【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

文字の大きさ
85 / 416
【6】夏虫疑氷~モテ男は女子から逃げる

全部はうまくいかない

しおりを挟む
  やっと前期の期末考査の結果が出る日になった。
 テスト自体は授業の時に戻ってきてはいたが、それでも全体としての結果がでるのは今日の放課後だ。
 以前は興味もなかった幾久だが、今回は話が全く違っている。
 なんといってもまず、中期のクラスがどこになるのかが発表されるのだ。
幾久は恭王寮の鷹と喧嘩になった際、「お前を落とす」と格好いいことを宣言した手前、鷹でないと格好がつかない。

「行こうぜ、幾久!」
 伊藤も弥太郎も、その結果が知りたくて仕方がないらしい。
帰り支度に手間取っている幾久を急かし、幾久のメッセンジャーバッグのショルダーを引っ張っている。
「そんな引っ張んなくったって、行くって!」
 前回とは違い、今回は幾久も伊藤たちと同じく、結果が知りたくて仕方がない。
自分は絶対に大丈夫、と思いつつもやっぱり気になってしまう。
 他のクラスの面々もそうらしく、そわそわと荷物をバッグにつっこんで、あわてて向かう人もいる。
 伊藤と弥太郎、幾久の三人は張り出しの出ている職員室前に小走りで向かって行った。
 職員室前は生徒がぎっしりと詰まっていて、廊下を通るのも難しいほどだ。
「どうしよう。これ、見れるかな」
 幾久が心配げに言うが、伊藤が「任せとけよ」とどんっと胸を叩く。
 そうして「ごめんなー、通してくれなー」といいながら、隙間をぐいぐい進んでいく。
 ぶつかった相手が文句を言おうにも、体形が大きく、それなりに知名度がある伊藤が言うので仕方なく避けている。

「えーと、鳩、鳩、一年鳩、と……」
「あった!」
「あった!」
 弥太郎と幾久が同時に声を上げた。
「すごい!いっくん鳩、一番!ぶっちぎりじゃん!」
「……本当だ」
 少しぽかーんとしてしまうのは、二位を突き放してのトップだったからだ。
 名前と点数、そして鳩での順位、そしてその隣にある文字は、「鷹」。
「来期鷹決定じゃん!」
「やった幾久!有限実行!」
 ばんざーい、ばんざーい、と伊藤と弥太郎が両手を挙げて大喜びするのはまるで入試の時の家族みたいだ。
「それよりアイツはどうなんだよ、アイツは!」
 伊藤が鼻息も荒く、幾久に喧嘩を売った鷹の名前を探し出す。
「見つけた!やっべ、鳩に落ちてるぜマジで!」
「本当だ」
「すっげえ、いっくんすげえ!本当に鷹を落としてんじゃん!しかも点数見てよ!いっくんの!」
 そう弥太郎が言ったので、よくよく点数を見てみると、幾久の点数は鷹でもかなり上の方で、鷹の四番目と五番目の間だった。
 単純な計算だけなら、幾久の成績は鷹の中で五番目ということになる。
「あと五人抜いたら鳳だったんかよ……」
「いっくん凄いな。有限実行どころじゃないじゃん」
 先輩達のおかげだ、と幾久は心がじーんとした。
「それよりトシとヤッタはどうなんだよ」
「あー、見た見た、もう一瞬」
「なー、俺ら見事にそのまんま」
 ということは、二人とも鳩クラスのままということになる。
「そっか……」
 それだけが幾久は残念だ。折角毎日楽しかったのに。
「それもだけどさ、いっくん、鳳クラス」
「!そうだ」
 鳳クラスには児玉がいる。
成績がいまいちだと悩んでいたけれど、今回はどうなっているのだろうか。
 慌てて鳳クラスの張り出しを見つめると、児玉の名前はすぐに見つかった。
 鳳最下位。
 しかも。
「―――――鷹」
 児玉の来期のクラスは、鳳から鷹クラス、つまりは『鷹落ち』というやつだ。
「タマ、落ちちゃったね」
 残念そうに弥太郎が言う。児玉が鳳を目標にしていたのは知っているからだろう。
まるで自分が落ちたかのようにがっかりした声だ。
「寮は」
 期末の終わりは試験結果だけでなく、寮もどこに配属されるかが決まってしまう。
 幾久は相変わらず『御門寮』だが、児玉はどうなのだろうか。
 弥太郎が首を横に振る。
「残念ながら、恭王寮のまんまだよ。あいつらも」
 あいつら、とは恭王寮で児玉に喧嘩を売っている、鳩と元鷹の二人だ。
 せめて児玉か、そいつらだけでも寮くらい違ったらよかったのに。
「ま、クラス落ちてるわけだから、少しは静かになると思うけどね」
「そういやもう一人は?」
 幾久に喧嘩を売ってきた鷹が、次から鳩なのは知っている。
だけど幾久たちと同じ鳩クラスの奴はどうなっているのだろうか。
「ああ、あいつ鳩のまんま。残念ながら」
「そっか。今までどおりか」
 だけど、喧嘩を売ってきた鷹にはまあ、言うだけのことはし返したことになるのか。
「でもさ、来期はいっくんもタマも同じ鷹なわけじゃん?だったらちょっとは良かったね」
「そうかな」
 幾久が呟いたのも無理はない。
まだ自分はこの報国院に残るかどうか決めていないし、進路の事も悩んでいる最中だ。
 来期のクラスは気になっていたし、実際上に上がれたからそれでいいけれど、でも本当は自分はどうしたいのだろう。
「それよりハル先輩の、見にいこうぜ!」
 伊藤がそっちが本命とばかりに興奮する。
「そうだね」
 幾久の勉強をしっかり見てくれていたのはいいけれど、そのせいでもし順位が落ちていたら目も当てられない。ちょっとだけどきどきしながら幾久は二年鳳の張り出しを見たのだが。
「―――――すげえ」
「化け物かよ」
「いやー、やっぱハル先輩はすげえな!」
 伊藤は満足げだが、久坂と高杉の点数と結果を見て感想がいつもと同じく『やっぱりすげえ』で終わりなのかと少し笑う。
 いつものとおりと言えばそうだが、今回の成績は、久坂と高杉の並びではあったが、どちらも一位だ。
 そして吉田が五位。
大健闘だ。
「先輩らすげえ」
 幾久はそこでやっと、自分の立場と、どうして皆が『御門寮』にこだわるのかが判った。
 本来はきっと、こんな風に鳳クラスの中でないと、御門寮の文字は見れないのだろう。
「お前らも見にきたのか」
 その声に思わず振り向いた。そこには児玉が立っていた。
「タマ、」
「幾久、おめでとう。やったな」
 そう言って手を差し伸べてくるので、つい反射的に手を伸ばした。
 ぎゅっと強く握られた。
「俺やっぱ落ちたな。仕方ねえけど、実力だよ」
 声も態度もいつも通りなのに、児玉がひどく傷ついているのが幾久には判った。
 確かに判っていたのかもしれないけど、それでも鳳から落ちるのは寂しいだろう。
「気を使うなよ。ちゃんと―――――戻るつもりだからな」
 そう児玉が言う。
「判った」
 幾久も、頷く。
「助かる」
 児玉が幾久に言った。二人は思わず頬を緩め、とんっと互いの肘を肘にあてた。
「じゃ、帰るか?このまま帰れるだろ?」
「うん。オレは帰るつもり」
 そう幾久が言うと、弥太郎と伊藤が首を横に振った。
「俺は部活」
「俺も」
 二人とも、部活動には熱心に参加している。今日もいつも通り、これから部室へ向かうのだろう。
「そっか。じゃな」
「おー、じゃな、幾久、タマ」
「じゃねタマ」
「じゃーねー」
 のんびりと幾久が返事をする。職員室の前で二人ずつに分かれて、幾久と児玉は下駄箱へと向かった。


 二人で校舎の外に出て、暑い中を歩き始めた。
 相変わらず蝉はやかましい。
これが夏中続くのだ。
「タマ、ソフトクリーム食いに行こうよ。暑いし」
「お、いいな」
 いい結果も悪い結果も出てしまえばそれで終わりだ。
 次にどうするかを考えないと、無駄な時間が増えるばかりだ。
「しっかし、判ってたこととはいえがっかりだよなぁ。やっぱ雪ちゃん先輩、正しいわー」
「そっか。雪ちゃん先輩、なんて?」
「なんか、俺の勉強の仕方って、詰め込み式の記憶するばっかりなんだってさ」
「へぇ」
「鳳にずっと居るなら、自分なりの考え方っていうのを身につけておかないとまずいってそういうの言われてさ」
 がらりと和菓子屋の戸を開ける。
 暑いからだろう、中は近所のご老人と報国院の生徒が沢山居る。
「すみませーん、ソフトふたつ!」
「ああ、ごめんね、ちょっと待っててねぇ」
 おばちゃんの忙しそうに、はーいと返事をして、一旦外に出る。
 人数が多いからだ。
「自分なりの考え方って、なんなんだろうな」
 ぽつりと児玉がそう呟いた。
「俺、今までずっとがむしゃらに努力するのが努力って思ってやってきたからさ、正直、なんで鳳はそれだけじゃ駄目なんだろって思う」
 児玉を見れば幾久はそれがよく判る。
 確かにちょっと人当たりは雑だけど、まっすぐで、曲がったことが嫌いで、正直な児玉の努力と言うのはその性格のままなのだろうというのは判る。
「なんかそれと似たような事は、うちの先輩達も言ってた気がする」
「マジでか」
「うん。なんか勉強に自分を合わせるんじゃなく、自分の考え方に勉強を当てはめていくっていうのかな。ほらあのさ、ガタ先輩いんじゃん」
「おお」
「あの人、変だけどちょっと凄いんだ」
 そこでソフトクリームが出来上がったので、二人はそれを受け取り、歩きながら食べることにした。
「ガタ先輩ってあの三年のオタクのだろ。雪ちゃん先輩もなんか一目おいてるっぽい」
「え、マジで?」
 雪充は幾久も認めるほどの、すごくいい先輩だ。
 それなのにあの自分勝手で我侭でマイペースでオタクな山縣のどこに一目おいているのだろうか。
「引いてるの間違いじゃないかな」
 幾久が後輩らしからぬ事を言うが、児玉はそうでもないっぽいと返す。
「なんか自分の判らないジャンルの事を知ってるかららしいよ」
「多分それ、雪ちゃん先輩知らなくていいジャンルじゃないかな」
 オタクでいろんなことをよく知っているが、それは果たして必要なものかどうかといわれれば、そんなに必要ない気もする。
「でも、なんか判る。ガタ先輩、マイペースだし自分勝手だし、我侭だけど押し付けはしないから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...