【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【18】治外法権~あこがれの先輩

男だらけの花いちもんめ

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時間は戻り、延長戦が始まる少し前のことだ。

後半戦の終わる間際、ギリギリで点を入れられた藤原のチームは話あっていた。
こういう場合、入れたほうに勢いがついているので大抵試合としては、追加点を入れたほうがそのままの流れで勝つことが多い。
藤原はがっかりしながら言った。
「やっぱり、ハナの奴つえーっす。こういうとこなんす、俺がかなわないの」
幾久はスポドリを飲みながら藤原に言った。
「しょんぼりすんな。そんなんじゃ勝つものも負けるぞ」
絶対に勝つつもりの幾久はそう言うも、藤原は言う。
「でも、俺、これまで一度もハナに勝ったことないんす」
すると幾久が言った。
「昨日まで勝てなかったからって、今日負ける理由にはならないだろ」
幾久の言葉に藤原が驚き、御堀がふっと笑った。
「確かに、今日は今日だし」
「そうそう、オレらが組むのも今日初めてだろ。一度も負けたことねーチームじゃん」
幾久の言葉に御堀が声を上げて笑った。
「確かに!今日初めて組んだチームなら、負けたことないしね!」
「そーそー負け知らず」
藤原は先輩の言葉に呆れて言った。
「……勝ったこともないじゃないっすか」
御堀が言う。
「勝てばいいんだよ、勝てば」
「そうそう。勝てばいいの勝てば」
頷きながら幾久も言う。
藤原は、弱音を吐いた自分が馬鹿みたいに思えて、いつも言っては笑われることを、二人の前で言った。
「……百点」
ん?と御堀と幾久が藤原を見つめた。
藤原は意を決して、二人に宣言した。
「俺、百点!ぶちこみます!」
御堀は藤原の言葉に笑った。笑われた、やっぱり。
藤原が落ち込むと、御堀は藤原が想像もしなかった事を言った。
「その意気込みいいね」
御堀が言うと、幾久も頷く。
「じゃあ一人三十三点ずつ?」
「延長戦は5分で三百秒だから、十秒につき一人一点以上入れればいける」
「あーそう聞くとなんかわりといけそうな」
「だろ?」
なんだこの人たち。藤原は呆れた。
(鳳と、鷹だぞ?)
間違いなく市内のトップ二十、鷹を入れれば百位も硬いはずなのに、いつもなら馬鹿にされる藤原の言葉に納得している。
(これが、鳳の余裕か……ッ)
いつも百点入れるという藤原にみんな笑っていたのに、馬鹿にする意味でなく笑う人は初めてだった。

だから藤原は叫んだ。
笑われたってかまわない、できるんじゃない?そう言ってくれた人が二人もいた。
あんなにサッカー上手い二人が、藤原を認めてくれた。だったら、応えないと。百点絶対に入れないと。
幾久と御堀は、藤原のミスを見越した上で、絶対に自分でゴールを入れない。藤原にばかりチャンスを与える。
時間はすでに5分近く経過。まだどちらにも点は入っていない。
藤原は必死にボールにくらいつき、何度もゴールに挑戦する。
はいつくばってもボールを奪おうとする藤原は泥だらけでみっともない。
「百点!百点入れるぞおおお!」
そう叫びなら何度もゴールを狙う藤原に、笑いが起きる。だけど藤原の耳には届かない。
何度もゴールに向かううち、時山にボールを奪われる。
だが、時山が奪ったボールを幾久がすぐに取り戻し、御堀へパスでまわした。
審判が時間を確認する。
多分、このプレイで試合は終わる。同点で終わればPK戦、難しくてもチャンスはある。華之丞はそう思ってしまった。

御堀のボールを貰う為に、藤原がゴールに向かって爆走した。
つんのめって転ぶのではないか。
そのくらいの勢いで。
御堀が藤原に向かってパスをまわす。
幾久が怒鳴った。
「藤原!いっけえ!!!!!」
「あと百点!!!!!」
藤原も怒鳴った。
その台詞に爆笑がおこるも、結局は藤原のシュートが決まり、勢い藤原はゴールに突っ込んでしまった。
かっこ悪くて笑われているのに、藤原はそんなこと気にもせずに、這いつくばってもすぐ持ち場に戻ろうとする。
「次!」
叫ぶ藤原に華之丞は苦笑した。
(勝てるわけ、ねーか)
あと一点もぎ取る。華之丞はそういった。
なのに藤原と来たら、百点取るって。
たった5分で。
取れるわけねえだろ、馬鹿かよ。
昨日までの、いや、この試合をする前の華之丞だったら笑って馬鹿にしていただろう。

でも、だからこうして負けた。

ピッ、ピッ、ピ―――――ッ。
試合終了のホイッスルが響く。

藤原のチームが勝利した。華之丞は、負けたのだ。

藤原は何がおこったのか判らず、フィールドに腰を抜かしたまま呆然としていたが、自分たちが勝ったと知ると、両手を挙げて叫んだ。
藤原の頭を何度も幾久や御堀がばしばし叩いた。
よくやった、そういわれて笑う藤原は誰よりも誇らしそうだ。
(―――――いいなあ)
華之丞は素直にそう思った。
勝てていいな、褒められていいなあ。
だけど自分にその実力は無かった。
がっかりとして立ち上がれない。
いつまでも座ってるなんて、傷つきましたアピールかよ。
負けた相手チームに、そう思っていた自分に笑いさえこみ上げる。
違う。
自分の無力さに呆れて、力がわいてこないんだ。
(これが、負けるってことか)
本気でやって、本気で負けた。本気で力を出し切ったから、立つ力さえ残っていないんだ。
座り込んだ華之丞に、手が伸ばされた。
見上げるとそこに居たのは幾久だった。目にはもう、華之丞を責める色は無い。
「……あざ、す」
幾久の手を取り立ち上がった。
はあ、とため息を出てがっかりと肩が落ちた。
華之丞に幾久が言った。
「いまの試合は、かっこよかったじゃん」
「―――――負け、たけど」
「勝つときは多少汚くてもいいが、負けるときは美しくなければ駄目だ」
幾久が言うと、華之丞が笑った。
「クライフだ」
「そう」
オランダの名選手でもあり、バルセロナの名監督でもある、ヨハン・クライフの名言だ。
華之丞は首を横に振った。
「だめっす。やっぱ負けは負けだし、俺はちっとも美しくなかった。かっこわりい」
そして藤原を一瞥して言った。
「あいつはダセーし必死なの、みっともねーって思ってたけど。でも勝ったからスゲーっす」
そしてもう一度ため息をついて肩を落とす。
「俺が負けたのは当然っす」
なにも見えていなかった。だから負けた。これまでの華之丞の勝利は、全部藤原のお陰にすぎなかった。
「出直します。いろいろ、なんか」
そう華之丞が何か言おうとすると、ぼろっと涙がこぼれた。
なんだこれ、みっともねえ、藤原なんかに負けて泣いてんのかよ。
慌てる華之丞を幾久が抱き寄せた。
「よく頑張ったな、ノスケ」
そう言って頭を叩かれた。華之丞は幾久の肩に顔をうずめ、何度も頷いた。



藤原は喜びのあまり興奮しすぎて、おまけに必死に走りすぎたせいでリバースしそうになって水場へ走り抜けていった。
選手が隣についていったが、興奮しすぎただけで吐けば落ち着いたらしい。
時山と組んでいたケートスのキーパーが御堀に近づいて握手を求めた。
「みほりん、挨拶したいってさ!」
「いいですよ」
そういって互いに握手する。
遊びのゲームとはいえ、プロからゴールを奪ったのは十分自慢になる。
藤原にはいい自信になるだろう。
「君たち上手だったね。元ファイブクロスと元ルセロだって?」
御堀は頷く。
「ほんと、ずりー強さっしょ?」
時山が言うので御堀が答えた。
「おかげで楽な試合させてもらいました。あ、間違えた。楽しい試合でした」
いつも時山にしてやられているので御堀が言うと、キーパーの人の頬が笑顔のままゆがんだ。
時山が苦笑いで言った。
「わざと間違えたよな?誉ちん」
「いつもの仕返しです」
キーパーの選手が言った。
「ほんっと、鳳って何年たっても変わんねー!いやーな奴ばっかり!」
どうやら報国院のOBだったらしい。御堀は言った。
「先輩ならそういっていただけたら」
「手加減してくれた?」
選手が言うと御堀はにっこり微笑んで言った。
「もっと叩き潰したのに」
御堀の言葉にキーパーと時山が言った。
「ね?見たでしょ?これが鳳のメンタルよ?燃やしつくすの、ひどい」
「ほんっと鳳は鳳だわ。おれやっぱ嫌い」
「僕は好きですよ?勝たせてくれてありがとうございました」
御堀の言葉に時山とキーパーは同時に「性格わるーい」と言い返した。

いつのまにかギャラリーはかなりの人になっていた。
選手や生徒が入り混じり、御堀や時山の試合を拍手して称えた。
「どっちともがんばったなー」
「よくやったぞー!」
口笛が飛んだりもしているが、御堀は苦笑した。
「ヒーロー不在で褒められてもね」
「よく言うぜ。わざわざ二人がかりでヒーローに仕立てあげてやったくせに」
時山の言葉に御堀が微笑んだ。
「僕らはちょっと手助けしただけですよ。彼、本当に上手だったじゃないですか」
多分、この試合でもずいぶんと成長したはずだ。
なんたって、自分と幾久についてこれていたし、幾久のやや激しいパスにもちゃんと応じていた。
「そうなんだよな。ちゃんと上手いのにメンタルとか張り切りすぎとか」
「きっと今日で変わりますよ」
今日の藤原を見たら、茶化す人もいなくなるだろう。御堀の言葉にキーパーも時山も、微笑んだ。
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