【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【19】通今博古~寮を守るは先輩の義務

君はまだ、本当の寮(運営)を知らない

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 学校説明会も無事(?)終わり、冬休みに入る週となった。
 試験も終わったし、あとは休みをどうすごすか、そんな事ばかり話している。
 そして幾久にとって最も大切なことがある。
 年末、寮はどうなるのか、だ。
 夏休みは本来、寮を出なくてはならないが、人数の少ない御門寮は特別に所属しててもよく、盆休みの間だけ、幾久は東京に戻っていた。
 だが、冬休みの事までは聞いていない。ので、幾久は先輩である栄人に尋ねた。
「栄人先輩、冬休みってやっぱ寮、閉じられるんすか」
「そーだよ」
 あっさりと答えられ、幾久はがっかりした。
(えー、やっぱ東京に戻るしかねーのか)
 御門寮大好きな幾久としては、できればずっと寮に居たい。
 年末年始をこの寮で、ごろごろ過ごせたらどんなにいいだろうと思っていたのに、世の中はそんなに甘くなかったらしい。
「じゃあ二週間、みんないないんすか?」
「二週間?いんや?三日だよ」
「三日!」
 幾久が驚くと栄人が頷く。
「うちは規模が小さいっしょ?だから麗子さんがお休みのときだけ。麗子さんは五日間休みだけど、別にその前後一日は居てもOKなんだー」
「いつ!いつなんすか、その三日間は!」
「大晦日と一月二日まで」
 麗子は十二月三十日から、一月三日までお休みになるのだそうだ。
 しかし、前後一日が問題ないのなら、大晦日から一月二日の三日間、わざわざ東京に帰らなくてもいっそどこかのホテルかなにかで過ごせないか。
 幾久が考えていると、久坂が言った。
「ああそうだ、いっくん、年末は東京に戻る予定はあるの?」
「ないっす」
 むしろあっても帰りたくない。
 幾久が答えると久坂が言った。
「もしよかったら、ねえちゃんがうちに泊まれってさ」
「マジっすか!マジで?!いいんすか?!」
「むしろ来て欲しいみたいだよ。いっくんに会いたいんだってさ」
「うわー!行きます!是非!お邪魔したいっす!」
 東京に戻らずに済むならラッキーだし、六花の家なら手料理が食べられる。六花は料理を麗子さんに習っただけあって、味付けが麗子さんと全く同じで、寮のごはんが大好きな幾久にとってはもうひとりの寮母さんのようなものだ。
「じゃったらついでじゃ。トシを手伝っちゃれ」
 高杉が言うと、幾久が首をかしげた。
「トシ?」
 すると栄人が言った。
「夏祭りのときみたいに、祭事部が年末は出るんだよ。大晦日から新年にかけて、初詣があるだろ?」
「あ、そっか」
 報国院は神社の敷地内にあって、しかも校門が鳥居だ。
 勿論、神社の祭事には関わることも多い。
「ウィステリアの女子も巫女さんでバイトするって言ってたし、おれも夜店で参加するし。トシはたぶん、報国の連中をまとめる役目だろ?」
 栄人が言うと、高杉が頷いた。
「そうじゃ。年末で人手が足りんと殿が言うちょったからの。どうせなら手伝っちゃれ」
「それは全くかまいませんが、何すればいいんスかね」
 幾久が言うと児玉が答えた。
「初詣の前にテント張ったり、あとマスターが餅つきするって言ってた」
「餅つき!」
「俺も祭示部には参加するからさ、なんも心配ねーって」
「そっか。タマ居るなら安心だし、餅つきって楽しそう」
 東京に戻る必要がないのなら、楽しいばかりの冬休みだ。
「でもさ幾久、年末の前に忘れてないか?」
「忘れるって、何を?」
 幾久の答えに児玉がやっぱりな、と苦笑する。
「ライブだよライブ。グラスエッジの」
「あー、そういやそんなのあったね」
 幾久の言葉に児玉が再び苦笑する。
 御門寮出身の先輩が所属している、若者に大人気のバンド、グラスエッジだが、この冬にツアーを組んでいる。
 当然、大ファンの児玉は行く気まんまんで、すでにチケットも取っている。
「俺は恭王寮の奴と一緒に行くつもりで、チケットも一緒に取ってるけど」
 幾久はグラスエッジのメンバーである先輩達に猫かわいがりされている、だけではなく、その中でも最も支配権のある、キーボードの青木の寵愛を受けている。
 青木の大尊敬する杉松に、幾久が似ているのがその原因らしいのだが、いまではすっかり幾久の下僕のようなものだ。
 当の幾久は、「めんどくさい」とけんもほろろな扱いをしているのだが、青木はそれでも幸せそうにしつこく幾久に連絡をとっている。
「一応、宮部さんに行くとはいったけど、チケットのことまでは聞いてない」
「まあ、お前だったら青木さんが即効席を用意しそうではある」
 児玉も頷く。
 すると、めずらしく御堀が言った。
「そのグラスエッジのライブさ、僕も行けるんだよね?」
「え?うん、多分」
 宮部いわく、もし友人がいたら連れてきてもいいよ、と言ってくれていたので、最初は児玉を誘ったのだが、児玉は自分で行くからとチケットを断ったのだ。
「だったら、僕、行きたいな」
 御堀が言い、幾久と児玉は驚いた。
「え?御堀、お前、ロックなんか聴くのか?」
「別に無理して付き合わなくていいよ」
 そう言う二人に、御堀は笑った。
「いや、音楽じゃなくて、成功している先輩とお話したくてさ」
「あー、そういう事ね」
 高校生でありながら、上昇志向の御堀はつきあいや関わりを重視する。
 チャンスがあればのっかっておこうという事だろう。
「なーんかほんと、誉ってばお金先輩にそっくりになってきた。名刺作ったりしてんの?」
 幾久の問いに、御堀は考えて頷く。
「確かに、そろそろそういったものがあったほうがやりやすいね。事業の立ち上げも高校生なら話題になりそうだし」
「うわ、テレビに出そうなこと言ってる」
 児玉が言うも、御堀は返す。
「必要ならいくらでも出るけど、テレビって案外、そういう効果ないんだよ」
 幾久は御堀の言葉に驚いた。
「そうなの?テレビに出たらなんかスゲー儲かったり話題になったりしそうなのに」
 放映されたドラマが原因で、長州市に来た幾久にとってはテレビは影響力のあるツールだという認識だったのだが。
「うちの店も、何度も出ているけど全国区でアイドルが紹介するとかならともかく、ローカルじゃ一瞬で終わりだよ。それを言うなら、僕だって報国院の入学のときにローカルで出たけど、そこまでじゃないだろ?」
 言われて見れば、確かにそうだ。
 報国院は古くからある、地元ではそこそこ有名な私立高校なので、入学式の時にはローカルのテレビが取材に来て、首席入学の生徒がインタビューをうけると決まっている。
 幾久も御堀をなんとなく覚えていたのは、そのインタビュー動画を見たからであって、しかしだからといって校内で御堀を認識していたか、といえばそこまでもない。
 地球部の部活を始めて、紹介されてからやっと、といった感じだ。
 幾久は今更、春に高杉に、乃木神社で言われた言葉を思い出した。

『人ってな、案外、自意識過剰なんじゃ』

(確かにそうかもしれないなあ)
 テレビに出たら、出たほうはすごい!と思うかもしれないが、実際出て見たら一瞬で流れてしまう映像だ。
「うーん、やはり全国区でないと駄目か。サッカーと同じか」
 幾久が言うと、児玉が「またサッカーかよ」と笑った。
「ところで、来年誰が御門寮に入るかっていうの、判るんすか?」
 幾久が先輩達に尋ねると、高杉が頷いた。
「勿論。報国寮や敬業寮みたいに人数が多いと把握が難しいからそこまでのチェックはねえが、うちみたいに割りと規模の小さいところは全部提督がチェックする」
「選んだりできるんですか?」
 御堀の問いに高杉が頷く。
「できる。たとえば、見知っちょる奴だったり、兄弟でも仲が悪かったりとあるのなら、本人の希望だったり寮の采配で変えることもあるぞ」
「状況でも変わってくるしね。恭王寮なんかもそうだろ?」
 久坂が言うと、児玉が頷いた。
「入江の二年の兄貴と、服部も恭王寮に移りましたもんね」
 児玉と他二名の一年生が抜けてしまったので、変わりにその二名が配置されたのだが、うまくやっているらしい。
 服部はメカマニアだったが、戦闘機のマニアでもあったらしく、恭王寮に入ってからは資料室から出てこないらしい。
「恭王寮は元々旧皇族から下賜されたもので、戦闘機乗りの人の資料が大量にあるらしいから」
 久坂が言うと児玉が頷く。
「恭王寮の奴に聞いてます。誰も手をつけてなかったけど、服部が入って全部まとめたり調べたりしてて、すげえって」
 児玉は恭王寮を出てから、恭王寮の面々と仲良くなったらしく、頻繁に話をしている。
 勿論、弥太郎も幾久と一緒に居ることが多いので、幾久も恭王寮の情報は入ってくる。
「桜柳寮は本が多かったけど、そこまで詳しくは知らないな」
 御堀が言うと、高杉が尋ねた。
「桜柳寮は本を置いていく伝統があるんじゃったの」
「はい。卒業時に記念に持っていっても良いことになってるんですけど、持っていく人は少ないみたいで」
「そういや桜柳寮の桜柳祭での出し物って、古本屋だったよね」
 桜柳祭では、各寮ごとでも出展していて、それぞれが寮のカラーに似合った店を出していた。
「先輩が面倒で大量に本を置いたままにしておくことがあるんだって。だから在庫処分」
 寮での売り上げは寮の維持費にまかなわれる。今回の桜柳寮の売り上げは本棚に変わることになり、周布らが卒業制作の一部として作っている最中らしい。
「そういやウチはなにしたんすか?」
 幾久は地球部の活動に集中していて、そういったことに関わっていなかったことに今更気づく。
 高杉が呆れて言った。
「説明したじゃろう。映像研究部と合同でブロマイド撮影。あれがウチの出し物じゃ」
「……そういえば」
 そういやそんな説明を受けたな、と今更幾久は思い出す。
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