【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【18】治外法権~あこがれの先輩

悩む後輩(仮)楽しむ先輩(仮)

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「ちょっと待ってくださいよ!そんなの無理に決まってるだろ!」
 幾久と御堀に、藤原は怒鳴った。
「華之丞は確かにむかつくけど、あいつうまいんす!だからユースだし、俺だってついてくの必死だし!時山先輩だって元ユースだけど、昔からぶっちぎりで上手かったし、伝説の先輩だし……ッ!無理に決まって」
「そうだったんすか?トッキー先輩」
「そうなのじゃ!地元ではすげーんじゃぞ!」
「へー」
「へー」
 御堀と幾久はどうでもよさそうに答える。
 藤原は言った。
「無理ッス!そんな二人になんか、勝てるわけがない……」
「やってみねーとわかんねーだろ」
「そうそう、何事も挑戦だよ。やる前から負ける事ないし負けないし」
 強気な御堀と幾久に、華之丞がかみついた。
「いくら幾先輩が元ルセロのユースったって、ブランクあるだろ!」
 えっと藤原が驚いた。
「ルセロのユース?ルセロって、ルセロ東京の?!」
 幾久は頷いた。
「元ね、元」
 すると藤原は爆笑しながらふんぞり返った。
「うわははははは!見たかハナめぇ!これで俺の勝利は確定したも同じだ!!!ざまーみろ!」
 くるっと藤原は幾久を見上げて言った。
「先輩、やっちゃってください」
「言っとくけど、オレがユースだったのプライマリまでで、後は落ちたから」
 突然ずーんと藤原が落ち込む。
 素直すぎて逆に失礼なレベルだぞ、と幾久は思うが、素直なので腹は立たない。
 幾久はフォローして御堀のことを教えた。
「でもほら、こっちは去年までファイブクロスのユースで、ケートスにもスカウトされたくらいだし」
 すると藤原は元気になって怒鳴った。
「うわーははは!こっちは鳳でファイブクロスだぞ!」
「ブランク一年ある上に、最近までずっとサッカーやってなかったけど」
 御堀が言うと再び藤原が落ち込む。まるでコントのシーンだ。
「面白いね」
「メンタル見えすぎ。弱点ってひょっとしてそこじゃないか?」
 幾久の突っ込みに藤原は「そうなんす……」としおしおとなっている。
 幾久と御堀は楽しげに藤原のフォローに入りつつ、喋っているが驚いたのは華之丞のほうだ。
 幾久がルセロのユースとは知っていたが、一緒に居る御堀が、考えていたファイブクロスだったとは。
 よくよく記憶をたどれば、確かにファイブクロスと試合をしたとき、やたら鋭いFWが居て、ものすごく得点を決めていた。
(じゃあ、あれがあいつか)
 なぜ報国院に居るのか知らないが、その二人が藤原を手放しで褒めた。それが悔しい。
「華之丞チャン、ひとつ下から誰か引っ張っといで。試合するんでしょ?それともやめる?」
 ニヤニヤという時山に、華之丞はかちんときて言った。
「やめませんよ!やります!」
 誰がやめるか。絶対に勝ってやる。
 華之丞は、ひとつ年下の知り合いを探す。
 ユースなら大抵の顔は知っているし、一緒にやっているから親交もある。
「虎(とら)!お前、こっち来い!」
 華之丞が怒鳴ると、ユースのユニフォームを着た子が近づいてきた。
 時山に華之丞は説明した。
「こいつ、中2なんで年齢は丁度っす」
「判った。じゃあそれで試合しよーか」


 御堀や幾久が試合をするとなり、これまでの騒ぎを見ていた連中が面白そうだと仲間を呼び始める。
 だれかが集まれば気になるのはやはり人のサガというもので、ギャラリーはだんだん増えていく。
 時山のチームががオレンジのビブスを羽織り、幾久達はグリーンのビブスを渡されたのだが。
「かっこ悪いからいらないです」
 にこにことロミオ様スマイルで断ったのは御堀である。
 審判をやってくれるケートスの選手は面白そうに御堀に言った。
「ビブスつけてないから、服引っ張られて負けたとか、言えないよ?」
「圧勝するんで必要ないです」
 御堀が言うと、楽しそうに肩をすくめた。
「君、FWだよね?」
「そうですけど」
「やっぱりー!FWってそうだよねえ」
 笑う審判を華之丞が睨む。
 いけね、と審判があわてて口を閉じる。
「前半7分、後半7分、ハーフタイムは3分な。点たくさん取ったほうが勝ち。同点の場合は延長戦。5分やって勝負つかなかったらPK戦。オッケー?」
 幾久も御堀も頷く。
「いっす」
「問題ないっす」
 コートを選び、互いの陣地へ向かう。
 幾久と御堀、藤原は円陣を組んだ。
「いーか藤原。つえーんだから自分を信じろ。いいボール回すから迷わず決めろ」
 幾久が言うと、藤原が頷く。
「う、うす」
「幾のパスは勢い怖いけど、足元にぴたっと止まるから、迷わず行くんだよ。ただ思いっきりやらないと叱られるけど―――――君ならいつも通りでいけるよ。さっきもあんなに必死だったし」
 幾久が言った。
「行くぞ誉、藤原。勝つのはオレらだ!」
「おう!」
「お、おう!」
 気合十分で円陣を離れ、それぞれの持ち場へ移動する。
 ボールを最初に蹴るのは御堀だ。
 中央に向かう前に藤原の肩を御堀が軽く叩いた。
「これまでろくなボール貰ったことないだろ?」
 藤原が素直に頷くと、御堀はウィンクして言った。

「だったらこの試合、忘れられなくなるよ。幾とのサッカーは、最高に気持ちいいから」

 そう言う御堀は、制服のベストの後姿が最高にかっこよくて、ひょっとして勝てるのでは。
 藤原はそう思ったのだった。

 華之丞のチームは高3の時山、中3の華之丞、そして中2の虎継(とらつぐ)こと、虎だ。
 虎継の性格もプレイも、華之丞はよく知っている。
 年のわりに上手できちんとしたプレイをする。
 だから迷わずに選んだ。多分問題なくできるだろう。
 時山は、地元の子供では知らない人がいないくらいのヒーローだった。
 ただ、サッカーは辞めてしまったと聞いていたが。
「なに?俺らも円陣組む?」
 円陣を組んでいる幾久達を見ていた華之丞に時山が言うも、華之丞はふんと鼻を鳴らした。
「いらねーっすよ。さっさとやって勝てばいいし」
「ま、そうだけどね。あのコンビは手ごわいぞぉ」
 時山が言うと華之丞は尋ねた。
「知ってるんスか?」
「ちょっと遊んだことがあるだけ。でもさすが元とはいえルセロだよ。なめちゃイカン」
 どうだか、と華之丞は思う。
 確かにとっさの技術は凄いのかもしれないし、凄かったとも思う。
 だけどこっちは、最近までずっとユースに参加していたし、毎日練習していた。
 御堀だって去年からやっていないなら、こっちが負けるはずがない。
(いくら短い時間だからって負けるか)
 尊敬してたのに。華之丞はがっかりする。
(幾先輩は、俺の味方だと思ったのに)
 サッカーのこともきちんと一緒に考えてくれて、今日は一緒に過ごせて楽しかったし、幾久が見たいというからユースに来て、いいところ見せたくて頑張ったのに。
(なんで俺が、叱られるんだよ)
 華之丞はいつものように、いつものサッカーをしただけだ。
 しかもちゃんと勝って見せた。
 それなのに叱られた。
(藤原なんか、褒めやがって)
 いつも必死で練習なのに本気でうざい。
 練習は練習だろ、と華之丞が嫌がると、何のための練習なんだよ、試合の為だろ、じゃあ試合と同じじゃないと意味がないと下手の癖に意識だけは高かった。
 そのくせ華之丞に勝ったことがないのに華之丞をライバル視してからんできた。
(まじ、うぜえ)
 だからいつも遊んでやったし、一直線な藤原は華之丞のフェイントにすぐ引っかかった。
 どうせ今回もそうだ。すぐに負けるに決まってる。
「俺が決める!」
 そう華之丞が怒鳴ると、虎継は頷いた。
 あいつならきっと、忠実にボールを運んでくれる。
 それに時山は高3。プロ入りしてもおかしくない年齢で、時山は上手い。
 だから華之丞は、自分たちが負けるなんて、これっぽっちも思っていなかった。


 ホイッスルが響く。
 御堀と時山がボールを奪い合った。


 試合が始まってすぐ、御堀は高いボールを幾久に上げると、幾久は空中でボールを止めて足元に落とし、ドリブルで抜ける。
 そのまま敵陣に突っ込むかと思ったが、すぐに向きを変え、自陣の御堀にボールを戻す。
 御堀がそれを受け取り、華之丞が奪おうと向かってくるのを再び幾久へボールを戻す。
 藤原と御堀が同時に敵陣である華之丞のゴールへ向かって走り出す。
「走れ!」
 華之丞が怒鳴ると、虎継が走り、追いかける。
 すると幾久が綺麗なパスを藤原へ繰り出し、藤原はそのまま迷い無く振りぬいた。
 ばしっと音がして、ボールは残念ながらキーパーに阻まれたが、幾久も御堀も拍手して藤原を励ました。
「いいぞ藤原!その調子でいけ!」
 幾久が言うと藤原は驚きながらも満面の笑顔で「はい!」と答える。
 その様子を見て華之丞は舌打ちし、フィールドの外を見た。
 いつの間にかギャラリーが増えている。
 ケートスのスタッフに混じって、選手もなぜか報国院の先生らしき人も覗きにきている。
 藤原が迷い無く決めたのを見て、華之丞の仲間はざわついていた。
「え?藤原、なんかいま決まるっぽかったよな?」
「いつもなら失敗するのに」
「ぐーせんだろ」
 そうざわついていて、華之丞は面白くなかった。

 華之丞のチームのキーパーがボールを投げるも、飛び出していた御堀がそれを奪った。
 幾久にパスを渡すと、時山がスライディングしてきて、幾久はさっとそれを避けた。
「っぶねえ!マジで削りに来てんじゃねえかよ!」
「ったりめーだろ、真剣勝負だぞー」
 時山が茶化すも、幾久は怒る。
 こっちはレガースもしてないのに!と幾久が文句を言うと、ホイッスルが鳴った。
「はーい、トッキーちゃん、それ禁止だから」
 審判が止めた。
「えー、駄目なのぉ?」
「わざとらしー。次やったら一発レッドな」
 そうして審判の人が言った。
「ひどいあたりと削りは禁止」
「はーい」
 幾久にしたら、そのほうがありがたい。
 サッカーと言うよりフットサルだ。
 審判の人が言った。
「時間短めだから大目に見たけど、あんまりひどいと着替えてからやらせっぞ」
「うぃー、反省反省、もうしませーん」
 とはいえ、時山の削りに藤原はやや引いている。
 幾久が藤原の肩を叩いた。
「気にするな。あの人、いっつもあーなんだよ。最初に威嚇してくんの。もうしてこねーよ」
「幾が避けるの知っててやるんだよ。心配ないって、君にはしてこないから」
 御堀が言うので藤原も頷く。
 じっと藤原が見つめてくるので、幾久と御堀は「何?」と尋ねた。
「なんか、お二人とやってると、すげー自分が上手くなった気がする」
 藤原は思った。
 いつもよりずっと動きやすいし、御堀の言ったとおり、幾久のボールは藤原の足元にぴたっと届いて、たてなおす時間が要らない。
「違うって。君が上手いんだよ。オレら言ったろ、君は上手いって」
 藤原が頷く。
 御堀が言った。
「仲間に恵まれなくったって、あれだけやれるんだ。君は上手い」
 行こう、と御堀にフィールドに誘われる。
 藤原はあまりに驚いて、混乱し始めたのに、頭の中はどんどんクリアになっていった。

(俺が、上手い?)
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