【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【18】治外法権~あこがれの先輩

サッカー選手になりたかった

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 御門寮に無事帰った面々は、今日あったことを互いに報告しあっていた。
 夕食をダイニングで取り、片付ける栄人を一年生が手伝いつつ、コーヒーを用意する。
 その間に喋りながら互いの情報交換するのが、最近の流れになっていた。
 今日の学校案内では、高杉も久坂も、実は幾久達のサッカーをしっかり観察していた。
 しかも、御堀と幾久が寮を尋ねられ、「恭王寮」と答えた時には笑いが止まらなかったらしい。
「お前ら、ああいう嘘つくんじゃの」
 高杉の言葉に久坂が笑う。
「ずいぶん御門らしくなったみたいだね」
 幾久がコーヒーを準備しながら言った。
「一生懸命で良い子なんすけど、御門じゃないかなって。来たら苦労しそう。オレみたいに」
「別にいっくんが恭王寮に行ってもいいよ?」
 久坂が幾久に言うと、幾久は首を横に振った。
「ぜってぇ行かないっす。オレ、御門っこなんで」
 藤原の成績はわからないが、瀧川に案内されていたことを考えると、そう悪い成績ではないのだろう。
 だとしたら、良ければ桜柳寮、そうじゃないなら朶寮か。
 ただ、どちらの寮も、あの藤原とはカラーが違う気がする。
「あの子って、恭王寮か、もしくは敬業かなあと。でも敬業もなんか違う気がするし」
 幾久のコメントに御堀も頷いた。
「確かにちょっと暑苦しいタイプだよね」
 幾久も言う。
「ああいうタイプ、恭王寮で不足してたじゃん。御門は枠が埋まってるし」
「俺か。俺のことなのか」
 話を聞いて他人事とは思えなくなった児玉が言うも、あえてそこには突っ込まない。
「ヤッタとは相性よさそうだよ。ヤッタは間違ったこと言わないし、藤原君はヤッタに従ったらうまくいきそう」
「僕もそう思います。あのタイプなら、弥太郎君がうまく扱えるんじゃないかと」
 幾久と御堀の言葉に、高杉も「なるほどのう」と楽しそうだ。
「でもさ、だったら御門寮どうすんの?新しい一年生、誰も目をつけてこなかったの?」
 久坂の問いに、全員が目を合わせた。
 幾久が言う。
「ハル先輩、二人も連れてたじゃないっすか」
「案内しただけじゃし、これといって特徴はなかったぞ」
 久坂を見ると、久坂もテーブルにひじをついてあごを載せた。
「僕のほうも不作かなあ。悪い感じじゃなかったけど、桜柳タイプかな。タマ後輩は?」
「俺は習い事の後輩案内したんすけど、あいつのレベルならクラスは間違いなく鳩っすよ。敬業紹介しときました」
「……ってことは、誰もスカウトしてこなかったってわけ?」
 久坂が言うと全員が顔を見合わせた。
「御門寮、ひょっとしてもう終わりとか。一年坊主どもの役立たず」
「瑞祥先輩が拾ってこないからっすよ。オレはちゃんとタマと誉、拾ってきましたもん」
 幾久の言葉に御堀と児玉が顔を見合わせた。
「僕ら、幾に拾われてたの?」
「そうみたいだな」
「だからオレはもうおしまい!お仕事はちゃーんとやりました!二年の先輩の尻拭いはとっくにやってまーす。あとはみんな頑張って」
「ったく、生意気ばっかり覚えたの」
 高杉が呆れると幾久が言った。
「先輩らのが移ったんで、オレのせいじゃないでーす」
「教育しなおしかな?ね、ハル」
「そうじゃのう、瑞祥、ぼちぼちしつけ直しがいるかの」
 立ち上がる久坂と高杉に、幾久が言った。
「あ、オレの変わりはこの二人がしますんで」
「えっ」
「ちょっと幾」
 ところが、言われた久坂と高杉は顔を見合わせた。
「そりゃエエの」
「いっくんよか面白そう。よし、表に出ろ二人とも」
 慌てたのは児玉だ。
「ちょ……、やめてくださいよ!すぐそうやって!」
「僕、戦闘担当じゃないんで児玉君に丸投げします」
「誉!お前逃げる気か!」
「そう。僕そっち担当じゃないし」
 御堀が言うと、久坂と高杉がじりじりと近づいてくる。
「よし児玉、しょうがないお前だけでエエ。外出て相手しろ」
「一年代表、頑張ってね」
「嫌ですってば―――――ッ!」
 児玉が逃げ出し、久坂と高杉が後をおいかけだした。
 食後の運動といったところだろうか。
「あーあ、あの二人はまったく」
 呆れながらも栄人がいつものように片づけている。
 幾久は、多分夜に山縣がコーヒーを飲むだろう分を入れなおすことにした。


 こうして、御門寮には御門寮の時間が流れてゆく。
 幾久はコーヒーを支度しながら栄人に尋ねた。
「栄人先輩、去年はどんな感じだったんすか?一年生、入れる予定なかったんでしょ」
「そうだねえ。赤根との事があって、みんな疲れてて、なんか希望とかなくってさ。もう今のままでいいじゃん、みたいな空気はあったね。いきなり寮がなくなることはないだろうし、おれらが三年まではここに居させてもらえるだろう、くらいしか考えてなくて」
 よく知った幼馴染と、特に関わってこない、高杉を心酔する山縣。
 三年生も存在したが、卒業が近いとあって、そこまで寮の存続に関わってはこなかった。
「そのうち誰か呼ぶか、来るだろーみたいな感じでさ。でも雪ちゃんが恭王寮に引っ張られちゃったからねえ」
 けっこう急だったんだ、と栄人は笑う。
「雪ちゃんが寮を仕切ってたからさあ、なんかどーしようみたいにもなったけど、ハルが急にいっくん呼び込んで、その後はあれよあれよで人が増えたろ?だから面白いなーって今は思ってる。もし焦ってさ、一年増やしてたりしたら、今こんな風にはなってないだろ?」
 栄人に幾久も頷く。なにもかも、この御門寮の一年生は幾久含め、イレギュラーの人選だ。
「だからさ、とりあえず暫くは、流れに任せたらいいんじゃない?ロミジュリも成功してるわけだし、ああいうの見て希望する子もいるかもだし、なにをどう見て人が来るのかはわかんないよ」
「そうっすね」
 幾久もその不思議さは思う。
「なんとなく似合う子がきっと惹かれて入ってくるよ。タマちゃんやみほりんみたいにさ」
「―――――ですね」
 御堀はそういって笑い、頷いた。
 幾久も、そうかもな、と思って微笑んだのだった。


 食事を終え、入浴を済ませ、布団にもぐりこんで暫く、幾久は目が冴えてしまっていた。
 児玉はとっくに眠っていて、すうすう寝息を立てている。
 ごろん、と何度も寝返りを打つが、どうも寝つきが悪い。
 その理由を、幾久は判っていた。
 どうしようか、と考えて悩み、さらに十五分過ぎたところで、幾久は諦めた。
(駄目だ。やっぱ眠れねー)
 ふう、とため息をつくと眼鏡をかけ、スマホを持って幾久は布団から立ち上がった。

 真っ暗な御門寮の中を静かに歩く。
 そっと歩いていき、幾久は御堀の部屋の前で立ち止まった。
 小さく扉をノックする。
「―――――誉。おきてる?」
 つぶやくと、部屋の中から、足音が聞こえた。
 静かに扉が開く。
「幾?どうしたのこんな夜中に」
 まだおきていたらしい御堀に、ほっとして幾久は頷く。
「……ちょっと」
 その雰囲気に、御堀はなにかあるな、と気づき、幾久を部屋の中に招き入れた。
「ごめん。寝てただろ」
「本読んでたから、起きてたよ」
 そういってスペースを開けてベッドを叩いた。
「入りなよ」
「……うん」
 御堀は枕をひとつ、幾久に渡し、幾久は受け取るとベッドに入った。
 ベッドボードに枕を置き、二人はベッドにもたれる形で並んだ。
「今日の試合さ、面白かったよね」
 幾久が言うと御堀も頷く。
「確かにすごく面白かった」
 幾久と御堀にとっては、本当に久しぶりの試合形式だった。
 いつもは互いだったり、たまに時山が混じったりと遊ぶばかりで、フットサルみたいな形式とはいえ、試合らしい試合は久しぶりだった。
「キーパーが選手っての、良かった」
「うん。プロとやれるの楽しかったね」
 幾久も御堀もユース出身で、普通のサッカー少年よりはよっぽどプロと関わる機会は多かった。
 だけどユースにもサッカー部にも所属していないのに、プロと出来ることは絶対になかった。
「今日、運が良かった」
 幾久が言うと御堀も頷く。
「そこは華之丞君のお陰だよね」
 ユースを見たいといったのは幾久だったが、華之丞のことがあったからこそ、あそこまでの試合になった。
「藤原君、上手かったし、ノスケも凄かった」
「そうだね。あと時山先輩のチームにいた中2の子、あの子もあの年齢じゃ、やるほうだよね」
 華之丞と組んでいたのは、とら、と呼ばれる中2の子で、体はまだ成長の途中だが、かなり技術はあるほうだった。
 だからこそ、華之丞がチームに呼んだのだろう。
 幾久が言う。
「ちょっと小さいけど、技術あったね。きっといつもノスケと組んでんだろうなって。ノスケと息あってたし」
 話を続ける幾久の手を、御堀が握り、尋ねた。
「で、幾は、どうしたの?」
 驚く幾久に、御堀は優しく微笑んで尋ねた。
「なにかあったんだろ。聞くから、言いなよ」
 幾久には恩がある。きっと今日、試合でなにか思うことがあったのだろう。
 妙に夕食のときにはしゃいでいたのも気になっていた。

 幾久の手を握りなおし、ロミオとジュリエットのときのように、恋人つなぎで握りなおすと、御堀は言った。
「僕らの仲だろ。言って」
 御堀の言葉に幾久は少し噴出すと、御堀の肩に、頭を乗せた。
「オレさ、ユースに居たって言ったじゃん」
「うん」
 幾久が所属していたのは、御堀や時山のように、2部リーグのクラブではなく、日本でもトップクラスどころか、アジアでもトップを競うほどのチームだ。
「中学入る前に落とされて、でも、ユースじゃなくったって、本当は部活でも入れたんだ」
 幾久が所属したのはプロの育成機関で、プライマリと呼ばれる小学生の間はそこに所属していた。
「地元にサッカーチームあったし、ユースは落ちても、頑張れば高校生くらいには、そこそこのサッカーの名門チームには所属できるかも、でもレギュラーは難しいかもって言われてさ」
「うん」
「―――――母親に、そんな無駄なことやめろ、どうせプロになんかなれっこない、なったとしてもろくな将来じゃない、勉強しなさい、って言われてさ」
 御堀は幾久の手をぎゅっと握り締めた。
 幾久が傷ついているのが判ったからだ。
「……オレ、本当は、自分でもずっとわかんなかったけど」
「うん」

「本当は、オレ、本気でサッカー選手になりたかった」
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