【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【4】夜の踊り子

尊重されると馬鹿は馬鹿になるしかない

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「時山先輩とガタ先輩のダンスがスゲー上手いっていうのは判ったんすけど、じゃああのオレンジの光って何だったんすか?」
「ああ、それはね」
 時山は再びタブレットの画面を動かし、ある動画を見せてくれた。今回は最初からコメントを消してくれたのでとても見やすい。
 さっきと同じく、時山と山縣の二人、正体が判らない格好で工事現場の人が持っているような大きな棒状のライトを持っている。
 画面の二人は暗い中で、音楽に合わせて光るライトをぐるんぐるんまわしたり、動かしたり、投げてみたりしている。
「これって、オタ芸ってやつ、っすか?」
 オタ芸、とはオタクがする芸のことで、アイドルや声優のコンサートで応援するときにするものだ。
 両手にカラフルなペンライトを持ち、激しく身体を動かしながらリズミカルに応援する。
 最初は簡単な動きだけだったろうそれが凝り性のオタクが段々と進化させていき、ついには芸のレベルにまで達してしまった。
「じゃあ、オレが見たオレンジの光って」
「これでーす」
 時山が出して見せたのは、ペンライトだった。スイッチを入れて切ると、確かに幾久が見たのと同じ色の光が出た。
「それっすか」
 なるほど、と幾久が納得すると、時山はちかちかとライトを光らせた。
「おいらたちさー、正体隠してやってっからさあ、練習する場所がねーんだよね。で、ここなら誰にも迷惑かけないから練習してたん」
 しかし、時山は御門寮ではないから他寮の生徒のはずだ。
「でも、こんな時間に他寮に来るのってヤバくないっすか」
「あー、おいらんとこはヘーキヘーキ。ばれないから」
「ばれないって。無許可なんすか?」
 まさか、と幾久は驚くが時山は頷く。
「ばれなきゃ大丈夫だって。実際いままでバレたことないんだし」
 寮生活なのにそんなことありえるのか?と首をかしげる幾久に吉田が言う。
「直ちゃんの寮もちょっとアレなんだよね。高校の寮とは違うからさ」
「へ?」
「まあ、それはいま関係ないし。つまり、無許可だからばれたらまずいわけ」
 時山の言葉に幾久は頷く。
「つまりさ、ここでおいらがきょーちんと練習とかしちゃいけないじゃん?」
「まあ、そう、っすよね」
 寮が違うものは当然、他人の寮に行くことは基本許されない。寮の責任者である、いわゆる寮長が許可するとか学校の許可証が必要になる。
「だったら、内緒にするしかないっていうね」
「……あ!」
 それでか、と幾久は納得した。つまり、時山が内緒にしたいなら万一寮の生徒が気づいても気づかないフリをする必要があるということだ。
「雪ちゃん先輩も、知ってたからごまかしたんすね」
「そういうこと。ちなみにハルもこの寮の責任者だから、ああやって逃げたってわけ」
 成る程、と幾久は頷く。いつもの高杉なら絶対に何があったかをずっと見ているはずなのに、知らんぷりしてさっさと眠るのは珍しいと思った。
「でも、本音は面倒だからだよ」
 ああ、とそれも幾久は納得する。
 山縣と違うジャンルだが、独特のペースがある時山は確かに面倒くさい。しかも年上だ。
「まあ、そうっすね。わかるッス」
「なんかひどいこと言われている気がする」
 時山がむくれるが、それでも顔はずっと笑顔のままだ。
「でもなんで、オレに隠してたんすか?教えてくれたらスルーしたのに」
 幽霊だ、ヒトダマだ、気のせいだなんて言わずに最初から教えてくれれば、幾久だって黙っているくらいするのに。
「え、だってガタが言わないなら言うわけにいかないし。ガタは確かにアレでアレだけど、ガタが言わないなら、おれらがいう訳にいかないでしょ。そこらへんは本人が判断してくれないと」
 当然だろ、という風に吉田がいい、そして幾久は少し驚いて、感心した。
「あー……うん、そうっすね」
 思わずにっこりと笑ってしまったのは、時山につられたからじゃない。山縣の意思を尊重しているのが判ってうれしかったからだ。
「なにニヤニヤしてんの、いっくん」
「いや。なんかガタ先輩バカにされてるのかと思ってたから」
「や、バカにはしてるし嫌いだよ?そこは間違いなく嫌いだから!」
「栄人、ひっでえ」
 げらげらと時山が笑うが、吉田はそこは譲るつもりはないらしい。山縣はいつも通り、全く気にしている様子はない。
「まあ、いっくんにばれたことだし、ちゃんと口止めしといてね。おれも眠ぃから寝る」
「俺も」
 吉田に続いてなぜか山縣もそう言って立ち上がり、二人ともそれぞれの自室へ戻ってしまった。
 そして気まずいことに、幾久と時山の二人が居間に残されてしまった。
(なんでオレだけ残すんすか……)
 まさか幾久がどうするんですかなんて時山にも聞けないし、どうしようかと悩んでいたが、時山は勝手知ったるなんとかで、居間のテーブルをさっさと端に寄せると布団を持ってきてそこに敷いた。
「なに、やってんすか?」
「ん?寝るの」
 寝るの。じゃねーって!
 ツッコミたいのを堪えて幾久は時山に尋ねた。
「寮に戻らないとマズイんじゃないんすか?」
「んー、マズイなー」
 そう言いながら、なぜか布団をもうひとつ敷いている。
「……なにやってるんすか」
「いっくんも一緒に寝ようよ」
「は?」
「だってせっかくじゃん」
 なにがどう折角なのか。意味が判らないが、一応三年生らしい時山に逆らうのも気が引けて、幾久は素直にそこで眠ることにした。

 隣同士に布団を敷いて、幾久は天井を見つめていた。もう真夜中もとうに過ぎているのに、妙に目がさえてしまっている。時山も同じなのか、幾久に声をかけてきた。
「なんかさー、今日ゴメンねー」
「や、もういいっすよ」
 時山にも山縣にも謝罪は受けたし、光の原因もわかったのでそれはもう済んだことだ。
「でもなんで、ガタ先輩教えてくんなかったんすかね」
「や、単純に忘れてたのと、あとは他の連中が教えるって思ってたんじゃないかな」
「……そうっすか」
「んな訳ないじゃんねー」
「ねーって言われても、わかんないっすよ」
「そう?だってさ、さっきいっくんだって笑ってたのはだからっしょ?」
 あんまりにもふんわりした言い方で、なにがどうなのか理解できない。
「えーと、意味がよく」
「だからさ、あいつらが、きょーちんの内緒にしていることをわざわざ言ったりしないってことだよ」
 あいつら、ああいうところがいいんだよな、とまるで独り言のように時山は言った。
「なんていうか、あいつらのああいうとこ、おいらすげー好き。馴れ合いと信頼ってちげえんだ、すげえなって思う」
 幾久は時山の言葉にどきっとした。
「当たり前のように相手を尊重するって、できねえよなかなか。嫌いなやつにもそうするって、大人じゃなきゃできねえもん。大人でもできねえかも」
「当たり前のように相手を尊重?」
 幾久が繰り返し言うと、そう、と時山が頷き言う。
「だってさ、フツーは、とかこれが正しいとか、そう思うじゃん。でもあいつらの正しさってさ、絶対に自分本位じゃねえんだよな。どんなクソみてーなことでも馬鹿なことでも、そいつがそうなら、それを尊重するのが当たり前って思ってんだよ。すげえよ」

 ―――――だからさ、と時山は静かに言った。

「気をつけろよいっくん。いっくんが間違ってても、あいつらわざわざ教えてなんかくんねーぞ」
「え?」

「尊重されるってさ、頭いーやつ同士にしか無理なんだよ。馬鹿が尊重されたら、馬鹿は助長するだけだもんな」
「……」
 なにか難しいことを時山が言っている事は、幾久にも判る。さっきまであんなにもふざけてばかりいたのに、なぜか声のトーンまで落ちている。
「馬鹿にはさ、普通に正しいヤツが丁度いいんだよなぁ……」
 そう言うと、すう、と突然寝息を立て始めた。
「寝落ちかよ」
 ぼそっと言うと、幾久も急に眠気が襲ってきて、そのままあっという間に眠ってしまっていた。
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