たちがグラスエッジだと知っていれば、もうちょっといろいろ考えたのに、ただのお洒落なお兄さんとお笑い芸人と、練習生2人組だと思い込んでいたのでちっともおかしいと思わなかった。
「やー、俺らってたいした知名度ねーなって落ち込んだわー」
「だよねー後輩なのに全く知らないとか。チャートにぎわせてるの幻想だったんだな」
 福原と青木が「ねー」と言うが、幾久だって言い分はある。
「だから、オレバンドとか詳しくないっすし、んな興味もないっすし」
 そんな幾久でも、グラスエッジのバンド名だけは知ってたのだから、いいじゃないか、と思うが二人はいじけ続けている。
「歌はかっこよかったっすよ。ダウンロードしましたもん」
 全部を買えるほどお金持ちではなかったので、気に入った曲だけ早速買ってみた。スマホにいれた曲を流すと、やっぱりかっこいいのだが、この人たちと同じという情報が、どうもかみ合わない。
 すると、食事をしていた集は自分の荷物を探ると、CDを幾久に渡した。
「えっ、くれるんすか?」
 幾久に集はこくんと頷く。
「ミサンガのお礼……」
「えぇー!あざっす!嬉しいっす!」
 やった!と喜んでCDを掲げていると、福原と青木が心底驚いた眼で集を見た。
「アツが喋った!!!!」
「アツが自分から喋ってる……」
「しかもCDまであげちゃうとか、すごいなあ」
 来原も感心している。
「これってやっぱり、後輩ちゃん効果なのかしらね」
 うふふ、と玉木が笑っている。
「あーもういっくんズルい!次はもっと俺と遊んで!ボール持ってくるから!」
 福原が言うので幾久は答える。
「いやっす」
「あー即答!なにこのクール後輩は!」
 起き上がった青木は幾久をずーっと撫でている。
 もう抵抗をあきらめた幾久は素直に疑問を口にした。
「なんで青木先輩って、オレをやたら撫でるんすか?」
 青木は言う。
「大大大、大尊敬してる先輩になんか似てるから。可愛くてしょうがない」
 似てる、と言うのなら幾久が知っているのは一人しかいない。
「杉松さんっすか?」
「知ってるの?」
 青木は驚く。
「いえ、みんなから似てるって言われるんすけど、オレ知らないんで」
「似てる」
 青木が微笑んで断言した。
「青木君が認めるなら間違いねーって」
 福原もそういうが、幾久は首を傾げる。
「よくわかんないっすね」
「まあまあ、いいじゃん。杉松先輩はホント良い先輩だったんだから、おこぼれ貰っても怒らないよ」
「みーんな、いい人って言いますね」
 幾久が言うと、青木も福原も頷いた。
「いーい人だよ」
「んだ!この冷徹青木ロボに涙流させるほどの、あったかぁいお人柄だったんだから!」
 なるほど、性格にかなり難がありそうな青木ですら、杉松さんには敵わないのか。福原は青木に頬を引っ張られているが。と、玄関から声がした。
「ただいまー」
「いま帰ったぞ」
「久坂先輩とハル先輩だ」
 買い物を済ませてくると、幾久とは別口で出た久坂と高杉、そして毛利と宇佐美が帰ってきた。
 幾久は玄関に飛び出していった。
「おかえりなさい!」
「なんかにぎやかそうじゃの」
 靴を脱ぎながら高杉が言う。
「にぎやかっす。オレそろそろ撤退したいっす」
「はは、懲りてるみたいだね、いっくん」
 久坂も笑って言う。
「バトンタッチしてください先輩ら」
「断る」
「お断りだな」
 2人に同時にそう言われ、やっぱりこの人たち、OBがああいう人って判ってて逃げたな、と幾久は確信した。
「瑞祥―、ハルちん、シュークリーム大量に買ってあるよ!」
 福原の声に、途端、高杉と久坂の目がかがやいた。
 杉松の後輩だから、二人の弱点も把握しているのだろう。
「おいよしひろ、コーヒー入れろ」
 高杉が言うと、腹筋中だったよしひろが起き上がった。
「おっ、ご注文か!よーし、マスターのスペシャルなコーヒーを」
「御託はいいからさっさと入れろ」
「もーなんだよ、ほんっとわがままなんだからコハルちゃんてば……」
 嫌いなあだ名を言われ、よしひろとすれ違いざまに高杉が蹴りを入れるが、よしひろはさっとそれをはじいた。ふふんと自慢げなよしひろの足を、高杉が踏みつける。
「ってぇ!」
「早くしろよ」
 そう言ってすれ違い、居間に腰を下ろした。
 福原がTシャツを広げながら幾久に言った。
「ねえねえいっくん、なんと今回のフェス限定のグラスエッジグッズ、あげちゃう!」
「いらないっす」
「もー!なんなのこの子!今日の限定品よ?!」
「いや、別にいっす。なんかいろいろつけられたし」
 バイト中にラバーバンドやリストバンドをたくさん貰ったので、これ以上は別にいらなかった。
 福原は高杉に迫った。
「ハルちゃん黒好きだったよね?黒いTシャツよ?あげる!」
「置いちょったら、寝間着がわりに使うかもしれん」
「もおお、聞いた?聞いた?青木君、この有様よ?」
 騒がしい福原を手でおしやりながら久坂が高杉の隣に腰を下ろし、福原に言った。
「そんなのよりシュークリーム頂戴」
「冷蔵庫にあるって」
 福原が言うと、久坂が言った。
「持ってきて」
 久坂は自分からは絶対に動かないし誰も手伝わない。福原もそれを知っているようで、ぷりぷり怒りながら立ち上がった。冷蔵庫に向かうのだろう。
「ほんっと御門の子ってやあね!」
「お前も御門の子だろアホか」
 毛利があきれ顔で突っ込む。
「明日は?ねえねえいっくん、予定なかったら明日なにして遊ぶ?」
 青木がうきうきと尋ねてくる。
「えっ、先輩ら、まだ居るつもりなんすか?」
 もう帰ればいいのに、と言う幾久に青木も福原も、ひっどーいと大合唱だ。
 しかも途中から輪唱を始めてうるさいったらない。
 更に二人同時にピアニカを持ってきて吹出して、幾久はたまらず耳をおさえた。
「あーもう、うるさい」
 うんざりとした顔で毛利が言う。
「俺らが寮ん時、毎日のよーにこいつらこれだったぞ」
「さいあくっす」
 幾久が嫌な表情で言うと集が楽しそうに笑い出した。
 それを見て、福原と青木がまた驚いた。
「集が笑ってる」
「アツが、めっちゃ笑うなんてレア……」
 ほあー、と二人が感心して幾久に言った。
「いっくん、凄いね。なんかアツのツボにはまるみたい」
 青木が言うが、幾久は集に対してはなにも気にならない。
「アツさんはいい人っす。静かだし、CDくれたしかっこいいし歌うまいし」
「俺だってグッズあげたじゃん!かっこいいじゃん!ギターうまいじゃん!」
「いらないっす」
「もー!」
 福原が言うと、集がお腹を抱えてしゃがみこんだ。
 相当受けているらしい。

「おーい、いっくん、悪いがコーヒーの支度、手伝ってくれー、こいつら役にたたねーって、ロープつってんだろーがぁああ!」

 よしひろのSOSに幾久は仕方ないな、と立ち上がる。
「アオ先輩、手伝ってください」
「仕方ないなあ」
 そう言いながら青木は立ち上がり、幾久の腰に手を回す。
「福原先輩、グッズ貰ってあげるんで手伝って」
「え?マジ?じゃあやる!」
 立ち上がった二人に毛利が「なんじゃアレ」と言うと、集はとうとうこらえきれず、腹を抱えて寝っころがる。
 玄関からまた声がした。
「こんばんは、って何回言っても誰も出てこないんだけど」
 のしっと入ってきたのは三吉だ。
「三吉先生、こんばんは」
「はい、こんばんは乃木君、となんだこれ」
 散らかった台所の惨状を見て三吉はあきれ顔だ。
「みんな騒がしくて仕方ないッス」
 うんざりする幾久にほおずりする青木を見て、三吉が言った。
「仕方ないよ。御門はこういうもんだから。まだみんな大人しくなったほうだよ」
「マジっすか」
「ねー、コーヒーのカップ、いつものやつでいーの?」
 福原が尋ねた。
「あ、それっす」
 幾久が言うと青木が言った。
「いっくんのマグカップどれ?僕それ使う」
「やめてください」
 だったらオレは何使えばいいんだよ、と幾久が言うと福原が「じゃーん!グラスエッジの公式マグカップ、いまはもう完売して非売品でーす!」
「趣味じゃないんで」
 首を横に振る幾久に、キッチンにやってきた集がお菓子を探していた。
「集さん、そっちにオレの買い置きのお菓子があるんで、よかったらどうぞ」
 幾久が言うと、集がこくんとうなづいて幾久のお菓子を選び始める。
「もーいっくんなんで?集には贔屓!ずるい!」
「先輩らみたいに騒がしくないからっすよ」
 うんざりとする幾久に、青木がまとわりつき福原が騒ぎ立てる。
「おっし!第一陣のコーヒーあがり!持ってって出来立て飲ませてやってくれ!」
 マスターのムキムキキメポーズを無視して、高杉が給仕を始めたので幾久も手伝い始める。


 トレイに温めたコーヒーカップをのせ、コーヒーを運ぶ。

 大人たちの笑い声、うんざりした現役寮生たちのため息、そんなものの中をコーヒーの香りが漂い、機嫌を最高潮にした集が歌いだし、美しい歌声が夜の御門寮にいつまでも響いたのだった。




 益者三友・終わり
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...