【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

文字の大きさ
203 / 416
【14】星羅雲布~わたしの星の王子様

グッド・バイ

しおりを挟む
「女装カフェだってあんたらのせいで駄目になったんでしょ?」
「正しくはFカップカフェな」
 報国院は男子校で、勿論女装は目玉の出し物だったのに、毛利たちのやったことが悪ふざけが過ぎると中止された。
 あの頃の学院長は嫌な男で、ずいぶんと毛利の時代は締め付けがあったものだが、今は違う。
「吉川君はいい学院長だもん。おかげで仕事しやすい」
 自由は倍増、給料も跳ね上がり、先生たちの自由度も一気に上がり生徒も増えたし校舎もぴかぴかだ。
「ライブは確かにぶっとんでたね」
 菫は毎年のことながら笑って言う。
 ああいうのこそ、報国院らしさだ。
 学院長のファンは校外にも存在して、タオル持参で盛り上がる人も多い。
 楽しむ際は全力でバカをやる、報国院生はそういうものだ。
「学院長がここ出身じゃ、ああなるもんよ」
「あんたもここ出身でしょ?」
「おかげでやりたい放題ウェーイ」
 ぐっと両手の親指をサムズアップで上げて言う。
「いっくんを大事にしなさいよ」
 菫の言葉に毛利は言った。
「してるしてる。ちゃんと様子見てるけどマジ心配ない。ちゃんと強い良い子だって。な?六花」
 毛利に言われ六花が言った。
「いやお前の仕事は知らんけど」
「知って?一応知っといて?俺先生だから!」
 相変わらずバカ姉弟みたいなやりとりで、このあたりはまんま、高校生の頃と変わらない。
「六花先輩」
「ん?」
「……ありがとうございました」
 自分ではなにをしたいのか、どうすればいいのか判らなかった。
 ただ、皆が似ているという幾久を、見ておかなければと思っただけだ。
「違ったろ?」
 六花が言うので、
「ええ。全然」
 最初は、似ていると思った。
 まるであの人が一瞬、帰ってきたのではないかと。
 だけど違う。
 それは近くで過ごしていたから判る。
 この子は私のあの人じゃない。
 こんなに似ているところがあっても。
 だからそれが判った途端、悲しくてたまらなくなった。
 違うものでしかない事が。
 あの人はもう本当にいないのだ。
「けど、可愛いかったろ?」
「はい」
 素直に杉松への感謝を語り、杉松の真似をする雪充にあこがれていると語る。
 杉松は消えてなんかいない。
 こうして少しずつ、誰かの中で生きている。
「杉松はもう居ない。でもちゃんと、なにがしかは残ってるんだよね」
「……はい」
「それで十分幸せなんだよ、私は」
 六花はそう言って笑う。
 杉松が愛したものが、関わったのもが、壊されたものが、少しずつ形を作っていく。
 再構築とはまたちがう、新しいものに。
 菫は思う。
 だからこの人は生きていけるのだ。
 杉松が最も愛したものは、自分自身だと知っているから。
 菫は六花に言った。
「いっくん、いい男になって欲しいですね」
「まあ、お手本が寮にあるから大丈夫でしょ」
 三年の雪充にあこがれ、直接の手本は久坂に高杉、吉田の三人、友人は杉松にあこがれる児玉とくれば、学ばないほうがどうかしている。
「あー、いっくんにもう会いたい!むしろ飼いたい!」
 そう言う菫に毛利が言った。
「俺を飼ってくれ」
「しつけのならん男は飼わん。いっくんは紳士だった。抱きしめても大人しくしていて可愛いのなんの」
 菫が言うと六花が笑った。
「ハハハ、そりゃそうだろ。あの面食い」
「やっぱそうですか?」
「そりゃそうだよ、見てたら判る」
 六花の目から見た幾久は、どういう意味でも面食いだ。
 顔のつくりがいいのはもちろん好きだし、雰囲気でも引っ張られる。
「じゃあ雪充にあこがれてるっていのも」
「ほぼ顔じゃないか?得したね、菫。あの子のああいうところ、あたし好きだね」
 幾久は割と美しいものに弱い。
 だからこの美しい町を選んだのかもしれない。

「あの子、受験が遅かったんだって。春に受けたのは正解だったかもね」

 冬のこの町は、古いから余計に寂しさが増す。
 町中に緑が多いせいもあって、冬になって緑が落ちると、急に世界が開けるからだ。
 その意味に気づかない子供の頃は、冬は寂しくなるものだと思っていた。
 春は桜、夏は緑、秋は椛。冬は、ただ寂しいだけだ。
 その寒々しい町も、勿論好きではあるけれど。

 芽吹く町に導かれるように訪れた。
 映る世界が灰色か、芽吹く前の木の色か。
 それは随分と違うだろう。
 例え意識していなくても。

「あ、ホラ来たよかわいこちゃんが」
 六花が言う。
 顔を上げると、幾久が走ってくるところだった。
 まるであの頃の杉松のような、その割にまだ子供っぽくて杉松より随分と幼く見えるのは、自分が大人になったからだろうか。
 両手に三つも大きくて立派なりんご飴を持っている。
「六花さん、菫さん、友達がりんご飴奢ってくれたんす。食べませんか?」
 そういって幾久は差し出すと、六花も菫も頷き受け取った。
「俺にはねーのか」
「男にはねーっす。これ賄賂で貰ったんで」
 幾久の賄賂という言葉に菫はぴんときて、幾久に頷いた。
「雪充には黙ってろってことね?判った判った」
「おいなんだ賄賂って」
 毛利が聞くと菫が答えた。
「受け取ったんだから言う訳ないでしょ」
「私もいいんだ?」
 六花が楽しそうに尋ねると幾久は頷く。
「ウス。六花さんにも口止めしとかないと、後からなにがあるか判りませんから」
「なるほど、リスク管理の為ね。いっくん賢い」
 六花は楽しそうにゲラゲラ笑った。
 と、幾久の肩を誰か叩く。
「ん?」
「その話、詳しく聞かせてくれるかな?」
 振り返るとそこには、微笑んだ雪充が立っていた。
 菫と六花はりんご飴を持ったまま、「あーあ」という顔をしていた。

 いきなり背後に立っていた雪充に幾久は慌てた。
 なぜいきなり雪充が居るのだ。しかも話を聞かれたかもしれない。
「雪ちゃん先輩……」
 にこにこ微笑んでいる雪充に、幾久は言った。
「オレは無罪です!」
 と、菫が言う。
「そーよ雪、いっくんはむしろ被害者よあたしの」
「それならいいけど、それ以外は?その賄賂の理由は?誰が?何の理由で?なぜ預けた?」
 ぐいぐい質問する雪充に幾久は若干引くが、毛利があきれ顔で言った。
「取調べかよ」
「いっくんは関係ないなら叱らないよ?」
 ってことは、関係ある人は叱るつもりなんだ。
 これは困ったなあと幾久は考えた。
 なぜなら賄賂はすでに受け取り済だし、自分の分もしっかり貰ってしまったのだ。
 賄賂を幾久に渡した時点で一年生はみんな、さっきのことは大丈夫だと思っているし、幾久もそのつもりだった。
 六花にも菫にもOKを貰ったのに、肝心の雪充に見つかってしまうとは。
 しかし、友達を売るわけにもいかない。
「いっくん?」
 にこにこ笑って尋ねる雪充に、幾久は言った。
「やっぱオレ、言えないんで、これでなんとかなりませんか?」
 雪充に差し出されたりんご飴に、菫と六花はこらえきれず噴き出し、雪充は心底困った顔になっていた。



 結局雪充はりんご飴を受け取った。
 二人で先生や六花たちに頭を下げ、なんとなく屋台を回っている。
「姉さんもああいってるし、不問にするのは今回だけだよ」
「ウス」
 雪充、それ以上いっくん責めるな、そして聞くな。
 お姉さんがそう言うと、雪充は仕方なく「はい」と頷いた。
 シスコンと聞いていたが、お姉さんに頭が上がらない所をみると、そうなのかな、と楽しくなる。
「お姉さん、スゲー美人っすね」
「自慢の姉なんだ」
 そう言って笑う雪充は、機嫌がいい。
 幾久は何気なく言った。
「雪ちゃん先輩、楽しそうっス」
「そう?」
「はいっす」
 やっぱりお姉さんが居て嬉しいのかな。
 そう考えていると雪充はインカムになにか話しかけると、しばらくして幾久に言った。
「いっくん、ちょっと散歩に付き合ってくれるかな」
「?はい」
 耳にかけているインカムを取り外し、ポケットに入れた。
「いいんすか?」
 雪充は桜柳会の実行委員で忙しいはずなのに。
 すると、幾久に、まるで子供みたいな笑顔で言った。
「無理矢理サボらせてもらった。本当はダメなんだけど」
 そういって雪充は、さっき菫と通った、稲荷の傍の道を進んで行く。
「ぐるっと一周しようよ。姉と同じコースで悪いけど」
「うす」
 きっと気分転換でもしたいのだろうな。
 そう思って幾久は雪充の隣に並んだ。


 大好きな雪充と過ごせる時間に幾久の足取りは軽くなる。
 美人のお姉さんと歩くのも楽しかったが、雪充の方がもっと嬉しい。
 うきうきと歩くとつい歩調が速くなってしまって、幾久はゆっくり歩き始めた。
 足取りが遅くなった幾久に、雪充は尋ねた。
「どうしたの、いっくん」
「あんまり早く歩くと、早く終わっちゃうじゃないっすか、散歩」
 折角雪充に散歩に誘われたのだから、ゆっくり、じっくり、時間をかけて歩きたい。
 と、雪充は吹き出した。
「だったら、途中で休むよ。時間貰ったし。御堀がOKくれたんだから大丈夫だよ」
「誉が?」
 幾久が驚くと雪充が言った。
「そう。休みたいから頼むよって言ったら、『本当は迷惑ですけど、我慢します』って」
「誉……」
 ああ、そういうこと雪ちゃん先輩に言っちゃうんだ、と幾久は頭を抱えるが、雪充はむしろ笑っていた。
「あいつ、戻ってきてから随分と素直と言うか、無礼者になったよ。そのかわりイキイキしてるから仕事は捗るんだけど」
「そ、そう、なんすか」
「こっちとしては有能さとの対価だと思ってるから、仕方ないなと」
「なんか申し訳ないっス」
 御堀がそういう悪い意味でも素直になったのは間違いなく幾久のせいだろう。
 なんだか責任を感じてしまう。
「いいって。二年、三年はむしろ面白がってるから。実際有能で助かってるし。いっくんが御堀に桜柳会に戻るよう進言してくれたんだろ?ありがとう」
「そんな。オレ、たいしたことしてないっす」
 面倒は全部御堀に押し付けるような真似をして、幾久はできることしかやっていない。
「もっとオレが手助けできたらいいんすけど」
 幾久の言葉に雪充は笑った。
「十分やってるよ。舞台、大成功じゃないか。ものすごく盛り上がってるし、評判もいいよ」
「雪ちゃん先輩にそう言って貰えたら、ほっとします」
 少しでも忙しい、本当は地球部をやりたかった雪充の手助けをしたかったから、それができているのなら嬉しいと思える。
 二人は学校の裏路地の石畳を歩き、乃木神社の前へ出た。
 さっき歩いたのと同じ、しろくま保育園の前を通ると、雪充が言った。
「ちょっと座ろうか」
「うす」
 二人は保育園の入り口にある車止めに腰を下ろした。
「さっきはありがとういっくん。姉は我儘じゃなかった?」
「全然っす。面白いお姉さんっす。綺麗だし、六花さんに似てるし」
 だから初めてあった気もしないし、変な緊張もしなくて済んだ。
「そっか」
 雪充はそう頷いて、しばらく黙って、やがてぽつりと幾久に言った。
「姉はね、杉松さんを好きだったんだ」
「……そうなのかなって思いました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...